英稜の生徒会顧問を紹介してもらう為に交流会を開くというのもなんとなく面白くない。そう考えた私は、昨夜たまたま見たテレビの内容を思い出した。
「せっかくこれだけの人数がいるんだ。匿名でそれぞれの長所・短所を書いて発表しようじゃないか」
「シノちゃん、急にどうしたの?」
「いや、そうすることで互いのことをより深く知ることができるって、昨夜見たテレビで言っていたんだ」
「匿名は兎も角、筆跡で分かっちゃうんじゃない? タカ君とスズぽんなら、それくらい出来そうだし」
確かにタカトシと萩村はいろいろとスキルを持っているからな。筆跡どころか手の動きで何を書いているのかわかってしまうかもしれない。
「別にそんなこと探ろうとしませんので、気にしなくても大丈夫ですよ」
「私もです。あえて匿名で書いているというのに、誰が何を書いたのかなんて探りませんよ」
「なら大丈夫か」
「それに、みんな同じ鉛筆を使えば、ある程度誤魔化せますし、筆跡なんて変えようと思えばいくらでも変えられますから」
「そんなことができるのは萩村だからだと思うが……」
とりあえず誰が何を書いたのかを探られることはなくなったので、とりあえずは安心して開催できる。
「(タカトシの長所はいっぱいあって書くのに困るかもしれないが)」
「何かついてますか?」
「いや、何でもないぞ」
おそらくは私が何を考えているかわかっているのだろうが、あえて気づかないふりをしてくれた。こういうところもこいつの長所だろうな。
天草さんの発案で、七人の長所と短所を匿名で書き記すことになってしまった。別にそれ自体は問題ではないのだが、匿名ということで若干名暴走する可能性があるのだ。
「(でも、せっかくの匿名だしちょっと大胆に――でも、私以外もアレな内容だったら、結局私も同類って思われちゃう!?)」
別にそれほど大胆なことを書くつもりもないのだが、後々私も会長たちと同類だと思われてしまう可能性があると思うと、それほど大胆なことを書けなくなってしまう。だけど、せっかくの匿名だし……
「考えすぎだと思うぞ」
「え?」
私が正面で唸っていたからか、タカトシ君がそう助言してくれた。
「(誰が書いたかわからないようにしてくれてるんだから、多少大胆になってもいいってことなのかな)」
普段面と向かって言い辛いことでも、匿名なら言うことができる。そう考えなおした私は、それぞれの長所・短所を考え書き始め――
「(これって何個書けばいいんだろう?)」
――また別の問題に直面した。桜才の皆さんは優秀だし、長所を上げればキリがない。さらに魚見会長も褒める部分が多い人だ。そこから何個書けばいいのかわからず、私は天草さんに声をかける。
「これってそれぞれ何個くらい書けばいいんですか?」
「とりあえずは一個づつ書けばいいだろ。あまり褒めちぎられたり貶されたりするのも居心地が悪くなるだろうし」
「わかりました」
いざ一個に絞るとなると大変だけど、それほど深く考えなくてもこのメンツなら長所を探すのに苦労しない。そう考えて私はそれぞれの長所と短所を紙に書き記すのだった。
私の隣で森さんが唸ったり悩んだりしているが、私もそれなりに悩んでいる。
「(タカトシのいいところか……優しいところかな)」
他にも料理上手だったり整理整頓ができるところだったり、場を締めることができるとか、上げたらきりがない。そして何より、他の人と被る可能性を考えるといったい何を書けばいいのかわからなくなってしまうのだ。
「津田先輩、この漢字ってどう書くんですか?」
「あっ、私も漢字わからないんで教えてくださいっす」
「二人とも、辞書持ってないの?」
英稜の一年コンビ、青葉さんと広瀬さんに漢字を教えてほしいと頼まれ、タカトシは少し困ったようにそう問いかける。
「辞書なんて持ち歩いてないっすよ」
「生徒会室に置いてあるから、自分で持たなくてもいいかなーって」
「はぁ……それで、なんの漢字?」
タカトシが教えてくれるとわかり、青葉さんと広瀬さんはタカトシにさらに近づく。
「(この二人はタカトシに恋愛感情を抱いてるわけじゃないのに……)」
タカトシのパーソナルスペースに侵入してる二人を見てヤキモキしてしまう。タカトシの方も二人に邪な感情がないのをわかっているから素直に侵入を許しているんだとわかっているんだけど……
「青葉さんと広瀬さんの短所は、漢字に弱いところだね」
「スズぽん、なんで口頭でダメ出しを?」
「てか私は、漢字どころか勉強がダメですけどね」
「ユウちゃん、わかってるならもうちょっと頑張ろうね? このままだとまたタカ君にお世話になることになっちゃうんだから」
「勉強会は楽しかったからいいんすけど、津田先輩はちょっと厳しすぎるからな……」
「それぐらいしなきゃダメだからだよ」
私のダメ出しを皮切りに、広瀬さんの勉強面をどうにかしなければの話し合いが始まってしまった。
「と、とりあえず全員分書けたな」
「ところで、これ誰が発表するんですか?」
「あっ、考えてなかった」
肝心なところを考えていなかったようで、会長は困ったように視線を彷徨わせる。
「すみません、こちらの先生たちと話し込んでしまって――」
そのタイミングで英稜の生徒会顧問である音羽フウカ先生が生徒会室にやってきた。
「それじゃあ、お願いします」
「えっ?」
何の説明もなく先生に発表役を押し付けた会長のフォローをするために、タカトシが事情説明を先生にしている。やっぱりこいつの長所は一個に絞るのは難しいわね。
スズが嫉妬しすぎてる