桜才学園での生活   作:猫林13世

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今のご時世っぽいですね


リモート交流会

 作業の間にカナと連絡を取り合っていたのだが、話したいことがかなりあるのに休憩時間ではそれが賄えない。ならどうするかと話し合いを行い、一つの解決策が浮かび上がった。

 

「さっきカナと電話をしていたんだが、お互いに報告したいことがたくさんあることが分かった。なので急遽交流会を開くことになった」

 

「今から英稜に向かうんですか?」

 

「出島さん呼ぼうか~?」

 

 

 萩村とアリアはこれから英稜に赴くと思っているようだ。だが今のご時世、わざわざ出かけなくても会議はできる。

 

「心配ない。既に始まっているからな」

 

『やっほー』

 

 

 パソコンを取り出してカナと話し合ったドッキリを実行すると、萩村とアリアは一定の驚きを見せてくれたのだが、タカトシは特に興味を示してくれなかった。

 

「タカトシ、何か感想はないのか?」

 

「ただこれがやりたかっただけではないんですね?」

 

「あ、当たり前だ」

 

 

 鋭すぎる視線を向けられ、思わず冷や汗を搔いて視線を逸らしてしまったが、断じてドッキリメインではない。

 

『今日はモニターの中からよろしくー』

 

「なるほど、リモート会議だったんですね」

 

「それならタカトシ君がいるウチが有利だね」

 

「はい?」

 

 

 アリアが何を思ってそんなことを言ったのか私にも分からないので、萩村が聞いてくれて助かった。

 

「だって『妹会議』でしょ?」

 

「リモートです! 全く、七条先輩は耳鼻科を受診した方が良いんじゃないですか?」

 

 

 萩村がツッコミを入れているが、恐らくタカトシは興味がないのだろう。さっきから黙々と雑務を処理しているし。

 

『タカ君、黙々と作業するのは偉いけど、少しはこっちにも興味持って』

 

「すみません、義姉さん。今日中に処理しなければいけない書類が結構あるので、交流会はシノ会長たちとお願いします」

 

「終わった後でやればいいだろ?」

 

「こっちは他の用事もあるんですよ。生徒会作業だけに時間を使うわけにはいきませんので」

 

『タカ君は今日、シフト入ってるもんね』

 

 

 相変わらず忙しいようで、タカトシはあまり交流会には参加してくれないらしい。まぁ、今回はあくまでこの場で行う交流会なので、作業しながらでも問題はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら桜才側ではタカ君が忙しそうにしているようだが、とりあえずリモート交流会は順調に進んでいる。

 

『しかし、リモートだと寛げるな』

 

「同感だね」

 

 

 どちらも自分のホームで交流会を開けるので、必要以上に緊張しなくてもいい。画面越しなので、タカ君から向けられる殺気も、心なしか緩和されるし。

 

「だから今の私たち、下半身裸なの」

 

「ちゃんと穿いてますよ」

 

 

 私が冗談を言うと、サクラっちがカットインして訂正を入れる。まぁ、誰も信じてくれなかった嘘だし、サクラっちがわざわざ訂正しなくても良かったんだけども。

 

「そうそう、英稜もゆるキャラを考えました」

 

 

 青葉っちがゆるキャラの原案を見せると、シノっちとアリアっちが興味深げにその原案を見詰める。スズポンも感心しているようだ。

 

『電話と違って分かり易くていいですね』

 

「そうだね。あっ、タカ君」

 

 

 ここで私は交流会とは関係ないタカ君への用事を思い出してタカ君を呼ぶ。彼は視線だけで私に続きを促してきたので、私はそのまま用件を言うことに。

 

「明日休みだから、今日泊りに行くね」

 

『私情を挟むな!』

 

 

 シノっちに怒られたけど、タカ君は無言で頷いてくれたので問題ない。これでコトちゃんをみっちりしごくことができる。

 

『全くカナは』

 

「てへ」

 

 

 近くにいながらもタカ君との精神的距離があるシノっちが嫉妬していると、何故かアリアっちが力こぶを作ってみせている。

 

『シノちゃん、私に任せて~』

 

 

 いったい何をするのかと見ていると、アリアっちがタカ君に密着しだす。

 

『画面越しに見せつけられるとネトラレ感があるでしょ?』

 

「敗北感しゅごい~」

 

『邪魔すんじゃねぇよ』

 

『「っ!」』

 

 

 作業の邪魔をされて不機嫌になったタカ君の殺気に、私とアリアっちは肩を跳ねさせる。さっき緩和されるとか思ってたけど、相変わらずの威力だったな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リモート会議ではゆっくり話せなかったので、私はタカトシ君のバイトが終わる頃合いに店にやってきた。

 

「そろそろだと思うんだけど」

 

「何がだ?」

 

「っ! た、タカトシ君……驚かせないでよ」

 

 

 通用口前で待っていたのにいつの間にか背後にやってきたタカトシ君に、私は本気で抗議する。

 

「それで、何か用事があるんだろ?」

 

「個人的な相談だったし、リモート会議中に話す内容じゃなかったから遠慮してたんだけどね――」

 

 

 そう前置きして私はタカトシ君に相談を始める。思いのほか長話になってしまったのだが、タカトシ君は嫌な顔一つせず聞いてくれた。

 

「――というわけなんだけど、どうにかならないかな?」

 

「そっちも大変だな。まぁ、義姉さんの方は俺の方で言って聞かせておくから、後輩二人にはそれとなく注意して止めさせるしかないだろうな。サクラに俺と同じ解決方法を採らせるわけにもいかないだろうし」

 

「さすがに公開説教なんてできないよ」

 

 

 英稜の生徒会は別に『傀儡政権』とか言われていないので、私が会長をお説教しているところを見られたらいろいろとマズい。まぁ、桜才でも本当ならマズいことになるはずなんだけどね。

 

「相談できて良かった」

 

「あまり力になれなかったが、少しでも解決に近づいたなら」

 

「十分だよ」

 

 

 魚見会長の軌道修正は私では時間が掛かっちゃうから、タカトシ君が力を貸してくれて本当に良かった。これで少しは生徒会内の風紀も改善されるかな。




真面目な相談が最後だけ……

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