桜才学園での生活   作:猫林13世

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完全に狙ってた人が……


急な雨

 生徒会の作業も終わり、後は帰るだけだったのだが――

 

「急に降ってきたなー」

 

「やむまで帰れないね~」

 

 

――外は土砂降りになっていた。

 

「出島さんに頼んで、皆を送ってもらおうか~」

 

「だったら私の車で送ってやろうか?」

 

「横島先生、良いんですか?」

 

 

 出島さんにお願いするのもアリだが、せっかく横島先生が送ってくれると言うならそっちにお願いしよう。そう思っていたのだが――

 

「あっ、でも私資料の整理しなきゃならなかった~」

 

「遠回しに手伝えと?」

 

 

――やっぱり出島さんにお願いしようかとも思ったけど、たまには横島先生の手伝いをするのも良いだろうと思い、我々も資料の整理をすることに。

 

「いや~、手伝ってもらって悪いな」

 

「最初からそのつもりだったのでしょう?」

 

「そんなことないぞ? 今日も残業かと思っていたところに、天草たちが外を見て困っていたから声を掛けただけだ。ところで、津田は?」

 

「タカトシなら、小テストで赤点だったコトミとトッキーの為に特別補習を開いているようです」

 

「アイツは本当に高校生にしておくには惜しい存在だな」

 

「そうかもしれませんが、先生がそれを言っちゃダメでしょ」

 

 

 ただでさえ教師より教師らしいと言われているのだ。その教師である横島先生がタカトシを羨んだら、最早冗談ではなくなってきてしまうではないか。

 

「しかし、黙々と作業するのもつまらないな。天草、何か話のネタは無いか?」

 

「ネタですか? そう言えば昨日テレビでやっていたんですけど、他人の握ったおにぎりを食べられるか否かというのをやっていたんですけど」

 

「苦手な人も多いらしいね~」

 

 

 ここで雑談にアリアも乗っていた。萩村も集中力が切れてきたようで、アリアに続くように参加してくる。

 

「衛生管理を徹底している前提なら食べられます」

 

「私はおにぎりより、おにんにんにぎりの方が好きだけどね」

 

「先生は何を言ってるんですか?」

 

 

 ろくでもないことは分かっている。だがここで話に乗ってしまうと、そのタイミングでタカトシが帰って来る流れになってしまうから流しておこう。

 

「あっ、おにぎりの話をしていたらおにぎり食べたくなってきたな」

 

「えっ、今のタイミングで?」

 

 

 萩村が驚いているが、私のおにぎり欲はもう止められない。横島先生に許可をもらい宿直室を貸してもらうことに。

 

「とゆーわけで、早速おにぎりを作ってきたぞ!」

 

「お帰り~」

 

 

 私たちがおにぎりを作ってる間、横島先生は一人で資料纏めをしていた。元々この人の仕事だから当然なのだが、何故かこの人が握ったおにぎりは食べたくないと思ったから。

 

「いただきまーす」

 

「やっぱりこのすっぱさが醍醐味ですよね」

 

 

 萩村がおにぎりの感想を漏らすと、横島先生が訳知り顔で頷いている。

 

「成熟してない女子が握ったからな」

 

「梅干しの話です」

 

 

 とりあえずおにぎり欲も満たされたので、作業を再開するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コトミと時さんに特別補習をしていたので、今日は生徒会作業には顔を出すことはできないと思っていたのだが、何故か今も生徒会室で作業が行われている。

 

「だが、何故横島先生も?」

 

 

 気配を探る限り、四人で書類整理をしているようだが、今日の作業に横島先生は必要なかった気がする。そうなると、あの人の持ち込んだ仕事を三人が手伝っているのだろう。

 

「遅くなりました」

 

「ご苦労だったな、タカトシ」

 

「まぁ、コトミと時さん相手だからそれ程大変では無かったですけどね」

 

「でもコトミ相手だと、アンタも疲れるんじゃないの?」

 

「最悪脅せばどうとでもなる。身内だしな」

 

 

 余程悪い顔をしていたのか、スズの顔が引きつっている。よく見れば、スズだけではなくシノ会長やアリア先輩、横島先生までも顔を引きつらせているではないか。

 

「それで、皆さんは何を? 今日の作業はそれ程大変じゃないと聞いていたんですが」

 

「横島先生の資料の整理を手伝っているところだ」

 

「そうですか」

 

 

 何でそんな流れになったのかは知らないが、シノ会長がそう言うのだからそれで良いのだろう。

 

「ところで、何故おにぎりが?」

 

「ちょっとおにぎりの話題が出て、それで食べたくなってな。タカトシも食べて良いぞ」

 

「ではいただきます」

 

 

 それ程腹は減っていないが、せっかくの好意を無碍にするのも悪いので、俺はおにぎりをいただくことに。

 

「………」

 

 

 特に考えなく手に取ったおにぎりを食べていると、スズが無言でこちらを見ている。

 

「スズが作ったおにぎり、美味いよ」

 

「よ、よく私が作ったって分かったわね」

 

 

 感想を求めていたのかと思ったが、何故か驚かれてしまう。だがスズの場合はサイズ感で分かると思うんだがな……まぁ、言わないけど。

 

「それで、どうして横島先生の仕事を手伝う流れになったんですか?」

 

「横島先生が送ってくれる代わりに、私たちが横島先生を手伝っているんだ」

 

「何故送ってもらうことに?」

 

「何故って、雨が凄いだろ?」

 

「雨? とっくにあがってますが」

 

 

 確かに瞬間的には凄い雨が降っていたが、今はやんで夕日が出ている。

 

「私、雨上がりの匂いが好きなんだ」

 

「何か良い感じにまとめてるようですけど、生徒に自分の仕事を手伝ってもらった件は、しっかりと報告させてもらいます」

 

「そ、それだけは勘弁してください!」

 

 

 大人のジャンピング土下座を目の前で見せられ、シノ会長たちはあっけに取られているようだが、一度甘い顔をすると癖になるから、ここはしっかりと学園長に報告しておこう。




相変わらず生徒に勝てない教師の図……

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