桜才学園での生活   作:猫林13世

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努力するのは良いことです


行動の理由

 今日は気分を変えて一人で見回りをしていたら、前方から五十嵐が頭を抑えながら歩いてくる。

 

「五十嵐、どうかしたのか?」

 

「あっ、天草会長……さっき頭をぶつけてしまいまして……理由は恥ずかしいので聞かないでくれると助かるのですが」

 

「恥ずかしい理由か……」

 

 

 以前の私だったら「のけぞり絶頂の時にぶつけたのか?」と聞いただろう。だが五十嵐は男性恐怖症で、そんなことができる相手はタカトシくらい。そのタカトシは、校内でそんなことをするようなやつではないので、その考えはすぐに否定できると知っているのだ。

 

「さすがに鴨居をくぐり損ねたってことじゃないだろ?」

 

「そこまで背は高くないですから」

 

「だったらどこにぶつけたんだ? 曲がり角で走ってきた男子生徒とごっつんこして中身が入れ替わったというわけでもないんだろ?」

 

「どこのSF展開ですか……」

 

 

 前にアリアから借りた書籍の内容がそんな感じで、互いに弱い部分を知り尽くされてしまい、責めと受けが入れ替わるという内容だったのだ。

 

「分からない、降参だ」

 

「別に勝負してたわけじゃないんですけど……荷物を取ろうとして棚に頭をぶつけちゃったんですよ」

 

「あぁ、確かにちょっと恥ずかしいな、その理由だと」

 

 

 私も以前やったことがあるが、誰かに見られていたらと思うと恥ずかしくて仕方がなかった。

 

「今後は気をつけろよ」

 

「気を付けてたつもりだったんですけどね」

 

 

 五十嵐と別れ見回りを再開するとOGの古谷先輩からメッセージが着ていた。内容は今から生徒会室に行くとのこと。

 

「何か用事だろうか?」

 

 

 あの人のことだから、ただ遊びに来たという可能性もあるのだが、一応出迎えに向かわなければ。私は残りの役員にも古谷先輩が来ることを通達し、四人で出迎えることに決めた。

 

「やほー」

 

「こんにちは。どーぞどーぞ」

 

 

 古谷先輩を出迎え、上座に案内したのだが、古谷先輩はそれを固辞する。

 

「私は下座で良いよ」

 

「古谷さんは謙虚なんですね」

 

 

 その態度に萩村が関心を示している。元とはいえ会長だった人を下座に座らせるのは抵抗があるが、頑なな態度をほぐす話術は持っていないしな……

 

「年取るとトイレ近くて」

 

「あなたJDですよ」

 

「感心したのがバカみたいでした……」

 

 

 古谷先輩の答えに、タカトシはツッコミを入れ――おそらく理由は分かっていたので軽めのツッコミだった――萩村はあからさまに呆れた態度を見せる。

 

「それで、今日はどうしたんですか?」

 

「約束してた友達がドタキャンしてきたから、こっちに遊びに来たんだ」

 

「そんな気軽に来られても困るんですけどね……」

 

 

 今日はそれほど忙しくはないので相手をする時間があるが、これが忙しい時期だったら追い返していただろう。まぁ、仮にも元会長なのだから、それくらい分かって遊びに来たんだろうが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 母が買ってきた雑誌『人体アレコレ』というものが私のカバンに紛れ込んでいた。さすがに教室で確認するのもアレだったので生徒会室で内容をチェックしていたのだが――

 

『ジャンプ運動には身長を伸ばす効果があります』

 

 

――とのこと。

 

「これは早速実践しなくては」

 

 

 別に身長に対してコンプレックスを抱えているからとかではなく、本当に効果があるのか確認したいからだ。決して私の背が低いから、このような甘言に乗せられたとかではない。

 

「スズちゃん、どの本が欲しいの?」

 

「そーゆー理由で跳ねてたんじゃないですよ」

 

 

 私がジャンプしていたのを、欲しい本があると勘違いした七条先輩が親切で声をかけてくれたが、やっぱり私がジャンプしているとそういう光景に見えてしまうのだろう。

 

「じゃあどういう理由で?」

 

「ちょっとした実験なのですが――」

 

 

 私はさっき読んでいた雑誌のページを七条先輩に見せる。すると納得したように頷いて、カバンから牛乳を取り出した。

 

「だったらさっき買った牛乳あげるよ」

 

「べ、別に背が低いことを気にしてやってたわけじゃありません。ただ根拠の示されていない記事の内容が事実かどうか確かめたかっただけで――」

 

「スズちゃんが背が低いことを気にしてるのは、桜才学園の人なら全員知ってると思うから恥ずかしがらなくてもいいんじゃない?」

 

「ぐっ……」

 

 

 確かに背が低いと不便で、いろいろな人に助けてもらっているからそれなりに知られているだろうとは思っていたが、まさか全員知っているとは……

 

「ちなみに、シノちゃんが貧乳に悩んでいることも、全校生徒が知ってることだと思うけどね」

 

「あぁ、あの人が原因ですか……」

 

 

 私たちのコンプレックスを広めた人に心当たりがあり、私は頭の中でその人を酷い目に遭わせておいた。

 

「スズちゃんは小っちゃくてかわいいんだから、気にしなくてもいいと思うけどね~」

 

「小っちゃいって言わないでください!」

 

 

 七条先輩と別れ、会長と見回りをしている最中にも、私はさっきの記事がどうしても気になってジャンプしてしまった。

 

「……あの、会長? 無言で背後に立たれると怖いんですけど」

 

 

 いきなりジャンプしだした私も大概だろうが、無言で人の背後に立つ会長も十分怖い。

 

「いやだって……ジャンプしてスカートが捲れてたから壁になろうと」

 

「マジですか!?」

 

「あぁ。ちなみに、カメラを構えていた畑は、タカトシに捕まったようだぞ」

 

 

 会長が指さす方から、畑さんを捕まえたタカトシがやってきた。畑さんからカメラを取り上げ、私と会長でデータは完全消去したのだった。




大きくなれるといいですね……

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