桜才学園での生活   作:猫林13世

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凄いピンチだ


シノのピンチ

 ここ最近学園内でエチケットを配慮していない人間が目立ってきている。

 

「コトミ! ハンカチはどうした」

 

「上着のポケットに入れっぱなしでして……」

 

「なんで上着を脱いでるんだ?」

 

「露出が減ってがっかりしてる男子生徒へサービスを――」

 

「お前、上着汚したな?」

 

「うへっ!? な、なんでそんなことを?」

 

 

 タカトシに図星を突かれ、コトミはわかりやすく動揺している。とりあえずコトミの説教はタカトシに任せ、私たちは見回りを再開することに。

 

「よーす、生徒会役員共――って、津田はどうした?」

 

「コトミに説教中です。そんなことより横島先生……」

 

 

 萩村が鼻を抑えながら横島先生を睨む。すると横島先生も察したようで口を抑えてくれた。

 

「昼にニンニクたっぷりのラーメン食ってさ」

 

「食べるなとは言いませんが、しっかりと口臭ケアはしてください。この後授業もあるんですから」

 

「で、でも! 世の中には口臭フェチがいるんだし――」

 

「タカトシに報告して、コトミと一緒にお説教されたいんですか?」

 

「今すぐ口臭ケアします! だから津田に報告するのだけは勘弁してくれ!」

 

 

 横島先生もいろいろとリーチが掛かっているので、口臭程度でタカトシに報告されるのは勘弁願いたいらしい。

 

「そういえば、私たちも一応歯磨きしておいた方がいいんじゃないか? 別に臭うものを食べたわけではないが、エチケットとして」

 

「そうだねー」

 

 

 一度教室に戻り、歯磨きセットを持ってきて三人で歯を磨く。五十嵐に見られたら不用品だと咎められる可能性もあるが、これはエチケットとして持ち歩いているので生徒会的には問題ではない。

 

「歯磨きは横磨きがいいらしいですよ。テレビで言ってました」

 

「そうなのか」

 

「私は縦磨きがいいって本で読んだよー」

 

「人によって考え方が違うんだな」

 

 

 萩村とアリアの話を聞いて、いったいどっちがいいのか考えていたら、ふと答えが下りてきた。

 

「歯磨き〇ェラは横だから、横磨きがいいのかもしれないな」

 

「それを一票として考えるのはどうなんですか?」

 

「シノちゃん、タカトシ君がいないからって絶好調過ぎない?」

 

「これくらい普通だろ? まぁ、タカトシがいたら大目玉必死だろうけども」

 

 

 あいつは冗談が通じないのが玉に瑕だからな……これくらいなら高校生のうちは冗談で済ませられる話題だと思うんだが。

 

「とりあえず、気を抜きすぎてタカトシの前でも言ってしまわないようにしなければな」

 

「というか、普通に言わないようにできないんですか?」

 

「元々を考えれば、これでも言ってないだろ?」

 

「それはまぁ……」

 

 

 自分でも酷かった自覚はあるので、萩村が言いたいこともわかる。だがたまに言ってしまうくらいは大目に見てほしいと思ってしまうのも仕方がないではないか。だってどんなに頑張っても、私の頭の中は思春期全開なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コトミちゃんへのお説教が終わったタカトシ君が戻ってきたのだけど、今度はシノちゃんがお手洗いに出て行ってしまった。

 

「タカトシ君、お茶淹れるね」

 

「いえ、自分でやりますよ」

 

「気にしないでー。スズちゃんも、お代わりいる?」

 

「いただきます」

 

 

 自分の分を含め、三人分のお茶を用意して席に座ると、シノちゃんからメッセージが届いた。

 

「(シノちゃんから?)」

 

 

 メッセージを開くと――

 

『紙がない。どうしよう』

 

 

――とのこと。なので私は――

 

『シミ付きも需要あると思うよ?』

 

 

――と返信した。するとすぐに――

 

『冗談を言ってないで、紙を持ってきてください』

 

 

――と敬語で催促された。これはさすがに冗談を言ってる場合ではないようで、私は急いでトイレに向かうことに。

 

「七条先輩、どちらへ?」

 

「えーっと」

 

 

 素直に事情を話していいものか考え、さすがに伏せるべきだという考えに至った。だがどうやってごまかせばいいのかわからないので、とりあえず嘘と事実を混ぜて事情を説明しよう。

 

「シノちゃんがちょっとピンチらしくて、ちょっとトイレに助けに行ってくるね」

 

「会長がピンチ!? 大変じゃないですか! 私もいっしょに行きます」

 

「あ、あれ?」

 

 

 何か間違えちゃったようで、スズちゃんも一緒にトイレに行くことに。

 

「おや、萩村さんに七条さん。そんなに急いでどちらへ?」

 

「会長がピンチらしいので助けに」

 

「天草さんが!? 私も行きます」

 

「えっと……」

 

 

 途中で畑さんとカエデちゃんも加わり――

 

「会長がピンチ!? 普段助けてもらってるの私たちも行きます」

 

 

――ネネちゃんとパリィちゃんも加わってさらに――

 

「会長がピンチなんですって!? 今こそ封印された力を解き放つとき」

 

 

――コトミちゃんたちも合流して大所帯になってしまった。

 

「会長、大丈夫ですか!?」

 

『な、何事だ!? 私はただ、アリアに紙を持ってきてもらおうとしただけだぞ』

 

「えっ? ピンチだったんじゃないんですか?」

 

『いや、拭けなくてピンチだが……』

 

 

 扉の向こうで困惑してるシノちゃんと、事情が上手く呑み込めない他の子たち……これって、私がちゃんと説明しなきゃいけないよね?

 

「シノちゃんが紙がなくてピンチって説明するのはあれかなって思って、かいつまんで説明したらこんなになっちゃって……」

 

『そういうことか。ところで、早く紙をくれないか?』

 

「あっ……」

 

 

 肝心な紙を忘れたと思い出したタイミングで、タカトシ君からメッセージが。

 

『トイレの外に紙を置いておきます。早く戻ってきてください』

 

「結局タカトシ君に助けられちゃったね、シノちゃん」

 

『すごく恥ずかしい……』

 

 

 生徒会室の時点で私の用事を察し、さらにこうなることを見越して行動していたようだ。相変わらずタカトシ君はすごいなぁ……




結局ピンチを救うのはタカトシさん……

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