桜才学園での生活   作:猫林13世

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露天風呂とはちょっと違う


外でお風呂

 海で遊び倒した私たちは、七条家の別荘へ向かう。至れり尽くせりで申し訳ないが、これが無料で楽しめるのは嬉しいことだ。

 

「疲れた~」

 

「お前ははしゃぎすぎだ」

 

 

 本来の目的である宿題を片付けてからというもの、コトミはここにいる誰よりも海を楽しんでいた。先日暑くて動きたくないとか言っていたヤツはどこに行ったのか……

 

「お風呂入りたいな」

 

「お風呂ならこっちだよ~」

 

「外にあるのか?」

 

 

 さすがは七条家の別荘だ。まさかこんなところに露天風呂が――

 

「一度ドラム缶風呂に入ってみたくて」

 

「今日一のアウトドアだな」

 

 

――まさかのドラム缶風呂だった。だがまぁ、確かに機会がなければ入れないものではあるが……

 

「このドラム缶は大きいから、二人一緒に入れるよ~」

 

「だ、誰がタカ兄と一緒にっ!?」

 

「いや、女性陣で先に入って、俺は後で入ればいいだけだろ」

 

「誰の残り湯に入るんですか?」

 

「隅々まで洗って新しくお湯を張ってやる」

 

 

 出島さんからの質問に、タカトシは全く動揺することなく淡々と答える。こいつはこういうヤツだと分かってはいるのだが、全く興味を示されないのも面白くないんだよな……

 

「それじゃあ会長、一緒に入りましょう」

 

「じゃあスズちゃんは私とだね~」

 

「私は皆さまの食事を用意いたしますので後程」

 

「じゃあ私は一人風呂か」

 

 

 人数的にそうなってしまうのだが、横島先生は少し寂しそうな表情を浮かべる。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、結局一人かと思ってな」

 

「あぁ……」

 

 

 この人は最近「一人」という言葉に敏感になっているようだ。

 

「ドラム缶風呂って初めて入りましたけど、結構気持ちいいんですね」

 

「ちょうどいい湯加減ってこともあるだろうな」

 

 

 タカトシと出島さんが用意してくれたお湯だから、そこまで極端に熱かったり温かったりすることはなく、とても心地が良い。

 

「それにしてもコトミ」

 

「はい?」

 

「お前の兄は、本当に異性に興味があるのか?」

 

「あるとは思いますけどね。サクラ先輩とかと一緒にいる時は、結構普通な感じですし」

 

「やはり森なのか」

 

 

 タカトシと感性が似ているというのも大きいのだろうが、あいつは基本的に暴走することはない。だからタカトシも身構えることなく自然体で付き合えるのだろう。

 

「(中身を森に近づけることは難しいな……)あっ」

 

「どうしました?」

 

「いや、何でもない」

 

 

 つい考え事に集中してしまい、普段お風呂でしているバストアップマッサージをしてしまった。

 

「まぁ、以前より会長たちのこともちゃんと異性として見ているようですけど、どうしても監視対象になってしまうんでしょうね」

 

「そこまで暴走してないからな!?」

 

 

 たまにブレーキが壊れてしまう時はあるが、それでも以前よりもだいぶ大人しくなったと思っている。もう少し大人しくするか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七条先輩と一緒にドラム缶風呂に入っていたのだが、まさか水着を付けずに入ってくるとは思わなかった。

 

「だって、裸の付き合いっていうくらいだから」

 

「そういうのは室内のお風呂でやってください! というか、すでに一緒に入ったことあるでしょうが!」

 

 

 ここにいるメンバーとはすでに裸の付き合いをしたことがある。もちろんタカトシとはないけど、生徒会メンバーだったり、横島先生や出島さんとはすでに何回も一緒にお風呂に入ってるというのに……

 

「まさか風呂でビールを飲めるとはな」

 

「あんまり飲み過ぎると怒られますからね」

 

 

 隣のドラム缶でビールをぐびぐび飲んでいる横島先生にツッコミを入れるが、怒るのは私ではなくタカトシだ。

 

「出島さんも飲んでもいいよ?」

 

「ではお言葉に甘えて」

 

 

 そういって出島さんはコップを私たちが入っているドラム缶に近づけ、自然な流れでお湯を掬い取った。

 

「乾杯!」

 

「あ、あまりに自然な動きでツッコめなかった」

 

 

 普通なら止めるのだけど、出島さんの動きが自然過ぎたのだ。私のスキルではあの動作を止めることはできない。

 

「夏休みも終わったら、そろそろ生徒会長選挙だね」

 

「どうせタカトシの信任投票で終わりですよ」

 

「対抗馬がいない選挙というのも、盛り上がりに欠けるだろうがな」

 

「別に盛り上げる必要はないでしょ」

 

 

 前の選挙のように遊びで立候補する人も出てこないだろうし、次期生徒会長はタカトシで、私はそれを支えるつもりだ。

 

「そうそう、ここって綺麗に星が見えるんだよ」

 

「そうなんですか」

 

 

 急に話題が変わったが、別に気にする必要はないだろう。

 

「それじゃあ今夜は全員で星の観察をしましょう」

 

「コトミにしては珍しく勤勉じゃないか」

 

「実は、地学の宿題も忘れていたことを思い出しまして……」

 

「お前、タカトシに管理してもらった方がいいんじゃないか? 勉強だけじゃなく、生活とかいろいろと」

 

「これ以上タカ兄に負担をかけるのもちょっと……ただでさえ私の相手をしているせいで誰とも付き合えないというのに」

 

「自覚してるのなら、もうちょっとしっかりしなさいよね」

 

 

 タカトシが誰かと付き合うのは想像できない――いや、したくない。だって、私と付き合ってくれる可能性なんて殆どないだろうし、ライバルが強力過ぎるから。

 

「兎に角、これからはしっかりとするつもりなので、今日のところは宿題を手伝ってください……」

 

「一人でできないのか?」

 

「私じゃ、どれがどの星座かなんてわかりませんから」

 

「勉強しなさい」

 

 

 コトミに注意しつつも、この子がしっかりしない限りタカトシは誰とも付き合わないという考えが頭をよぎる。そんなこと思っちゃいけないんだろうけども、今はこのままの方がいいのかもしれないわね。




成長してるようでしてないコトミ……

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