桜才学園での生活   作:猫林13世

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だらけたい……


だらけるコトミ

 本格的に暑くなってきて、私は毎日家でダラダラ過ごしている。柔道部の活動があるときは一応外出はするが、それ以外で出かけたくない。

 

「お邪魔します」

 

「あっ、かいちょー。いらっしゃい」

 

「随分とだらけているな」

 

 

 リビングでダラダラしているところを会長たちに見られたが、別に気にする必要はないだろう。だって、今更私がしっかりしてると思ってるわけもないし。

 

「たまには日光を浴びた方がいいぞ」

 

「浴びてますよー。でも、休みの日にそんなことしたくありません」

 

「そういえば、世間には日光をお尻にだけ当てる肛門浴ってのがあるらしいよ」

 

「よし――」

 

「何しに来たんですか、貴女たちは」

 

 

 シノ会長が何かを決心したタイミングで、タカ兄があきれ顔でリビングに入ってくる。

 

「少しはコトミにやる気を出させようと思って」

 

「くだらないことでやる気を出させないでくださいよ」

 

 

 それだけ言うと再びタカ兄はどこかへ行ってしまう。せっかくの夏休みだというのに、タカ兄は相変わらず忙しそうだ。

 

「それで、かいちょーたちは何しに来たんですか?」

 

「ちょっとやりたいことがあって、タカトシに場所を提供してもらったんだ」

 

「やりたいこと?」

 

 

 タカ兄は恐らく巻き込まれたくなかったのだろうが、この三人にお願いされると結局付き合ってあげている。誰が一番偉いのか分からない感じだけども、このメンバーはそれでいいんだろうな。

 

「これだ」

 

 

 会長が何かを取り出したのは分かったので、私は視線だけそちらへ向ける。

 

「それ、ジュースですか?」

 

「いや」

 

「なんだ」

 

 

 ジュースなら欲しかったけど、違うなら興味ないかな。

 

「シロップだ」

 

「かき氷だ!」

 

「ものすごい反応速度ね」

 

 

 つい一瞬前までくたばっていた私が超反応を見せたので、スズ先輩が呆れている。

 

「だってスズ先輩、かき氷ですよかき氷! この暑い中食べるのサイコーじゃないですか」

 

「まぁ、その意見には同意するけど、飛びつかなくてもいいんじゃない?」

 

「そういうスズ先輩も、意識がかき氷に行ってるんじゃないですか?」

 

 

 さっきから会長が出しているシロップをしっかりとみているのを私は知っている。

 

「でも、かき氷ならわざわざウチでやらなくても――」

 

「意外と重労働だから、タカトシに削ってもらおうと思って」

 

「まぁ、力仕事はタカ兄が担当ですしね」

 

 

 それ以外もいろいろと担当があるだろうけども、生徒会のメンバーはタカ兄以外女子だ。力仕事はタカ兄の担当になってしまうだろう。

 

「それじゃあタカトシ、頼むな」

 

「分かりました」

 

 

 洗濯を終わらせたのか、タカ兄がかき氷機を持ってきて早速削ってくれる。

 

「かき氷は嬉しいけど、削った先から溶けちゃってるわね」

 

「すみません、私の闘気で――」

 

「ただ単に暑いからよ」

 

「少しはノッてくださいよー」

 

 

 スズ先輩にあっさりと流されてしまったが、とりあえずかき氷が完成するまでは大人しくしてよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっという間に人数分作り終えたタカトシは、コトミの隣に腰を下ろして自分の分を食べている。

 

「タカ兄の抹茶味、一口ちょうだい」

 

「ほら」

 

 

 兄妹だから普通なのかもしれないけど、コトミはタカトシのスプーンでかき氷を食べる。しかも「あーん」までしてもらって。

 

「そういえば私、昔からタカ兄のものいろいろと欲しがってるな」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ。小さいころ男になりたくて『タカ兄の肉の延べ棒ちょうだい』って言ってました」

 

「お前は昔から変わってないんだな」

 

 

 コトミと会長が笑っているが、タカトシが鋭い視線を二人に向けている。それに気づいた二人は慌てて別の話題を探している。

 

「と、ところでコトミよ」

 

「な、なんですか?」

 

「夏休みももう後半だが、ちゃんと宿題はやってるのか?」

 

 

 とっさの話題変換だったが、確かにコトミにとっては大事な話題だっただろう。何時も最終日になっても終わってなくて泣き付かれているのだから。

 

「問題ありません。今年は前半にさっさと終わらせましたので」

 

「自分一人で終わらせたみたいに言うな」

 

「タカ兄とお義姉ちゃんに散々質問して終わらせました」

 

 

 誰もコトミ一人で終わらせたとは思っていなかったが、やはりその二人だった。魚見さん、やっぱりしょっちゅうこの家に泊まってるのね。

 

「コトミのことだから何か忘れてるんじゃないのか? 例えば美術とか」

 

「……美術の宿題忘れてました」

 

 

 会長がからかうつもりで言ったセリフで絶望しているコトミ。まさか本当に忘れていたとは……

 

「どうしよう……」

 

「写生にしたら? 私はそうしたわよ」

 

「写生ですか……」

 

 

 何を書こうか考えているのか、コトミが腕を組んで唸っている。この子が考えたところでろくな答えが出てこないと思ってしまうのは失礼だろうか?

 

「そうだ、海を描きたい」

 

「その理由は?」

 

 

 なぜ急に海を描こうと思ったのか気になったので尋ねる。

 

「青だけで簡単そうだから」

 

「あんたらしい理由ね」

 

「だがどこもかしこも人だらけで写生なんてできないんじゃないか?」

 

「あっ……」

 

 

 夏休み真っ只中なのだからどこの海も人混みで写生ができるスペースなんて――

 

「だったらウチのプライベートビーチに来る?」

 

「お願いします!」

 

 

――あったわね……相変わらず七条先輩のスケールは私たち庶民には想像できない。

 

「それじゃあ今度の日曜日に」

 

「一応引率として横島先生に声をかけておこう」

 

「タカトシ、監視任せるから」

 

「はぁ……」

 

 

 私一人ではこのメンツは捌けないので、絶対にタカトシに参加してもらいたい。決してタカトシの鍛え抜かれた肉体美が見たいわけではない。




邪な人間が多数

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