桜才学園での生活   作:猫林13世

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意外と忘れがちになることも


洗濯する側への配慮

 そろそろ夏休みも終わりで練習の時間も減ってしまう。なので残りの期間はいつもより少しきついメニューで練習をこなすことにした。

 

「ほらほら、バテるの早いよ」

 

「体力お化けと一緒に扱うなよな……私たちは普段のメニューでもギリギリなんだから」

 

「でも、せっかく時間があるんだから、少しでも多く練習したいじゃん」

 

「そこまでガチなのはお前だけだっての……私たちはそこまで必死になって練習して強くなりたいとか思ってないし」

 

「そうなの?」

 

 

 てっきりみんなも全国優勝を目指してるのかと思ったけど、どうやらそこまでの熱意はないみたい。

 

「そもそもウチの部で全国が狙えるのはムツミとトッキーくらいだろ? 私たちは県大会まで出られれば十分って感じだから」

 

「だから、そこ以上を目指そうよ」

 

「柔道馬鹿だから仕方ないのかもしれないが、それを私たちにも求めないでくれ……一年たちなんてすでにヘロヘロなんだぞ」

 

「え?」

 

 

 チリに言われて道場を見渡すと、そこらじゅうで部員たちが倒れている。どうやら体力の限界を迎えていたようだ。

 

「仕方ないな。それじゃあ今日はここまで」

 

「お疲れ様でした」

 

 

 挨拶をしてみんながのろのろと立ち上がる。そこまで厳しいメニューにした覚えはなかったんだけど、どうやらこれでもキツイらしい。

 

「みんなまだまだだなぁ」

 

「そんなこと言ってるムツミだって、だいぶ汗掻いてるだろ?」

 

 

 チリに言われて自分の身体を見ると、かなり汗を搔いていた。

 

「やっぱり夏は汗を掻くよね。汗でシャツが脱ぎにくくなってる」

 

「濡れると脱ぎにくいですよね」

 

 

 私の言葉にコトミちゃんが同意してくれる。彼女はマネージャーだからそこまで汗を掻くこともないんじゃないかとも思ったけど、結構汗を掻いているようだ。

 

「お漏らしした後のパンツとか」

 

「それって昔の話で良いんだよな?」

 

「てか、コトミは相変わらずだな」

 

 

 トッキーとチリと一緒にシャワー室へ向かいながら、コトミちゃんとおしゃべりする。何気ないところからタカトシ君の情報が聞けるので、コトミちゃんとのおしゃべりは楽しい。

 

「あー疲れた。とっととシャワー浴びて帰ろうぜ」

 

「こら。シャツはちゃんと脱ぎなさい。裏返しにしてたらコトミちゃんが大変でしょ。トッキーみたいにちゃんとしないと」

 

「へーい」

 

 

 他の部員たちに注意していると、トッキーが不思議そうに自分のシャツを眺めている。

 

「どうかしたの?」

 

「いえ、何でもないです」

 

「?」

 

 

 タカトシ君ならトッキーが何を考えているのか分かったのかもしれないけど、私には分からない。

 

「というかムツミ」

 

「なに?」

 

「ちゃんと宿題はやってるんだろうな?」

 

「宿題?」

 

 

 何を言われているのか一瞬理解できなかった。だがチリが言っている意味が理解でき、私は一瞬で青ざめる。

 

「すっかり忘れてた!? どうしよう、もう一人で終わらせられる気がしないよ」

 

「そういうことなら、今日タカ兄が生徒会室にいますから、質問しながら進めればいいんじゃないですか? 主将のことですから、夏休みの宿題を教室に忘れてるとかありそうですし」

 

「さすがにそんなことは――」

 

「あっ」

 

「あるのかよ!?」

 

 

 チリが派手にリアクションしてくれたおかげで笑い話になっているが、私は笑えない。宿題をすることを忘れていただけでなく、持って帰るの自体を忘れていたのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室で作業していたら三葉が部屋に飛び込んできて頭を下げてくる。

 

「タカトシ君、宿題を教えてください!」

 

「コトミは終わらせているが、三葉が忘れてたとはな」

 

 

 今日は俺以外いないので三葉を隣に座らせ、とりあえず宿題をやらせる。分からない箇所があれば聞いてくれとは言ったが、最初から最後まで分からないとはな……

 

「普段授業中は何してるんだ?」

 

「ちゃんと聞いてるけど、たまに睡魔と戦ったりしてる」

 

「聞いてるだけじゃなくてちゃんとノートに取ったりしなきゃ駄目だからな」

 

「分かってるんだけどね……」

 

 

 三葉に解説用のノートを渡して、それでもわからなかったらまた聞いてくれと言って作業を再開。三十分ほどは三葉もノートを見ながら宿題を進めていたのだが、それ以上は進めなくなり再び声を掛けられる。

 

「タカトシ君、この問題なんだけど」

 

「どこ?」

 

 

 三葉から問題の個所を聞き、俺はノートに詳しい解説を書き加える。どうやらここまで嚙み砕いて教えないと三葉には難しかったらしい。

 

「これで解ると思う」

 

「うん、やってみる」

 

 

 三葉はコトミと違って説明してあげれば理解しようとしてくれる。できるかどうかは別だが、その気概は教える側としてもありがたい。

 

「これであってる?」

 

「途中で間違ってるが、考え方はあってる。後はケアレスミスを減らしていけば、次のテストで平均点くらいは採れるんじゃないか?」

 

「本当っ! ならもっと頑張らないと」

 

 

 三葉の成績は部活補正が無かったら補習になってもおかしくないレベル。それが平均点を狙えると言われればやる気になるだろう。三葉は解説用ノートを見ながら必死に宿題を進めていく。

 

「まぁ後は、このやる気が持続すればだがな」

 

「勉強に対する集中力は低いんだよね、私……」

 

「自覚して努力しようとしてるだけマシだよ、三葉は」

 

 

 コトミは自覚していて開き直っているからな……ほんと、三葉はだいぶマシだと思うよ。




ムツミもしっかり勉強しましょう

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