耳の中に違和感を覚えたので、私は自分で耳かきをすることに。うまく取れるかどうかわからないけど、人にやってもらうのはなんだか子供っぽいので、高校に進学してからは自分でするようにしているのだ。
「あらスズちゃん、耳かき?」
「えぇ。定期的にやっておかないと気持ち悪いしね」
リビングにはちょうど母がいて、私が耳かきを持っているのを目ざとく見つけられた。別に疚しいことをするわけではないので正直に答えたのだけども、母は何か考えるような眼をしている。
「よかったらお母さんがしてあげましょうか?」
「いや、いい」
別に子供っぽいから断ったわけではない。そもそも今家には私と母しかいないのだから、子供っぽいと思うような人はいない。
「どうしてー?」
「だってお母さん、意図的に気持ち悪い箇所を避けるでしょ?」
「バレてたか」
違和感がある場所だけを避けるので、結局は最後まで気持ちが悪い気分を味わい続けなければいけない。それなら自分でやった方が、早く気持ち悪さから解放されるのだ。
「でも、早く解放されちゃったらつまらなくない?」
「別に耳かきに楽しさは求めてないわよ」
この母は私にどんな感情を持ってほしいと思っているのだろうか……
「でもお父さんは喜ぶわよ?」
「これが母娘の会話で良いわけ?」
前々から思っていることだが、夫婦間のことを娘に包み隠さず話しすぎなのではないだろうか。まぁ、タカトシのところのように、殆ど家にいないのも問題かもしれないが、こっちはこっちで問題だと思う。
「まぁまぁ、隠し事のある親子よりかはこっちの方がいいでしょ?」
「まぁね……」
肯定するのも恥ずかしいのだが、親子間の仲がいいのはいいことだと私も思う。だけどもう少し羞恥心を持ってもらいたいのだけども……
「うっ!」
「どうしたの?」
「足が痺れた」
「ずっと正座してたもんね」
別にかしこまる場面じゃないのだから、崩して座ればいいのに……そんなことを思いながら母を見ていたら、なんだか不満そうな表情でこちらを見つめてくる。
「何?」
「こういう時は、足をつんつんして責めるんだよ」
「娘に何を求めてるんだあんたは」
「せっかくのチャンスなんだからさ」
「そんなチャンスは必要ない」
そもそも私にそんな趣味はない。会長や七条先輩、ネネ辺りは喜んでやりそうだけども、私には断じてそのような趣味はないのだ。
「とりあえずすっきりしたから、私は部屋に戻るわね」
「今度はちゃんと突いてね~」
「突くかっ!」
本当に、これが母娘の会話で良いのだろうか……
「(こういう相談は、誰にすればいいのかしらね……)」
私の周りには普通の両親を持つ知り合いが少ないような気がするので、こういった相談は誰にすればいいのか悩んでしまったのだった……
生徒会室でPCを使って情報収集をする。少し前の私だったら考えられないことだが、最近の暇つぶしはこれが多い。
「なるほど。今は自転車をシェアする時代なのか」
「自分で自転車を持たなくていいから、置き場所に困らないもんね~」
「経済的にもいいことですよね」
「シェアハウスとかもあるし、色々なものをシェアする時代が来ているのかもしれないな」
私も何かシェアしてみたいと思うのだが、気心の知れた相手ならまだしも見ず知らずの人とシェアするのは抵抗がある。そのうち慣れるというのも聞くが、その一歩目を踏み出せずにいるのだ。
「そのうちお箸とか歯ブラシとかもシェアするのかな?」
「それは一部マニアックな世界の住人の話では?」
「今朝出島さんに相談されたんだけどねー?」
「身近にいたよ!?」
タカトシが我関せずモードなので、アリアに対するツッコミは萩村が行っている。
「そういえば料理のレシピなんかもシェアするサイトがあるよな。タカトシは興味ないのか?」
「それほど凝った料理を作る機会なんてありませんので」
「だが、上手にできた料理をSNSにアップする人もいるくらいだし」
「俺にはその楽しさがわかりませんので」
タカトシとは違う理由だが、私もタカトシがSNSをやってなくて良かったと思う。だってこいつの私生活を垣間見えるとなると、かなりの数の敵が増えることになるだろうし……
「シノちゃんは何を気にしてるのー?」
「いや、今の時代SNSを使った犯罪もあるから、私たちも気を付けなければなと思っただけだ」
「確かにそうですね。アップした写真から住所を特定して突撃されたなんて事件もあった気がしますし」
「まぁ、アリアの場合は苦労しなくても特定できるだろうから気を付けるように」
「でも会長。七条先輩の場合突撃されても最高のセキュリティがありますし」
「そうだったな」
アリアが一人で外出する機会など多くないので、慎重になりすぎる必要もないか。
「それよりもシノちゃんの方が心配だなー。ご両親が在宅ワーカーなのは知ってるけど、絶対にいるわけじゃないんだし」
「それを言うなら萩村だって、一部のマニアが突撃してくるかもしれないから気を付けるんだぞ」
「なんか引っかかる言い方なんだよな……」
私の心配を素直に受け取れないのか、萩村は複雑な顔をしている。
「そろそろ休憩も終わりですので、皆さんしっかり仕事してくださいね」
「結局タカトシが一番気をつけなきゃいけないだろうがな」
「かもね~」
「同感です」
「はい?」
自分の人気の高さを正確に把握していないのは、こいつの数少ない欠点だよな……やきもきするこっちの気持ちも考えてもらいたいものだ。
特定班が優秀だからな