桜才学園での生活   作:猫林13世

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べた褒めです


結果発表

 匿名で互いの長所と短所を書いて発表することにしたのだが、その前にタカトシが音もなく扉に近づき――

 

「あら?」

 

「またお前か!」

 

 

――聞き耳を立てていた畑を捕獲し、今度盗み聞きを企てようとした時点で新聞部の予算縮小、決行した場合は無期限の活動休止処分を下すと脅して退散願った。

 

「でも、計画しただけって、どうやって判断するんですか?」

 

 

 この中で唯一、タカトシが相手の心の裡を見透かすことができると知らない英稜の生徒会顧問、音羽先生が尤もな質問をしてくるが、この場ではその疑問を抱くのは少数だった。

 

「タカ君が相手の表情を読んで判断してくれるので大丈夫ですよ」

 

「そ、そんなことができるの?」

 

「まぁ、津田先輩っすから」

 

「タカトシ君ですから」

 

「そ、そうなのね」

 

 

 英稜の生徒からも絶大な信頼を勝ち得ているタカトシを、音羽先生は複雑そうな表情で眺めている。まぁ、この人がライバルになることはないから、好きなだけ眺めているといい。

 

「ところで、この場に横島先生は呼ばなくてよかったのでしょうか?」

 

「音羽先生は、あの人にいいところがあるとお思いで?」

 

「この学園で一、二を争うダメ人間ですから」

 

「し、辛辣ですね」

 

 

 私と萩村がバッサリと切り捨て、アリアとタカトシも苦笑いを浮かべながらも否定しなかったのを見て、音羽先生は横島先生への評価を改めたようだ。

 

「では早速発表していきましょうか。まずは天草さんから」

 

「わ、私から!?」

 

 

 なぜ私からなのか疑問だったが、カナが当然のように言い放つ。

 

「役職順、さらに今回は桜才学園がホスト側ですから」

 

「そ、そういうことか……」

 

 

 いまいち納得できないが、理由としては筋が通っている。私は異議申し立てすることなく、音羽先生に先を促す。

 

「かっこいい、美人、責任感がある、気遣いができる」

 

「ほ、褒めすぎじゃないか!?」

 

 

 あまりこのメンツで褒められることはないので、何とも恥ずかしい気持ちになる。ちなみに短所は私も自覚していることだったので気を付けて行こうと思いなおせた。

 

「次は魚見さん。リーダーシップがある、聞き上手――」

 

「褒められるとムズムズしますね」

 

 

 カナも褒められ慣れていないのか、微妙にもじもじしている。

 

「短所。スキンシップが激しすぎる」

 

「タカ君、ゴメンね」

 

「私が書いたんです!」

 

「義姉さんはスキンシップよりも、人の洗濯物を盗もうとするところを反省してください」

 

「あら、そう書かれてるわね」

 

 

 タカトシしか知りえないカナの短所なので、誰が書いたのかはすぐに分かる。あえて分かるように書いたのだろうと、私たちはそう判断したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会長コンビが発表され、次はタカトシ君の番。その次が私だから、なんだか緊張する……というか、タカトシ君の次ってプレッシャーが凄い……

 

「次は津田君ですね。長所としては容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、類稀なる文才、高いカリスマ性、料理上手、優しい……べた褒めですね」

 

「よく被らなかったな」

 

 

 褒めるところが多い人とは言え、誰か一人くらい同じことを書きそうな気もしたのだけど、見事に全員違うことを書いていた。

 

「短所としては、冗談が通じない、厳しい、自己評価が低い、誘いに乗ってくれない――」

 

「誰だ、そんなこと書いたの!?」

 

 

 天草さんが音羽先生の発表を遮って犯人捜しを始めるが、タカトシ君はすぐにその犯人を突き止める。

 

「義姉さん、匿名とはいえなんてことを書いてるんですか?」

 

「じょ、冗談ですよ! てか、タカ君がお誘いに乗ってくれないのは事実だし」

 

「カナ! また抜け駆けしようとしてたのか、お前は!」

 

「音羽先生、気にせず続きをどうぞ」

 

 

 タカトシ君が会長コンビを廊下に放り出し、視線で反省させたので音羽先生に続きを促している。でも、次は私の番なんだよな……

 

「次は森さんですね。真面目、かわいらしい、優しい、おっ〇いが――って、なんでこんなことが書かれてるんですか」

 

「またカナかっ!」

 

「ち、違うからね!?」

 

「それ私だ~」

 

 

 魚見会長もあまりいいことは書いてなさそうだったけども、どうやら今回の犯人は七条さんだったようだ。まぁ、タカトシ君は最初から分かっていたようで、先に視線で七条さんを牽制していたし。

 

「き、気を取り直して短所。考えすぎ、表情に出やすい、地図が読めないなどなど」

 

「自覚してます……」

 

 

 短所として指摘されたことは、私自身が常日頃から思っていることばかりだったので、私は改めてこの評価を戒めとして行こうと決めた。

 

「しかしこうしてみると、会長コンビより副会長コンビの方が評価が高いようですね」

 

「まぁ、この二人がいるから交流会が成立してるって感じっすからね」

 

「むしろいなかったら生徒会が機能していないかもしれないですからね」

 

「それは私たちも自覚しているが、改めて言われるとキツイな……」

 

「最近は頑張ってる方なんですけどね……」

 

 

 広瀬さんと青葉さんのストレートな評価に、天草さんと魚見会長が肩を落とす。

 

「まだ顧問として日が浅いですが、魚見さんより森さんの方がしっかりしているのは気づいていました。まさか桜才学園も副会長がしっかりしているから大丈夫だったとは……」

 

「むしろタカトシよりしっかりしてる人間がこの学園にいるかどうかわからないレベルですから」

 

「そんなことないとは思いますけど」

 

「ほら、自己評価が低い」

 

 

 魚見会長に指摘され、タカトシ君は肩を竦めて見せる。たぶんタカトシ君よりしっかりしてる大人は多くないんだろうけども、それを全面的に受け入れるのは恥ずかしいんだろうな。




褒められ慣れてないからなぁ……

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