桜才学園での生活   作:猫林13世

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言葉通りです


甘い罠

 ここ最近、タカトシに生徒会の仕事を任せっきりな気もしている。そういうわけで今日はタカトシに休みを与え、私たち三人で生徒会業務を片付けることにした。

 

「――というわけで、タカトシはいないが頑張るぞ」

 

「おー!」

 

「確かに、タカトシに任せておけば大丈夫って空気はありましたね」

 

 

 私の説明にアリアも萩村も納得してくれた。私以外にもタカトシに頼りっきりだったと分かり少しホッとしたが、それ以上に情けない気持ちになってくる。

 

「生徒会長は私だったんだけどな……」

 

「まぁまぁシノちゃん。タカトシ君が優秀だから仕方ないって」

 

 

 アリアの慰めに、私は力なく頷いてから書類に目を通し始める。今日の作業はそれ程多くはないとはいえ、タカトシがいないことでかかる時間は何時も以上だろうし。

 

「失礼します。聡明な会長のインタビュー記事を作りたいのですが」

 

 

 タカトシがいないというのに畑がやってきて、あからさまなお世辞を述べている。何時もなら付き合ってやるところだが、今日はそんな余裕はない。

 

「そんな言葉では乗せられないからな。今取り込み中だ」

 

 

 おべっかでは効果がないと思わせておけば、今日のところは大人しく――

 

「焼き芋」

 

「っ!」

 

 

――まさかの二の矢に私の心は揺らいでしまう。

 

「差し入れです」

 

「仕方ないなー」

 

「文字通り甘い言葉ですね……」

 

 

 焼き芋につられた私を見て、萩村がそんなことを漏らす。

 

「ま、まぁ……ちょっと休憩するくらいなら良いだろ。それで畑、私にインタビューするんだろ? 手短に頼むぞ」

 

「分かりました。ではまず――」

 

 

 焼き芋を食べながら畑のインタビューに答える。タカトシがいたら「行儀が悪い」と怒られそうな光景だが、今日のところは良いだろう。

 

「――では最後に、会長が気になっている異性について」

 

「そ、そんな相手はいないぞ!? 我が校は校内恋愛禁止だからな!」

 

「別に恋愛対象として気にしてる、とは言っていませんが?」

 

「そう勘違いさせるように誘導しただろうが! あんまりしつこいとインタビュー記事自体を発行させないからな!」

 

「それは困りました……では、この質問は無かったことに」

 

 

 インタビューが終わったタイミングで、萩村が畑に声を掛ける。

 

「そういえば、畑さんって何時もマイクを持ち歩いてますよね」

 

「マスメディアに携わる者として、当然です」

 

「捏造が多すぎるがな」

 

 

 以前も盛大にやらかしてタカトシに怒られているというのに、畑は懲りずに捏造記事を飛ばそうとしていた。だがそれは新聞部の良識ある部員たちに止められたとかなんとか。

 

「あと恥ずかしい音を集音プレイできたり」

 

「何も出ないぞ! やっぱり記事は差し止めだ!」

 

「なーに騒いでるんだ?」

 

「ふ、古谷先輩……一応部外者は立ち入り禁止なのですが」

 

 

 私が畑を追い詰めようとしたら、OGの古谷先輩がやってきた。この人は最近、頻繁に遊びに来るな。

 

「おや、古谷元会長。今日は随分とお洒落な恰好をしていますね」

 

「だろー? 後ろを魅せるコーデに挑戦してみたんだ! アドバイザーはナツキ」

 

「大胆だ」

 

「大胆だねー」

 

 

 私とアリアは先輩の格好に素直な感想を漏らす。だって――

 

「カバンチラも大胆ですな」

 

「下は事故だと思います」

 

 

――畑の感想に先輩は自分がカバンチラしていることに気付き、慌ててスカート裾を元に戻す。ここにタカトシがいたら、どんな反応をしただろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに早く帰ってこれたので、家のことをさっさと終わらせることに。意外なことにコトミが自発的に宿題をやっていたので、小言を言わずに済んでいるのも作業を速めている要因だろう。

 

「終わったー!」

 

「後で確認するが、終わったなら少しくらいは遊んでいいぞ」

 

「やったー! あっ、その前にトイレ」

 

 

 年頃の女子として、兄の前でその発言はどうなんだと思ったが、こいつは昔からこうだから仕方が無いのかもしれない。

 洗濯物を取り込み畳んでいると、コトミがムラサメと遊んでいるのが横目で見て取れる。意外と面倒見が良いのが驚きだ。

 

「あっ!」

 

 

 何かを思い出したのか、コトミは再びトイレにダッシュする。

 

「間に合わなかった……」

 

「トイレで携帯を弄る癖、いい加減に直せ」

 

「ゴメンなさい……」

 

 

 どうやら着信があったが、トイレに携帯を置きっぱなしなのを思い出して走っていたようだ。まったく、こいつの癖はどうにかならないものか……

 そんなことを考えた翌日、見回り中にスズが廊下を駆け足で進んでいるのに遭遇した。

 

「スズ、廊下は――」

 

「緊急事態なの! 見逃して」

 

「まぁ、そう言う事情なら」

 

 

 普通ならセクハラとか言われそうな感じだが、お互いにそう言う意図はないのでそのまま流すことに。

 

「スズはトイレ、間に合ったみたいだな」

 

 

 ちょうど反対側までやってきたところで、スズがすっきりした顔で歩いているのが見えたので、俺はそんなことを零した。

 

「萩村がトイレマニアだと!?」

 

「どっから出てきてるんですか、貴女は……そして、くだらない聞き間違いをするな」

 

 

 空き教室から出てきた横島先生が聞き間違いをしたので、とりあえずそのことにツッコミを入れる。

 

「それで、先生はこんなところで何をしていたのでしょうか?」

 

「あっ、いや……資料室もマンネリ化してきたから、別の場所が無いか散策していてな……決して疚しいことはしてないからな!」

 

「強調されると疑いたくなりますが、教室内に気配がないので今日のところは信じましょう。ですが、次何かやらかしたらどうなるか、お忘れない様に」

 

「は、はい!」

 

 

 最後に釘を刺しておいて、俺は見回りを再開したのだった。




聞き間違いが過ぎる人が多いな……

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