パリィの好奇心から、七条家が経営している忍者体験ができる施設にやってきた。本当ならコトミにみっちり勉強を教え込む予定だったのだが、スズの負担を減らすという事情から俺も参加しなければいけなくなってしまったのだ……
「(義姉さんには今度、何かお礼をしなければな)」
本来なら俺の役目なのだが、こっちに義姉さんを派遣してもスズの負担が増えるだけ。だからコトミのことをお願いしてきたのだが、やはり何かお礼をした方が良いだろう。
「本日、忍者体験会!!」
「わー」
何やら既にノリノリのシノさんとパリィがやってきた。背後からスズが走ってきているが、どうやらパリィの格好に問題があるようだ。
「パリィ、ズボン履き忘れてるっ!」
「くのいちはみんな生足だよ?」
「ソースが偏り過ぎてるのよ、パリィは! そもそもタカトシに見られたら恥ずかしいでしょう?」
「萩村、タカトシがそんなエロハプに引っ掛かると思ってるのか?」
「そういえばタカトシ、さっきから一回もこっちを見てない」
「タカトシ君はアンラッキースケベ体質だからね~」
見てないのに酷い言われようだが、とりあえずパリィの準備ができたようなので先に進む。あんまり進みたくないんだが、ノリノリのこの人たちを抑え込むのは面倒だから仕方が無い。
「本日は忍者体験会にご参加いただき、ありがとうございます。本日皆様の師範役を務めます、七条家専属メイドの出島サヤカです。忍者の修業は厳しいので覚悟するように」
「忍術を覚えたいです」
「いいでしょう」
この人もこの人でノリノリだな……まぁふざけ出したらまとめて怒ればいいか。
「ではまず、縄抜けの術から」
「縛りたいだけだろ!」
スズがツッコミを入れるが、出島さんにはあまり効果が無さそう。まぁ、この人は怒られても快感を覚える人だからな。
「まぁまぁ、冗談はさておき」
「冗談だったんですか?」
とりあえず視線で批難すると、出島さんはゆっくりと視線を逸らす。恐らくは本気だったのだろう。
「手裏剣修行と参りましょう」
「わー!」
ノリノリでパリィが手裏剣を受け取り、的に向けて投げる。図星に連発してるということは、筋が良いのだろう。
「パリィ、上手だな!」
「ダメだー」
「えっ?」
「ギリギリに当てたいのに、真ん中いっちゃう」
「それはマジで困るね」
「ちなみに、タカトシ君はどうなの?」
アリアさんから手裏剣を受け取り、俺は面倒なので纏めて投げることに。
「五投中五投図星、しかもそれぞれ違う的とは……相変わらず恐ろしい方ですね」
「タカトシスゴーイ!」
何だかパリィに興味を持たれたようだが、ただ単に面倒だったからなんだけどな……
「次は隠密修行です。この廊下を音を立てずに通り過ぎてください」
『曲者!』
どうやら床を鳴らすと判定アナウンスが流れるだな。
「お嬢様、萩村様、パリィ様は失敗ですね」
「なかなか難しいですね」
「ですが、天草様は進めてるようですよ」
「シノちゃん凄ーい」
顔が真剣なだけにアリアさんやスズに尊敬のまなざしを向けてもらえているが、考えがな……
「(床が鳴っただけで重いなんて思わないっての……)」
そもそも鳴りやすい床なのだから、気にしなくてもいいのに……そこは思春期の女子なのだろう。
「では、最後に津田様」
「はぁ」
あまり乗り気ではないが、ここでやらないなんて言えないしな……
「タカトシ、スゴーイ!!」
「シノちゃんも凄かったけど、タカトシ君は速かったね~」
「タカトシは忍者っ!?」
「いや、違うから……」
パリィが目をキラキラさせながら詰め寄ってきたけど、テキトーにはぐらかしておく。説明するのが面倒だと言うのもあったが、シノさんが恨めしそうな視線を向けてきているのに気付いたので、さっさと次に行きたかったというのもあるから。
水ぐも修行ではお嬢様が足パッカーンをしてついつい興奮して、お嬢様の股の部分に切り込みを入れてもっと楽しもうとしてしまいましたが、今日の私は忍術の師範役なのです。若干津田様にその役を取られ気味ではありますが、あくまでも私がホスト側で、津田様はゲストなのです。
「最後はこのロープの壁を登りながら横移動していただきます。ちなみにこちらは、途中で撮影させていただきます」
「撮影ですか?」
「この写真は最後に参加者の方にお配りしているのです」
「思い出ということですか」
既に終わらせている津田様が私の横で皆さんの動きを観察しています。今日いた参加者の方々だけではなく、歴代の参加者の中でもぶっちぎりの凄さでしたね。
「わー、絡まった~!?」
「シャッターチャンス!」
「撮りすぎでは? てか助けろよ。アンタホスト側だって今言ってただろ?」
「はっ!? そうでした」
言ってはいませんが、そんなことはどうでもいいですね。私は絡まったパリィさんを救出し、参加賞として巻物をプレゼントする。
「にんにん」
「すっかり一人前の忍者だな」
「パッと見ると猿轡されているように見えますね」
「それが最後で良いですかね?」
「あっ……」
今日一日見逃してもらえていると思っていましたが、どうやら最後に纏めて怒るつもりだったらしいと思い知らされ、私は今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。だが津田様から逃げ遂せるはずも無く、私は正座させられながら滾々と津田様に怒られるのだった。
怒られる原因に事欠かないな、この人は……