生徒会室で作業しているのだが、今日はアリアの作業の進みが遅い。遅いといっても、大幅に遅れているわけではないのだが、いつもと比べるとそう感じてしまうのだ。
「アリア、体調でも優れないのか?」
「どうして?」
「いつもより作業の進みが遅く感じるから」
率直にそういうと、アリアは少し困ったような顔をしながら理由を教えてくれる。
「雨の日って頭痛がするんだよね」
「なるほど。それは天気痛だな」
そういう人がいると聞いたことはあったが、まさかこんなに身近にいたとは……
「私の性癖にそんな関係があったなんて」
「性癖?」
何故そんな話題になったのかわからず、私は首をかしげる。
「だってシノちゃん今『便器通』って」
「そんなこと言ってないからな! というか、どうして頭痛の話だったのにそっちに流れたと思ったんだ」
タカトシがいるというのに、そんな話題を振るわけがない。いやまぁ、普段ふざけてそっちに流れてしまうことも多々あるのだが、今はそんなこと言っていない。
「まぁ、この作業が終われば休憩だし、そこで薬を飲めば収まるんじゃないか?」
「でも薬なんて持ってきてないし」
「大丈夫だ。なぁタカトシ?」
この流れなら普通私が薬を取り出すのだろうが、ここには万能なタカトシがいる。私はタカトシが薬を持っている前提で話を振る。
「なんで俺なんですか……まぁ持ってますけど」
そういいながらタカトシはカバンの中から薬を取り出しアリアに手渡す。
「いや、話を振った私が言うのもなんだが、お前は本当に準備がいいな」
「市販薬ですから、もし効かなかったら病院に行くのをお勧めします」
「たぶん大丈夫だよ~」
とりあえず残ってる作業を終わらせるために、私たちは再び集中することに。
「終わった~」
「それじゃあお昼にしましょうか」
黙々と作業していた萩村がそう宣言するが、私はそれに待ったをかける。
「その前にまずは手洗いだぞ!」
「シノちゃんはしっかり者だね~」
「小さいころから母親に厳しく言われていたからな」
当時は毎回言わなくても分かってるって思っていたが、しつこく言われたおかげでこうして身についているのだろう。
「食前、帰宅後、指フ〇ラ前には手を洗えと」
「一つ余計なものが入ってるっ!? てか、子供になんてこと教えてるんですか」
萩村は驚いているが、アリアは感心してくれたようだ。
「というわけで、手を洗いに行こう」
四人で手を洗い、生徒会室に戻る途中で、横島先生と小山先生が会話しているのが見えた。何を話しているのか気になり近づこうとしたのだが、タカトシと萩村が微妙な顔をしているのが少し気になった。
「卵って美容や老化防止の効果があるんですよね」
「そう言われてるな」
「だから最近毎日食べてるんですよ」
なるほど、美容系の話題だったのか。これならタカトシがあまり興味を示さないのは理解できる。だがどうして萩村は微妙な顔を?
「卵は私たちにたくさんの恩恵をもたらしてくれるよな。おならを臭くしてくれるし」
「それがメリットになるのは初耳ですね」
「それがメリットに感じるのは横島先生だけでは?」
「おぉ天草。そうなのかな?」
思わずツッコミを入れてしまったが、とりあえず私はそれを恩恵とは思えない。隣で聞いていたアリアもうなずいてくれているので、ここでは横島先生が少数派なんだろうな。もちろん、マイナーな性癖を否定するつもりはないが。
会長と二人で校内の見回りをしているのだが、どうしても意識はもう一つのペアのことで占領されてしまう。
「最近アリアがじゃんけん強くて困るな」
「元々強運の持ち主ですからね、七条先輩は……」
生まれからして勝者だというのに、あの見た目に強運の持ち主。いったいどこで太刀打ちできるというのだろうか……
「あっかいちょー! スズ先輩もお疲れ様でーす」
「コトミか」
正面からやってきたコトミに意識を向けるが、ぱっと見タカトシに雰囲気が似ているのでどうしてもまたそっちに意識を引っ張られてしまう。
「コトミ、お前携帯を胸ポケットにしまってるのか」
「そうですよー」
「それはやめた方がいいぞ」
「どうしてです?」
とりあえず意識を強引に引き戻し、私はコトミに説明することに。
「破損の原因になるからよ」
「「へー」」
「あれ? どうして会長も感心してるんですか?」
てっきり同じ理由で注意してると思ったのに……
「私が言いたかったのは、利き手の逆が利き乳首だから、快楽に溺れやす――あ~」
「溺れてますね」
タイミングよく振動し始めた携帯で快楽に溺れた会長。まともに付き合うのばからしいので流しておこう。
「最後は新聞部の部室ですね」
「ここは要注意人物がいるからな」
タカトシがいけばあっさり問題を見つけられるのだろうが、畑さんも警戒しているだろうから今日は私と会長で見回りに訪れたのだ。
「おや、天草会長と萩村さんではないですか。今はちょっと修羅場ってるのでお構いできませんよ」
「どうしたんだ?」
「締め切り間近なのです」
そういいながら畑さんは右手でメモ、左手でパソコンを操作している。
「畑さんって両利きなんですね」
「そうですよ」
「凄いなー。つまり乳首の感度も二倍――」
「すみません、黙らせます」
いつもなら乗ってくる畑さんだが、今は本当に忙しそうなので私が会長の脛を蹴って黙らせる。タカトシなら口を手で塞げたのだろうが、私の身長じゃ届かないしね……
シノもタカトシがいないところでは成長していない……