コトミちゃんが美術の宿題を忘れていたということで、今日はウチが保有しているプライベートビーチにやってきている。メンバーはシノちゃん、私、スズちゃん、コトミちゃん、タカトシ君と引率で横島先生。そして運転手兼給仕として出島さんがいる。
「海だ!」
「泳ぐぞー!」
「お前は何をしに来たんだ?」
「一生懸命描く所存であります!」
浮かれて海に走り出したコトミちゃんの肩をつかみ満面の笑みを浮かべるタカトシ君。あの笑顔は見たくないんだよね……
「というか、今更ながらなぜ横島先生も?」
「高校生とはいえ引率がいた方が安全だろ?」
「出島さんがいますし、そもそも七条家のプライベートビーチですから危険もないと思いますが」
「まぁまぁタカ兄。これだけ綺麗どころがいるんだし、ストッパーとして――」
「むしろ率先して風紀を乱しそうよね」
コトミちゃんが横島先生のフォローを試みようとしたが、スズちゃんが一刀両断する。まぁ、このメンバーで考えれば、唯一の男の子であるタカトシ君が一番ストッパーとして機能するだろう。そしてここはウチのプライベートビーチ。横島先生が風紀を乱す行為に及ぶ可能性はないだろう。
「というか、いきなり呼んでおいて酷い言い草だな」
「文句があるなら来てくれなくてもよかったのですけど」
「呼ばれないとそれはそれで寂しいだろ」
タカトシ君が不機嫌なのを隠そうともしない態度で横島先生を切り捨てる。ぞんざいに扱われているのにも関わらず、横島先生は少し嬉しそう。
「あの、気が散るので静かにしてくれませんか?」
「おぉ、すまんな」
「しかし、いざ海を描こうとすると、青と白だけじゃ寂しい感じがしますね」
「だったら我々がモデルをするぞ」
コトミちゃんの絵を盛り上げるために私たちがポーズをとって見せる。
「モデルは嬉しいんですけど、描く手間を省くために水着を脱いでくれませんか?」
「ヌードモデルはしないからなっ!?」
「コトミ、お前自分の立場分かってるのか?」
「ご、ごめんなさい! ほんの冗談だから!」
タカトシ君に責められ、コトミちゃんは慌てて作業に戻る。とりあえずシノちゃんとスズちゃんにモデルを任せて私はタカトシ君の隣に移動する。
「いつもゴメンね?」
「どうしたんですか、いきなり」
「タカトシ君がいてくれるから、私たちはちゃんとやってこれてるんだなって改めて思ったから」
「はぁ……」
伝えたいことが上手く言葉に出来ないけど、タカトシ君はとりあえず分かってくれたようだ。もしタカトシ君がいなかったら、私たちはもっと酷いことになってただろうしね。
アリアさんが何を言いたいのかはおいておくにしても、いきなりお礼を言われたのには驚いた。
「(この人も一応反省してるんだな)」
てっきり打っても響かないのかと思っていたが、少しは心に響いてるようだ。
「それにしても、いきなり海って言われた時は驚いたぞ。慌てて水着を引っ張り出してきた」
「そうでしたか」
「だが、水着の下が見つからなくてな。パレオの下は何も――」
それ以上聞きたくなかったので、俺は横島先生を砂に埋める。顔以外を埋めておけばとりあえず大人しくしてるだろうし。
「コトミ様は下書きは終わって色塗りに入ったようですね」
「そのようですね」
「急に話しかけたのに驚いてくれないんですね」
「気配で分かりますから」
少し残念そうな出島さんを無視して、俺はコトミがふざけないように見張る。ここでふざけようものなら砂に埋めてそのまま放置しよう。
「コトミ様が色塗り中なら、私はオイル塗りを――」
ここで邪魔をされたらコトミの集中力が戻ることはない。俺はそう判断して出島さんも横島先生同様砂に埋める。
「あぁっ!?」
「ほんと落ち着きがないな、お前」
集中していたかと思っていたが、コトミは絵の具を自分の身体に垂らしている。もう少し筆遣いに気を付ければそんなことにはならないのに。
「でも水着にかかってないからセーフだよね」
「絵的にはアウトっぽいぞ」
「コトミちゃんがぶっかけられた感じになってる」
「さっき反省したんじゃないんですか?」
シノさんとアリアさんがろくでもないことを言い出しそうだったので視線と言葉で牽制する。というか、スズも少しは手伝ってほしいんだがな……
「(浮き輪を使って海に浮かぶのに夢中、か……)」
そもそもコトミ以外来る必要がないメンバーなので、実際所有者のアリアさんとその従者である出島さんとコトミだけで充分だったのだ。そこにシノさんとスズがついてきたのは、遊びたかったからだろう。
「できたっ!」
「お疲れ様~」
「まぁ、まともな絵に完成したようだな」
コトミが描いた絵を見てこれなら再提出を喰らうことはないだろうと感心していたのだが――
「皆様、すでに遊んでおります」
「憂いが無くなったとたんこれか……というか、アリアさんに出してもらったんですね」
「あのままでもよかったのですが、あの状態だと給仕ができませんので」
「自分の役目を自覚しているのでしたら、あのような発言は控えてください」
「あれくらいはお茶目の範疇ですよ。それを許すことで、男の度量を示せるではないですか」
「そんなもの示したくもありませんので」
「おい! 私も出してくれ!」
なんか足下から声がしたが、それは無視しておこう。この人は下を穿いていないから、帰るまでここに封印しておくのが一番だしな。
暫く埋まっていなさい