委員会活動に加えて部活もしていると、それなりに疲れてしまう。特に委員会の方では、問題児に対する具体的な解決策がなかったり、後輩に男子がいるからそちらでも疲労を感じてしまうのだ。
「おや、五十嵐先輩。随分とお疲れのようですね」
「轟さんと萩村さん」
この二人は友人関係なので一緒にいるところに遭遇しても不思議ではないのだが、萩村さんはどうしてもタカトシ君とセットの印象が強いので少し珍しい気持ちになる。
「委員会や部活でいろいろとね……轟さんも、学校に不要なものを持ち込んでるらしいですし」
「最近は大人しくしてますからね」
どうやら生徒会役員である萩村さんに散々怒られているようで、轟さんは慌てて疚しいところはないとアピールしている。だが、その慌てっぷりが逆に怪しいんですけど……
「そうだ! お疲れならこの後気分転換にでも出かけませんか?」
「お誘いはうれしいけど寄り道はダメ。一度家に帰ってからね」
「あっはい」
私の注意に横にいる萩村さんも何度も頷いている。ちょっと厳しすぎるかなとも思ったけど、風紀委員として正しい注意だし、生徒会の萩村さんもいるのだから、校則違反をするわけにもいかない。
一度家に帰ってから、轟さんに指定された場所へ向かうと、すでに二人が到着していた。
「すみません、お待たせしました」
「まだ時間前ですから大丈夫ですよ」
「それで、何処に行くんですか?」
集合場所は聞かされていたが、何処に行くのかは聞いていない。私は轟さんに行き先を尋ねると――
「ここですよ?」
「ここって……コスプレショップ!?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ? 普段と違う自分になりきることで、現実のストレスを忘れようって」
「聞いてません……」
まさかコスプレショップに来ることになるなんて……
「あっ、ネネちゃん。この間試着室に下着忘れてったでしょ」
「普段穿かないからつい」
「(えっ、下着を脱ぐ衣装?)」
どうやら轟さんは常連で、話の内容から察するにそういう衣装もあるようだ。
「こういう過激な衣装もあるんですね」
「っ!?」
萩村さんが見つけたのは、辛うじて胸と下半身が隠れる程度の衣装。RPGなどで登場する踊り子の服というやつらしい。
「五十嵐先輩、着てみたらどうですか?」
「こんな過激な衣装、着られるわけないでしょっ!?」
萩村さんに勧められたが、私にはこの衣装を着る勇気などない。というか、着る人いるのかしら……
「確かに、この時期はちょっと寒いですしね」
「着てるっ!?」
「ネネちゃん、また下着忘れてかないでね」
「「(えっ、穿いてないの?)」」
この衣装で下着を穿いていないなんて……もし腰布が捲れちゃったら丸見えになるんじゃないかしら……
「あっ、この衣装可愛いかも」
せっかく来たのだから一着くらいは着てみようと思い店内を見回り、とある衣装に興味を惹かれた。
「ど、どうかしら?」
「五十嵐先輩は巫女装束ですか。可愛らしいですね」
「そ、そう?」
萩村さんに褒められて、私はまんざらでもない気持ちになる。
「その衣装は『ヒメミコ・カナデ』のキャラで、見どころは触手責めの連続絶対――」
「補足はもういいかな!?」
轟さんの説明を聞いて、今すぐ脱ぎたい衝動に駆られる。しかし私が更衣室に逃げ込む前に、轟さんが誰かを外に認め声をかけに行く。
「おーい、通りすがりの津田君」
「(えっ、タカトシ君!?)」
まさかここで彼に出会うなんて思っていなかった。こんな格好をしている私を見られたくないという気持ちが溢れ、私はなんとか顔を隠そうと手近にあった甲冑の兜を被る。
「おや? 騎士のコスプレに興味が?」
「何してるんですか、カエデさん」
「(しまった!? タカトシ君は気配で誰か分かるんだった)」
私は観念して兜を脱ぎ、タカトシ君から微妙に視線を逸らして挨拶をする。
「こ、こんなところで奇遇ですね」
「偶々通りかかっただけですけどね。カエデさんは、気分転換ですか?」
「う、うん……轟さんに誘われてね」
タカトシ君がこの格好の元ネタを知っているわけないのだから、そこまで恥ずかしがる必要なないのかもしれない。でもさっき轟さんから聞かされた補足のせいで、どうも恥ずかしい恰好な気がしてならないのだ。
「巫女装束、お似合いですよ」
「あ、ありがとう」
「なるほど。つまり津田君は巫女さんを汚したい派なんだね」
「何の話?」
轟さんをやんわりと撃退したタカトシ君は、店内を見まわして少し顔を顰めた――ように見えた。
「五十嵐先輩、今日はどうでしたか?」
「楽しかったわよ。少しハマっちゃいそうな気もしてる」
衣装の元ネタとかは兎も角として、こういった普段と違う衣装を着るのは楽しい。一人で通う勇気はないけども、また一緒に来るくらいならいいかなって思えている。
「よかった。これで予定が組める」
「何の予定?」
「コスプレパーティーを開こうと思っていたんですけど、参加者を探すのが大変でして」
「もしかして私も参加しろと?」
「もちろんです! あっ、ちなみに会場は七条家。参加者はここにいる四人の他に、天草会長と七条先輩だから」
「えっ、俺も?」
自分は関係ないと思っていたのか、タカトシ君には珍しく本気で驚いた様子。しかし轟さんの隣で萩村さんも力強く頷いているではないか。
「(どうしたんですか?)」
「(七条家ということは、あの人もいますから……)」
「(あぁ、あの人ですね……)」
あの人の対応はタカトシ君に任せたいという気持ちが理解でき、私は萩村さんに同情するのだった。