桜才学園はイベントが多いことで有名だ。その理由は、生徒会長である天草先輩がお祭り好きというのもあるが、在校生の大半がノリがいいこともある。そして何より、教師陣がそれを寛容に受け入れてくれているというのもあるだろう。
「随分と立派な笹ですね」
「七夕が近いということで先生たちに相談したら、こんなに立派な笹を用意してくれたんだ」
「凄いですね」
この年になって七夕をやろうとする会長も凄いけど、その為にこれだけの笹を用意する学園側も凄い。やっぱりこの学園全体がお祭り好きな人間で構成されているのかしら。
「じゃあ早速書きましょうか」
「この絶妙なソフトタッチを見よ」
「そっちの『掻く』じゃ――あ~っ!?」
タカトシがいないから絶好調な会長と七条先輩にくすぐられて、私は思わず声を上げる。
「おっ、スズ先輩をくすぐって感じさせているんですか? 私も混ざります!」
「混ざるな! というか、アンタはこっちの手伝いで来てるんだからちゃんとしろ!」
「うへぃ……」
タカトシが全体のまとめ役としていなくなってしまっているので、その代理としてコトミが派遣されている。だがこの子が戦力になるのかしら……
「そういえば、私は何で呼ばれたんでしょうか?」
「タカトシの代わりに七夕飾りを作るのを手伝ってもらう為よ」
「それは分かってますけど、どうして私? そこまで手先が器用なわけじゃないんですけど」
「授業中に居眠りしてた罰だって聞いてるけど」
「ついついダンジョン探索に熱を上げてしまいまして……」
どうやらゲームに熱中し過ぎて睡眠時間を削ってしまったようだ。そんなことして、家から追い出される可能性を忘れているのかしら。
「とりあえず私が一個手本で作ったから、これと同じように作ってね」
「わっかりました!」
元気よく返事をしたコトミだったが、宣言通り手先は器用ではなさそうだ。
「んむむむ……飾り作るのって難しいですね」
「そうだけど、タカトシから飾り担当に指名されてるんだから頑張ろう」
私はあくまでも監視だが、それでも担当には変わりない。だからコトミに檄を飛ばしたのだが――
「まぁ、私は所詮お飾りな存在ですから」
「うまいうまい。じゃあ続きやろうか」
――相変わらずの厨二で誤魔化そうとしてきたので流してやった。
「スズ先輩も最近、ノリが悪いですよね」
「アンタ相手にまともに付き合ってたら終わらないって学習してるのよ、こっちは」
実際はタカトシからアドバイスを受けて身に着けた技だが、コトミにそんな裏事情を知る術もないから黙っておこう。
全体のまとめ役として派遣されていたタカトシ君も戻ってきて、いよいよ短冊を飾る段階になってきた。
「皆願い事を書いてくれてよかったね」
「基本的にノリがいい生徒が多いですからね」
シノちゃんが短冊を飾っている下で横島先生がパンツを覗こうとしていたのを小山先生が止めているのを横目に、タカトシ君が頭を振っている。
「あの人とはじっくり話し合う必要がありそうですね」
「まぁまぁタカトシ君。畑さんのようにカメラで撮ろうとしてるわけじゃないんだから」
「それはそれで問題だと思いますけどね」
まさに監督役と表現した方が良いような貫禄で全体を見ているタカトシ君に、パリィちゃんが近づいてくる。
「タカトシは書かないの?」
「そう言うパリィは、ちゃんと書いたのか?」
「まぁね。でも私、字が汚いからハズカシイ」
「字よりも内容が汚い人がいたから気にする必要は無いだろ」
そう言いながらタカトシ君は横目で私を見てくる。実はさっき書いた短冊に――
『空耳が治りますように(パーティーとパンティーを聞き間違えた)』
――と書いたのを見られてしまってこっ酷く怒られたのだ。
「前半はまともだったでしょ?」
「全体がダメなら、前も後も関係なくダメです」
「厳しい……」
先生に怒られている感覚に陥りそうだけども、タカトシ君は間違いなく後輩。それでも怒られることに違和感を覚えないのは、私たちがいかにタカトシ君に怒られ過ぎているかが関係しているんだろうな。
生徒会長と副会長ということで、私たちは最後に短冊を飾ったのだが――
「被りましたね」
「被ったなー」
――タカトシと願い事の内容が被ってしまった。
「シノちゃんもタカトシ君も、学園のことちゃんと考えてて偉いね~」
「ですが、二人が同じ願いだと、どっちかが真似したと思われませんかね?」
「じゃあ俺が書き直しますよ」
「いやいや、二人で願えば効果二倍になるかもしれないだろ? より良い学園作りは私一人の力では敵わないかもしれない。だから右腕である君の力も必要だと思うんだ」
本当はタカトシと同じ願いなのが嬉しいので、ここで変えられたらこの悦に浸れなくなってしまうという気持ちがあるのだが、今言ったことも本音なのでタカトシは伸ばしていた手を引っ込めてくれた。
「それにしても、天の川で隔たれた織姫と彦星は、年に一度しか会えなくなったという話、あれは凄いよな」
「遠距離恋愛ってヤツですね」
「愛する者同士が年に一度しか会えないなんて、切ないですね」
「そうだな」
しみじみと呟いていると、丁度通りかかったコトミが一言。
「ですけど、最近は相互オ〇ニーってのも流行ってるらしいですし」
「今は情緒が欲しいんだよなぁ!」
「くだらないこと言ってると、小遣い減らすか家から追い出すぞ」
「失礼しましたっ!!」
タカトシの脅しに、コトミはかかとを鳴らして敬礼し、折り目正しく頭を下げて去っていった。
相変わらずのコトミ