桜才学園での生活   作:猫林13世

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コトミはろくでもない


知識のひけらかし

 久しぶりに帰ってきたお母さんから、ストッキングの活用法を教えてもらった。これはタカ兄も知らないだろうと思い、早速自慢しに行く。

 

「お母さんからいらないストッキングをもらったんだけど、タカ兄も使う?」

 

「そんなもん使わなくても、普通に掃除道具で間に合ってる」

 

 

 どうやらタカ兄はストッキングをどう使うのかを知っていたようだ。それはそれで残念だが、なぜ私がストッキングをタカ兄に勧めたのかを言っておかなければ。

 

「そうかもしれないけど、知識ひけらかしたいじゃん」

 

「雑学を覚えるのもいいが、しっかりと英単語や公式を覚えてくれると助かるんだがな」

 

「それは大変だね……」

 

 

 私のことを言われているのだが、どうも他人事のように流してしまった。だって、この流れだと勉強しろになっちゃうから……

 

「それで、どうしてストッキングを使った掃除なんて?」

 

「明日部室の掃除で使おうかなーって」

 

「少しはマネージャーとして働いてるようだな」

 

「柔道部の基準がタカ兄になりつつあるから、私に向けられる期待が高くて大変なんだよ」

 

 

 先日会長に相談したばかりなのだが、やはり柔道部の基準はタカ兄になってしまっている。私が何もできなかったから仕方ないのかもしれないけど、タカ兄レベルの家事マスターがそこら中にいるわけないと声を大にして言いたい。

 

「それでですね、いろいろと必要になりそうなのでお小遣いの前借を……」

 

「知識をひけらかす目的での無駄遣いは認められないな」

 

「普通に掃除で使うだけだよ!」

 

「だったらそのもらったいらないストッキングだけで充分だろ」

 

「せ、せめて少しくらい」

 

 

 粘りに粘った結果、ストッキング三個分くらいの資金をいただくことに成功した。まぁ、私一人の力ではなく、お母さんもそれくらいだったらと援護射撃してくれたおかげなのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネネと廊下を歩いていたのだが、私は自分の足元から何かが破れる音を聞いた。

 

「あっ、ストッキング伝線しちゃってる、やだなー」

 

 

 別になくてもなんとかなるのだが、私は冷え性なのでなるべくなら足を冷やしたくない。だが代わりのストッキングなんて持ってないし……

 

「私も今、パンストフェチが伝染したよ」

 

「私は別にフェチじゃないよ」

 

「でも伝線したストッキングって、スリットが入ってるみたいでエロいし……」

 

「どんな感性をしてるのかな?」

 

 

 何度友達をやめようと思ったことか……でも結局付き合い続けてるあたり、私も交友関係が狭いのかもしれないわね。

 そんなことを考えながら生徒会室に向かうと、タカトシが私を見て首を傾げた。

 

「どうかした?」

 

「いや、ストッキング穿いてなかったっけ?」

 

「あぁ、実はね――」

 

 

 私はつい先ほどストッキングが伝線してしまったことを説明する。タカトシはそれで納得したように一つ頷いた。

 

「それにしても、よく人のことを見てるのね」

 

「まぁ、それなりに付き合い長い相手ならね。それより、スズって冷え性だって言ってなかったっけ? 大丈夫なの」

 

「きょ、今日はそこまで冷えないから」

 

 

 小さなことでもタカトシが私のことを覚えてくれていてうれしい。まぁ、わかりやすく浮かれるほど私も子供ではないが。

 

「よかったらこれ使う?」

 

 

 そう言ってタカトシがカバンから取り出したのは、新品のストッキング。普通ならなぜ男子のタカトシがそんなものを持っているのか追及する場面なのだが、何か事情があるのだろうとすぐ思ってしまうあたり、私はタカトシを信頼しきっているのだろう。

 

「それ、どうしたの?」

 

「あぁ、コトミが使うからって買ったらしいんだが、掃除以外で使おうとしてたから没収した」

 

「そういうこと。あの子の知識をひけらかす機会を奪っちゃったみたいね」

 

「だったらスズのストッキングをコトミに渡しておくよ。新品より破れちゃったやつの方が、有効活用になるだろ」

 

「そ、そうだけど……」

 

 

 つい今しがたまで穿いていたストッキングをタカトシに渡すのは勇気がいる。だが彼に下心がないことくらいわかっているので、ここで躊躇ったら私がそういうことを考えている風に思われてしまう。

 

「い、いいわよ」

 

 

 私は自分が穿いていたストッキングをタカトシに渡そうと手を伸ばして――

 

「「あわわわわ!?」」

 

「説明させてください!」

 

 

――タイミング悪く現れた会長と七条先輩に事情を説明するのだった。

 

「そういうことか」

 

「そういうことです」

 

「確かにストッキングは多様性がある、ありがたい存在だな」

 

「だねー」

 

「特に変顔フェチには」

 

「え?」

 

 

 なんだか話題がおかしくなりそうな気配が……

 

「パンスト相撲のことだぞ?」

 

「一番駄目な活用法だよ!」

 

 

 とりあえず会長たちの誤解は解けたので、私は生徒会業務を終え帰路に就く。

 

「今日は疲れたわね……」

 

「お帰りスズちゃん。あら? 今朝とストッキング変わってない?」

 

「今朝のはタカトシにあげた」

 

 

 ありのままに話したら、何か勘違いされちゃったようだ。

 

「あっ、そういう意味じゃないからね。伝線しちゃって、タカトシがコトミから没収した新品を貰って、破れたヤツは掃除用具として再利用させるって言ってたから」

 

「てっきり津田君がロリに目覚めて、スズちゃんのストッキングではぁはぁするのかと思っちゃったわ」

 

「ロリって言うな! てか、タカトシを変態に仕立て上げるな!」

 

 

 母もタカトシの為人は知っているので冗談だとわかるのだが、何故か否定しておかなければいけない気持ちに駆られたのだった。




スズ母ももっとろくでもなかった……

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