桜才学園での生活   作:猫林13世

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移動目的で乗らないな……


サイクリング

 シノちゃんが福引でスモールバイクを当てたので、今日はサイクリングにやってきた。

 

「さすが会長ですねー。私は温泉旅行を狙ったのに温泉の素だったのに」

 

「何故コトミが?」

 

「最近運動不足でして、タカ兄についでだと連れてこられました」

 

 

 確かに自転車は結構いい運動になる。でもコトミちゃんが来ても面倒事が増えるだけな気もしてるんだよね。

 

「俺もそう思いますが、アリアさんが気にする必要はありませんよ」

 

「あれ? 今私、声に出してた?」

 

「いえ、そういうわけではないですよ」

 

 

 どうやらまたタカトシ君に心の裡を覗かれてしまったようだ。相変わらずタカトシ君は凄いなぁ。

 

「それで会長、何を見てるんですか?」

 

「正しい自転車の乗り方を見ているんだ」

 

「自転車なんて普通に乗ればいいじゃないですか」

 

 

 シノちゃんとコトミちゃんが話している横で、出島さんも画面を覗き込んでいる。

 

「安易に見せるより、ギリギリ見えないくらいがいいらしい」

 

「確かに、その方が見えた時の歓びも一入ですからね」

 

「何の動画を見てるんですか!?」

 

 

 タカトシ君が無視を決め込んでいるので、スズちゃんがツッコミを入れた。私が言うのも何だけど、今日の面子はツッコミ側が大変そうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず全員で自転車を漕いでいる。始める前はふざけていたシノさんたちも、いざ漕ぎ始めたらまともな行動をしてくれている。

 

「ところで、何故出島さんとコトミは口を開けてるんですかね?」

 

 

 答えは聞かなくても何となく分かっているが、スズが『ツッコめ』という視線を送ってきていたので一応確認しておく。

 

「「汗が飛んで来ないかなって」」

 

「お前らは二人で先頭に行け」

 

「ではコトミさまがお先に。私はコトミさまの汗でも十分ご褒美ですので」

 

「黙れ。出島さんが先頭、その後ろがコトミで」

 

 

 問答無用で隊列を決めて、俺は一番後ろで走ることに。

 

「それにしても、自転車は飛ばすと気持ちいいですね」

 

「自転車は走らなくても、何時も気持ち良いですよ~」

 

「どういうこと?」

 

「サドルおなにだな!」

 

「会長も怒られたいんですかね?」

 

「こ、コトミの言葉不足を補っただけだぞ!?」

 

 

 どうもコトミや出島さんがいると、シノさんやアリアさんも昔の癖が出てくるようで、さっきからちょいちょい怒っている。

 

「少し休憩にしよう」

 

「そうですか」

 

 

 シノさんの言葉で、とりあえず休憩をとることに。俺としては別に休憩の必要は感じていなかったのだが、良く見れば皆さん、結構汗をかいている様子。

 

「なかなか汗ばむな」

 

「そだねー」

 

「これなら運動不足解消もできてダイエットにもなりそうですね~」

 

 

 三人が話している横で、スズが何かを探している。

 

「あっ、タオル忘れてきちゃった……」

 

「これ使うか?」

 

 

 あまり汗は搔いていないいないとはいえ、一応拭いておいた方が良いだろうと思い、俺は自分のタオルを差し出したのだが――

 

「そんなもの使ったら、スズ先輩が余計に汗ばんじゃうって」

 

「萩村様、こちらをどうぞ」

 

 

――コトミと出島さんがそれを遮って、何だかスズの機嫌が悪くなっていった。

 

「休憩ついでにここで食事も済ませてしまおう」

 

「お腹すいたー」

 

「それは大変ですね。エネルギーが十分ではない体で運動すると、低血糖状態になってしまいます。これを『ハンガーノック』といいます。だからしっかりと食べましょう」

 

「なるほど。覚えやすい名前ですね」

 

「貴女が想像しているものとは全くの別物ですからね」

 

 

 念の為釘を刺しておくと、シノさんがスッと視線を逸らした。そこまで威圧したつもりはなかったんだがな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩も終わりもう少し走ろうと思っていたのだが――

 

「いてて……」

 

「足がつったようですね」

 

 

――コトミが足をつってしまった。

 

「私はここまでのようだ。私のことは放っておいて、皆は先に行ってくれ」

 

「ゲームじゃないんだがな……」

 

 

 ここでコトミを置いていっても何だか気掛かりだし……

 

「タンデム自転車を借りてきた! みんなで乗ろう!」

 

「ナイスアイディアだねー」

 

 

 これならコトミもそれ程負荷が掛からないし、何よりコトミを置いていったことでタカトシが色々と心配しなくて済む。

 

「こうやって連なっていると、つながってる気分になるな」

 

 

 私がポロっと感想を漏らすと、他のみんなも同じ気分なのか無言で頷いている雰囲気が漂っている。

 

「念の為に言っておくが、身体じゃなくて心がだぞ?」

 

「分かってます。沈黙が流れたからって変な誤解するな」

 

「いや、コトミとか出島さんとか、別のことを考えていそうだったから念のために」

 

 

 私が苦し紛れにそう言うと、名指しされた二人が慌てて首を振っている。恐らくはタカトシの怒りの矛先を向けられないように否定しているのだろう。

 

「スズちゃん、脚届いて良かったね」

 

「これくらい届くわー!」

 

「まぁまぁスズ先輩。あんまり怒ると疲れちゃいますよ? もしかして、疲労困憊で動けないといって、タカ兄におんぶしてもらうのが目的ですかー?」

 

「そんなわけあるか! そんな事考えるわけないだろうが!」

 

 

 萩村は否定しているが、私はもしかしたらと疑っている。だって、タカトシにおんぶされるのならそれもありだと思っているから。

 

「せっかく運動してるんですから、少しくらい心を清らかにできないのか、お前は」

 

「これが私だからね~」

 

「胸を張って言うな」

 

 

 最後の最後でタカトシに叱られているコトミを見て、危うく私もああなるところだったのかと思い、少しは昔の癖が出ないように気を付けようと心に誓ったのだった。




清らかにならない心の持ち主たち……

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