昔は校内で携帯を使用するのは禁止だったが、今ではその校則は無い。なのであちこちで携帯を使っている生徒が見受けられる。
「(やっぱり校則を緩くするのは失敗だったのだろうか)」
さすがに授業中に使ったりする生徒はいないが、それでもあちこちで歩きながら弄っているのを見ると、風紀委員長として不安になってきてしまう。
「ん?」
見回りを続けていると、友人カップルが携帯で写真を撮っている場面に遭遇した。
「自撮りって楽しいの?」
私はそう言うことをしないので、楽しさが分からない。だがこうして続けている人がいるってことは、楽しさがあるのだろうということだけは分かる。
「うん。例えばコレ。昨日撮った自撮り」
そう言いながら写真を見せてくれる。ピースして実に楽しそうな雰囲気が感じられる。
「実はヨシ君を踏んでるところなんだ」
「死角の情報は知りたくなかった! 私が知りたかったのは、自撮りの楽しさなんだけど」
「そんなこと言われても、具体的に説明するのは難しいよ」
結局楽しさは分からないと結論付けようとしたタイミングで、私は背後に悪寒を感じ取り振り返る。
「あら、バレちゃいましたか」
「畑さん」
何回もこの人に脅かされているので、いい加減畑さんの気配だけは分かるようになってきている。タカトシ君のように、誰が近づいて来ても分かるわけではないので、あまり自慢にはならないけど。
「自撮りの楽しさが分からないのでしたら、実際にやってみれば分かるのではないでしょうか?」
「私が自撮りを?」
「あまり行き過ぎない限り見逃すと、先日天草会長も仰っておりましたので」
「そうなのね」
天草さんが言っていたと言うのがちょっとだけ不安だけど、生徒会としての決定ならタカトシ君が何とかしてくれるだろう。そんな考えを抱きながら、私は自撮りをする為に携帯を取り出す。
「あっ」
自分一人で写るつもりだったのだが、丁度通りかかったタカトシ君が見切れてしまった。
「ほほー。自撮りと見せかけてのツーショットとは、風紀委員長もなかなかですな」
「偶然だから!」
「畑さん、新聞部の人が探してましたが」
「おっと。大事な会議があるんでした」
タカトシ君が畑さんを撃退してくれたお陰で、とりあえず濡れ衣は晴らすことができた。
「ところで、カエデさんはこんなところで何を?」
「自撮りの楽しさが分からないって話をしてたら、試してみたらって畑さんに言われまして」
「そうでしたか。ところで、あのカップルの行動は注意しなくても?」
「えっ?」
タカトシ君に言われて視線をそちらに向けると、キスをしながら写真を撮ろうとしていた。
「それは完全にアウトです! 風紀が乱れています!」
「「ごめんなさーい!」」
やっぱり自撮りは全面禁止にした方が、風紀が乱れなくて良いのかもしれない。今度天草さんに相談してみよう。
今日は私と会長が見回りのペアを組むことになってしまった。七条先輩は職員室に横島先生を探しに、タカトシは五十嵐先輩に連れられて自撮りカップルへのお説教をすることになってしまったので、あまりものペアということだ。
「二人とも、道場でゴロゴロして。だらしないぞ!」
「今日は部活休みでしょ? 何してるの?」
道場に誰か人がいると思って覗いてみると、コトミと時さんがぐでーとしていた。部活が無いのならさっさと帰って勉強でもしていればいいものを。
「普段だらしないのには理由があるんです」
「そうなのか?」
「はい。いざという時、人が変わったように無双するギャップヒーローを狙っているんです」
「へー」
「私はそんなつもりないんだけど!?」
コトミの言い訳に、会長は納得しているが時さんは焦っている。恐らく純粋にダラダラしていただけなのだろう。
「というかコトミ」
「はい?」
「こんなことしてる暇があるなら宿題でも片づけておけば? この間もタカトシに散々怒られたんでしょうが」
「ですがスズ先輩。私一人で宿題を片付けられるとお思いですか?」
胸を張って言うコトミに、思わず脛を蹴り上げたい衝動に駆られたが、何とか我慢する。
「少しは自分でできるようになりなさい。開き直っていたってタカトシに報告するわよ?」
「それだけはやめてください!」
直接攻撃よりもタカトシを使った方がコトミには効果がある。何とも情けないが、私一人でコトミを動かそうとするよりも、こちらの方が確実だから。
横島先生に生徒会日誌を提出する為に探しているのだが、何処を探しても見つからない。こういう時タカトシ君がいてくれれば一瞬なんだろうけども、生憎今はカエデちゃんがタカトシ君と行動しているのだ。
「失礼します。小山先生、横島先生を探しているのですが」
最終手段として、小山先生に横島先生の所在を尋ねる。タカトシ君を除けば、この人が一番横島先生の行動に詳しいだろうし。
「あぁ、横島先生ならあそこの個室」
「えぇっ!?」
職員室で凄い発言をされて、私は思わず大声を出してしまう。
「どうしたの?」
「だって『横島先生がアソコに固執』って」
「え? ……え?」
「あれ?」
どうやらまた盛大に聞き間違いをしてしまったようで、私の発言を聞いて小山先生は困ったような顔をしている。もう一度冷静になって聞き直し、私は横島先生がいる個室に向かうことにしたのだった。
聞き間違いが酷い……