桜才学園での生活   作:猫林13世

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普段なら参加しないだろう


意外な参加者

 ちょっとお手洗いに行っていたタカトシ君が戻ってきたけど、その手には何か握られている。

 

「タカトシ、そのチラシは?」

 

「今さっき貰ったんです」

 

 

 タカトシ君が持っていたチラシには『水着コンテスト、参加者募集』と書かれている。

 

「これはカヤ先輩の出番では? 読モパワーで」

 

 

 私たちが出ても大した結果は残せないだろうけども、読モとして活動している先輩ならひょっとしてと思ったのだけども――

 

「いやまぁ……ここは若人に任せるよ」

 

「先輩と大してかわらないじゃないですか」

 

 

 恐らくは食べ過ぎてお腹が出てしまったのだろう。カヤ先輩はパーカーを羽織って誤魔化した。

 

「しかし先輩が出ないんじゃ、我々はタダの観客として楽しもうか」

 

「だったらシノちゃんは? シノちゃんなら結構いい所まで行くと思うんだけど」

 

「絶対無理! そういうアリアこそ参加してみたらどうなんだ?」

 

「でもMCがトリプルブッキングだから、スポンサーの力が働いたとか言われたくないよ」

 

「そっちの心配をしなきゃいけないのか、アリアの場合……」

 

 

 私じゃシノちゃんにも勝てないだろうし、そう言う事情もあるからシノちゃんを勧めたんだけど、シノちゃんもダメじゃいよいよ観客としか楽しめない……

 

「あれコレ……男性部門もあるようですね」

 

 

 スズちゃんの一言で、私のシノちゃん、そしてカヤ先輩の三人が目で会話して頷く。

 

「ここは津田君の出番だな!」

 

「今日あまり活躍してないから、ここはタカトシに任せる」

 

「タカトシ君、頑張ってね」

 

「参加しないって方向じゃダメだったんですか?」

 

「せっかくなら楽しみたいだろ?」

 

 

 シノちゃんの言葉に本気で嫌そうな顔をしたタカトシ君だったけど、私たち三人でお願いしたら何とか参加してくれることに。なんだかんだで優しいからね、タカトシ君は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちで散々懇願した結果、津田君が水着コンテスト男性部門にエントリーしてくれた。

 

「津田君以外はマッチョの小父様だらけだな」

 

「自分から参加するだけあって、それだけ自分の肉体に自信があるんでしょうね」

 

 

 鍛え抜かれた筋肉をアピールする男性を観ながら、私たちは津田君に視線を向ける。

 

「一切動じていないな」

 

「タカトシは緊張とは無縁ですからね」

 

「つまらないな。あの津田君が緊張でがちがちになってるところを観たかったのに」

 

 

 私の本音を暴露すると、萩村がジト目で私のことを見てくる。だが津田君と比べると大したことないので放っておこう。

 

「え? 普通緊張の時はカタくならないんじゃないんですか?」

 

「というか、彼のはカタくなる時があるのか?」

 

「あるんじゃないですか? さすがにあの若さで不能ってことは無いでしょうし」

 

「三人ともお静かに」

 

 

 ヒートアップして声が大きくなってきた私たちに萩村がツッコミを入れる。そう言えばこの子もツッコミだったな。

 

『投票の結果、優勝はエントリーナンバー5、津田タカトシさんに決定しました!』

 

「おっ、さすが津田君だな」

 

 

 他の面子も結構良かったとは思うが、さすがに津田君の見た目と均整の取れた肉体には敵わなかったようだ。

 

『おめでとーございまーす』

 

『ありがとうございます』

 

「売れっ子アイドルに囲まれても平常心なんだな、彼は」

 

 

 本当にどういう神経をしているのか気になる。世間の男子高校生はトリプルブッキングのエロコラで抜いているとか聞いたことがあるのに……

 

『自信はありましたか?』

 

『先輩に勧められて参加しただけだったんですけどね』

 

『彼女ですか?』

 

 

 何気ない質問だが、津田君は特に動じることなくインタビューに答えていっている。だがあの三人組、誰かに似てる気がするんだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優勝トロフィーを持ってきたタカトシと合流し、私たちは一休みしている。

 

「いい思い出ができたな」

 

「若干不本意ではありますが」

 

「でもタカトシ君、あのインタビューの後なかなか戻ってこなかったね」

 

「えぇ。トリプルブッキングの三人と少し話していたものでして」

 

「何の話だ?」

 

 

 トップアイドルたちと会話など、心中穏やかでいられるわけがない。さすがのこいつも、アイドル相手ならひょっとしたらとか思ってしまう。

 

「文化祭の時のお礼とか、向こうは遅れてしまったことへの謝罪とか、そんなとりとめもない話です」

 

「そっか……良かった」

 

 

 まぁ、こいつがアイドルとかに興味がないことは知っていたから、焦るだけ無駄だったな。

 

「あっ、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ」

 

「そうだな。先輩――」

 

 

 そろそろ帰りましょうと声を掛けようとしたが、先輩と萩村が寝てしまっている。

 

「先輩の寝顔、撮っちゃお。これもインスタ映えだろ」

 

 

 私がカメラを向けたタイミングで、先輩の頭が前のめりになり、そのタイミングで先輩が涎を垂らす。

 

「だえキッスもインスタ映えしそうだね」

 

「だが絵的に幼女にだえキッスするように見えないか? これじゃあ炎上不可避だぞ」

 

「そうかな? いい思い出になると思うんだけど」

 

「北山先輩、スズ、そろそろ帰りますよ。起きてください」

 

 

 私たちがだえキッスの話題で盛り上がっていると、タカトシが淡々と二人を起こして事を収める。相変わらずこういうことに長けているな。

 

「それからお二人は、ふざけたこと言うなら滾々とお説教して差し上げますよ?」

 

「「謹んで遠慮いたします」」

 

 

 最後の最後で盛大に怒られそうになり、私たちは驚きすくみ上ってしまった。この鳥肌は、プールで冷えたからじゃないだろうな……




誰が先輩なんだか……

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