ヨガ同好会の件で津田君と相談していたところに横島先生が通りかかった。そのまま素通りすると思っていたのだが、何かを思い出したようにポケットをまさぐっている。
「小山先生、借りてたペンを返すよ。ありがと」
「あっ」
横島先生から差し出されたペンを見て、私は咄嗟に目を瞑る。私の行動を見て横島先生は不審がっているようだが、津田君はそう言うことなのだろうと横島先生が差し出しているペンの前に掌を翳してくれていた。
「おい津田、何だいきなり」
「小山先生は先端恐怖症なんでしょう。ですから尖ったものが視界に入らないよう遮っただけです」
「そうなのか?」
「えぇ……直視できないんですよ」
津田君の気遣いのお陰で、私は無事ペンを受け取ることができる。突き出すように渡すのではなく、普通に渡してくれればよかったのにな。
「でも先端恐怖症か……」
「どうかしました?」
横島先生が何やら感慨深い雰囲気で呟いたので、ついつい聞いてしまった。
「見せヤリプレイの時に初々しさが出せて良いなと思ってな」
「そんな気休め……マジで言ってます?」
「往来の場所で何を言ってるんですかね、貴女は?」
「ヒッ!? ちょっとした冗談だろ!?」
正直先端を見てしまった時より津田君の威圧感に触れた時の方が恐怖なのだが、自分に向けられたモノではないので大丈夫だ。
「と、とりあえず小山先生。ちゃんとペンは返したからな!」
津田君のお説教から逃げ出すように、横島先生は早足でこの場を去ってしまう。残されたのは私と、まだ何か言いたげな津田君の二人。
「まったくあの人は……」
「お疲れ様」
「別に疲れてはいないんですけどね」
何とも言えない表情で呟く津田君に、思わず同情的な視線を向けてしまったのは仕方が無いことだろう。だって、高校生とは思えない程の疲労感が漂っていたから……
会長と二人で見回りをしていたら、保健室の窓ガラスが割れてしまっていることを知った。
「何でもボールが飛び込んでしまったらしい」
「危ないですね」
「早速アリアに頼んでそれを知らせる為のものを用意してもらっているのだが――」
「お待たせ~」
会長が説明してくれているタイミングで、七条先輩が注意書きを持ってきてくれた。
「こんな感じで良いんだよね?」
先輩が持ってきた紙には――
『危ない保健室』
――と書かれている。
「おいアリア。何だかエロい感じになってしまっているぞ」
「やっぱり? 書いてから気が付いたんだけど、何だかそんな感じになっちゃってるよね~」
「私的にはこのままでも良いとは思うんだが、タカトシに怒られそうだ。書き直してくれ」
「分かった~。実はもう一枚書いて来てるんだ~」
今度はちゃんとした注意書きになっており、とりあえずそっちの方を保健室の扉に貼り付ける。
「というか七条先輩、わかっていたなら最初からそちらを出してくださいよ」
「もしかしたら行けるかな~って思ったんだ」
「いや、ダメでしょ」
タカトシがいなくてもダメだと分かりそうなものだ。だがまぁ、ここでそれをごり押ししてこなくなっただけ成長しているんだろうな……
「さて萩村、見回りを続けよう」
「ですね」
七条先輩は生徒会室に戻り、再び私と会長の二人で見回りに。
「おや? 体育倉庫から声が」
一応確認しに行くと、五十嵐先輩が体育倉庫で歌っているではないか。
「五十嵐、体育倉庫で何してるんだ?」
「あ。もうすぐ発表会なので、歌の練習を……ここ誰もいないので」
「秘密特訓ってヤツですね」
私は練習熱心の五十嵐先輩を称えたのだが、会長はさっきの流れが残っていたようで――
「秘密の体育倉庫だな」
「五十嵐先輩、しっかりしてください!?」
――会長の言葉を聞いて何を連想したのか……五十嵐先輩はふらついてその場にへたり込んでしまった。
「会長っ!」
「すまんすまん。こんな所タカトシ以外の男子生徒に見られたら、五十嵐が〇女ではなくなってしまうな」
「そう言うこと言ってるんじゃねぇよ!」
私では力不足ではあるが、一応会長に強めにツッコミを入れておく。そうでもしておかないと、この人は何処までもボケるからな……
昔の癖はとりあえず収まり、今は生徒会メンバーと一緒に帰路についている。
「ん、福引か」
「この前コトミが温泉の素を当ててました」
「そうらしいな」
柔道部がお風呂の使用申請をしてきたことは何事だと思ったが、そう言う事情があったらしい。
「ちょうどティッシュを切らしていたんだ」
「残念賞狙いですか」
ポケットティッシュが欲しくて福引をする人がいるのかどうかは分からないが、私はとりあえず福引をすることに。
「二等大当たりー」
「あれー?」
ティッシュが欲しかったのに、私が当てたのは二等の最新型のスモールバイクだ。
「良かったですね」
「そうだな。せっかく当たったんだし活用したい。とゆーわけで、サイクリングに行こう!」
「シノちゃん、まだ昔の癖が抜けてないの?」
「何だいきなり」
私は今、それ程おかしなことを言っていないんだがな……
「だって、細工淫具でイこうって」
「あはは、アリアの方が昔の癖が抜けきっていなんじゃないか」
「あの、笑ってる場合じゃないと思うんですけど……」
萩村の言葉のお陰で、私たちはそれ以上ふざけ続けることなく済んだ。あのまま続けていたら、公衆の面前でタカトシから大目玉を喰らうところだったぞ……
どっちもふざけすぎ