桜才学園での生活   作:猫林13世

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あけましておめでとうございます


防犯意識

 見回りから戻ってくると生徒会室の扉に鍵が掛けられている。

 

「日ごろから防犯意識を高める為に鍵を掛けるって会長が言ってたけど、中に人がいるんだから気にしなくてもいいのに……」

 

 

 私は自分に割り振られた鍵をポケットから取り出し鍵を開ける。タカトシは風紀委員との打ち合わせに行っているので不在だが、室内には会長と七条先輩が残っているはずだ。

 

「戻りました」

 

「開かない……」

 

「はい?」

 

 

 扉の鍵なら今私が開けたので、いったい何が開かないと言うのだろうか。

 

「PCのロックが」

 

「厄介なことが起きてますね……」

 

 

 そっちの防犯対策もしていたようで、会長が困った事態に陥ったようだ。

 

「てか、何故PCのロックを?」

 

「いや、パソコン本体のロックではなく、書類が入ってるフォルダにパスワード設定したんだが」

 

「そのパスワードをど忘れしてしまったと」

 

「メモも取ってなくてな……」

 

 

 余程自分の記憶力に自信があったのだろう。会長はかなり落ち込んだ様子。

 

「さっき頭を打ってしまったせいか、ど忘れしてしまった」

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 頭を打つなんて、いったい何をしていたのだろうか……タカトシなら鴨居をくぐり損ねたとかあるかもしれないが、会長の身長ではそれはないだろう。

 

「机の下に隠れてアリアを驚かそうとしたら、スカートの中見て逆に驚いてしまって」

 

「追求しにくい話題だ……」

 

 

 何時ものドッキリだったのだろうけど、いったい中を見て何に驚いたのだろう……

 

「そういえば、同じ衝撃を受ければ記憶が戻るかもね~」

 

「それは迷信です」

 

「迷信云々は兎も角、意味なく頭を打つのは抵抗があるな」

 

「でもえきべんって結構頭ぶつけるらしいし」

 

「それは意味がある話なのですか?」

 

 

 タカトシがいないところでは絶好調な二人を相手にしなければいけないので、私はだんだんと嫌気がさしてきた。

 

「どうしてちゃんとメモを取っておかなかったんですか」

 

「やはりメモは必要か。でもそれじゃあパスワードの意味が」

 

「じゃあいい案があるよ~」

 

 

 七条先輩のいい案というのが不安だが、これだけ自信満々なので一応聞くことに。

 

「まず下の毛を剃ります」

 

「は?」

 

 

 やっぱり聞かなければ良かった……

 

「そこにメモしてまた生やすの」

 

「隠れるまで時間が掛かるのが難点だな」

 

「指摘すべきなのはそこじゃない」

 

 

 やっぱりタカトシがいないとどうしようもないな、この二人は……

 

「どうやったら思い出せるだろうか」

 

 

 会長が腕を組んで考え出したタイミングで、扉の鍵が開かれる。どうやらタカトシが戻ってきたようだ。

 

「あっ――」

 

 

 会長が落とした書類をタカトシが拾い上げる。だがその書類を追いかけていた会長がタカトシの腕に思いっきり頭をぶつけてしまう。

 

「大丈夫ですか?」

 

「思い出した!」

 

「はい?」

 

 

 一連の流れを知らないタカトシが何事だという顔をしているが、とりあえず会長がパスワードを思い出したようで一安心だ。これでこれ以上余計なことを言わないだろうし。

 

「よかったよかった。これで書類を保存しているフォルダが開ける」

 

「シノちゃん、気を付けなきゃね」

 

「大丈夫だ。同じ轍は踏まない」

 

「つまり一度きりの関係ってことだね」

 

「どういうことです?」

 

 

 ここで聞いてしまうのが私とタカトシとの違いだろう。アイツは興味なさげに自分の作業に入っているし。

 

「『同じケツは踏まない』って」

 

「て・つ!!」

 

 

 タカトシが戻ってきても癖が抜けきらないようで、この後しばらくは私が二人にツッコミを入れる展開になってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日のパスワード忘却を反省し、私は今後大事な物は安全な場所に記録しておこうと決心した。

 

「というわけで、パスワードはちゃんとメモしたから安心しろ」

 

「それなら大丈夫でそうですね。あっ、でも今度はメモの管理に苦労しそうですね。ただでさえこの部屋は畑さんが忍び込んだりしますし」

 

「その心配は無い」

 

 

 普通なら萩村の心配は当然のものだろう。畑は常日頃から我々の秘密を狙って生徒会室に忍び込んだりしている。

 

「絶対に見付からない場所にメモしたから大丈夫だ! ちょっとヒリヒリするけど」

 

「あれを採用したんですか!?」

 

 

 アリアが提案してくれたお陰で、私以外にこのメモを見れる人は今のところ誰もいない。

 

「そもそもPCにロックしてあるんですからフォルダのロックはいらないのでは? 生徒会室のPCのロックを解除できるのは、役員の四人だけなんですから」

 

「だがちょっと席を外したタイミングで覗かれる可能性もあるだろ? だから二重ロックは必要だと思うんだ」

 

「その結果がこの間のあれでは笑えません。そもそも部屋に鍵を掛けているのですから、畑さんがそう簡単に忍び込めるとは思えません」

 

「そうだと良いんだがな……」

 

 

 普段から鍵を持ち歩いているタカトシや萩村なら兎も角、家の鍵を持ち歩くことに縁がなかった私やアリアはうっかり鍵を掛け忘れるかもしれない。そのタイミングで畑が忍び込む可能性も低くないのだ。

 

「いっそのこと毎回タカトシに書類を作ってもらうか?」

 

「それでは会長の役職をタカトシに譲るんですか? せっかく再任したのに」

 

「むぅ……」

 

 

 ほとんど傀儡会長ではあるのだが、あくまでも会長は私。ここでタカトシに書類の管理まで任せたらいよいよお飾りになってしまう。

 

「とりあえず、防犯対策という名の畑対策はしっかりとしておこう」

 

「ですね」

 

 

 過去に萩村も痛い目を見ているので、私たちは力強く頷いたのだった。




一番注意しなきゃいけない相手は畑さん

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