桜才学園での生活   作:猫林13世

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高すぎてもアレですけどね


集中力を高めるために

 小テストで赤点を採ってしまい、放課後は生徒会室で勉強会に参加しなければいけなくなってしまった。せっかく最近は安定した成績を残せていたのに……

 

「急にどうしたんだ? 最近は勉強の方ではコトミの悪い噂は聞かなかったのに」

 

「それ以外ではあるんですか!?」

 

「まぁ、いろいろとな」

 

 

 ちなみにタカ兄は私の代わりに柔道部のマネージャーをしてくれているので不在だ。勉強会の教師役はシノ会長とスズ先輩、そしてアリア先輩は生徒会業務の片手間で勉強を教えてくれるらしい。

 

「それで、急に成績が元に戻った原因はなんだ?」

 

「最近集中力が低下してる気がするんですよね」

 

 

 元々高い方ではないのだが、それがさらに低下して、その結果勉強に身が入らず小テストで悲惨な結果になったのだ。

 

「だったら深く息をするといいわよ」

 

「異議あり。深イキはかえってぼーっとしちゃうよ」

 

「異議を却下する」

 

 

 アリア先輩の申し出をスズ先輩が却下する。うーん、このメンツ、勉強面では最強なんだけど、タカ兄がいないと暴走するからな……

 

「だったらマインドフルネスをやってみたら?」

 

「なんですか、それ?」

 

「いわゆる瞑想だな」

 

 

 わざわざ横文字にしなくて『瞑想』って言えば短くて済むんだろうけども、私の厨二心にはアリア先輩の表現の方が響いた。

 

「私家でよくやるの。目を閉じて意識を集中させてね。五感を研ぎ澄ませるの」

 

「なるほど」

 

「すると出島さんが近くにいるように息遣いが聞こえてくるんだ~」

 

「実際近くにいますね、それ」

 

 

 スズ先輩のツッコミにアリア先輩が小首をかしげる。ちょっとした仕草なのに、この先輩がすると威力が高いんだよな……

 

「じゃあここでやってみますね。実践した後にもう一度小テストを受けてみます」

 

「そうか」

 

 

 集中力の問題なので、再度勉強しなくても集中できれば合格点は取れるだろう。私はそう考えて、生徒会室で瞑想をすることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コトミがマインドフルネスを実践しているので、私たちは生徒会室からそっと廊下へ出た。

 

「私たちはコトミが本当に集中できているかどうか確認するために試練を与えればいいんだな」

 

「黙って見守ってあげましょうよ」

 

 

 会長の悪戯心に火が点いたのか、コトミに対して妨害工作を行うらしい。

 

「まずはあいつが好きそうなものを机に置いてこよう」

 

 

 そういって会長が何かの本を持って、わざと音が鳴るように机の上に置いてきた。

 

「何を置いたんですか?」

 

「以前横島先生から没収したエロ本だ」

 

「なんてもん置いてるんだー!」

 

 

 会長の脛を蹴り上げ、その本を回収しようとしたのだが――

 

「コトミ、意識が本に行ってるわよ」

 

「な、なんのことですか?」

 

 

――薄目を開け、完全に本を見ているコトミにツッコミを入れておく。

 

「それじゃあ次は私~」

 

 

 そういって七条先輩はどこからかフィギュアを取り出してコトミの前に置いた。

 

「あれは?」

 

「シノちゃんが没収してきたフィギュアだよ~」

 

「会長、もう私物持ち込まないのでフィギュア返してくださいよ~」

 

 

 どうやらあのフィギュアはネネのものらしく、泣きながらフィギュア返却を訴えてきた。

 

「おや? コトミちゃん、賢者モード?」

 

「見ただけで絶頂したのか?」

 

 

 何をバカなことを言っているんだと思ったが、このやり取りを聞いているはずのコトミは微動だにしない。よっぽど集中できているのだろう――

 

「ぐぅ……」

 

「寝てるのかよ!」

 

 

――ちょっとでも感心した私に謝れ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柔道部も休憩時間に入ったので、俺はコトミの様子を見に生徒会室へ向かう。

 

「まぁ、あいつのことだからあの手この手で勉強しないようにしてるかもしれないが」

 

 

 以前のように問題自体を理解できないわけではないので、やる気さえ出せば平均点なんて楽々採れるはずなんだがな……

 

「やはり、ゲームを解禁したのが失敗だったかもしれないな」

 

 

 コトミの意識がゲームに割かれ始めた所為で勉強に対する集中力が落ちているのだろう。もう一度ゲームを禁止すれば勉強への集中力が戻るかもしれないが、ゲーム禁止に反発してますます自堕落な生活になったら困るしな。

 

「お疲れ様です。コトミの様子は――」

 

 

 生徒会室に入ってすぐ目に入ったのは、よだれを垂らして寝ているコトミの姿だった。

 

「………」

 

「っ!? これは、タカ兄の殺気!?」

 

「やっぱり問答無用でゲームは捨てるか」

 

「ごめんなさい! ちゃんと勉強するのでそれだけは勘弁してください!」

 

「会長たちも、黙って寝かせてないでたたき起こしてでも勉強を教えてくださいよ」

 

「す、すまない……」

 

 

 とりあえずこの人たちを全面的に信用した自分に呆れ、意識の何割かは生徒会室に向けておこうと思い直して道場へ戻る。

 

「お帰り、タカトシ君」

 

「あぁ、ただいま」

 

「何かあったんすか?」

 

 

 時さんに聞かれ、俺は生徒会室の惨状を簡単に説明する。

 

「――というわけ」

 

「たいへんっすね、お兄さんも」

 

「見限ってもいいんだけどさ、親から頼まれてるから」

 

「タカトシ君は真面目だよね」

 

「マネージャー業もコトミより立派にこなしてくれてるし、このままマネージャーになってくれない?」

 

「さすがに時間が取れないって」

 

 

 そもそも柔道部のマネージャーを始めた理由も、家事スキルを磨くためとか言ってたな。その割に、全然進歩してないような気もするが……




集中しすぎると時間を忘れるんですよ……

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