桜才学園での生活   作:猫林13世

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自分は苦手です


辛いものへの興味

 今日は昼休みに生徒会室に集まって話し合いをしたので、その流れで弁当は生徒会室で食べることに。普段は一人で食べることが多い――偶に柳本と一緒に食べるが――ので、この光景はなんだか新鮮だ。

 

「辛っ!」

 

「どうしました?」

 

 

 黙々と食べていたかと思ったらいきなり声を上げたシノ会長に、形式的に問いかける。隣でスズが肩をビクつかせたから、事情を聞いておこうと思ったのだ。

 

「最近辛いものにハマってしまった」

 

「へー。シノちゃん、すぐに新しく興味を持てるものがあって凄いな~」

 

「微妙に褒められてない気がするのは、気のせいか?」

 

 

 アリア先輩の言葉に棘を感じたようだが、アリア先輩からはそんな感じはしていない。つまりはシノ会長の気にし過ぎなのだが、それを教えてあげる必要は無いだろう。それくらいでこの二人が仲違いするとも思えないし。

 

「まぁ良い。それよりタカトシも辛い世界を体験してみないか?」

 

「興味はありますが、食材全部を辛く味付けするのはね」

 

「大丈夫だ。早速これを陰部に……」

 

「何言ってるんですかね?」

 

 

 笑顔で問い詰めると、シノ会長は取り出したチューブからしを慌ててしまう。そこまで脅したつもりは無かったのだが、その後ふざけることなく放課後になった。

 

「――てことがありまして」

 

「シノっちは相変わらずだね」

 

 

 夕飯も済ませて片づけをしているのだが、今日は義姉さんが皿洗いをしてくれている。

 

「拭くのは俺がしますよ」

 

「ありがと。本当ならコトちゃんにさせたいんだけどね」

 

「洗った枚数と棚に戻る枚数が同じなら任せますが」

 

 

 アイツのことだから何枚かは割りそうだから、手伝いでもさせたくない。

 

「それじゃあ拭いてもらうついでに、これも吹いてくれる?」

 

「それは自分で冷ましてください」

 

 

 淹れたてのお茶を冷ませという意味での吹くだったので、俺はあっさりと流してシンクの掃除に取り掛かる。

 

「相変わらず真面目だね~。どうしてその真面目さがコトちゃんには無いんだろう」

 

「何でですかね……」

 

 

 アイツが急に真面目になったら、それはそれで心配になるだろうけども、少しくらいは真面目になって欲しいと思ってしまう。

 

「タカ君も少しは不真面目になってみたら分かるのかな?」

 

「俺がふざけだしたらこの家も生徒会も終わってしまう気がします」

 

「かもね」

 

 

 小さく笑う義姉さんに、俺は肩をすくめてみせる。この人も不真面目な部分は見受けられるが、やろうとすればきちんとできる人だから分かってくれたのだろう。

 

「お義姉ちゃん、お風呂空いたよ~」

 

「タカ君、一緒に入る?」

 

「お一人でどうぞ。というか、泊まってくんですか?」

 

「明日は休みだからね」

 

 

 どうやら義姉さんは最初から泊っていくつもりだったようだ。まぁ、わかっていたけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シノちゃんの辛いもの好きは意外と長く続いていて、今日も辛い物を食べている。

 

「辛っ! 口から火が出そうだ」

 

「ホントハマってるね~」

 

「感想は良いから水をくれ!」

 

 

 どうやら本気で辛いようで、シノちゃんは水分を求め出す。私が何か用意しようとしている間に、タカトシ君が買ってきたペットボトルの水を差し出していた。

 

「会長、きぐーですね。私もです」

 

「な、何がだ?」

 

 

 漸く落ち着いたのか、シノちゃんがコトミちゃんに反応を示した。

 

「竜族の力に目覚めまして」

 

「えっ、何の話?」

 

「口から火を吐く話です」

 

「ふざけてないで教室に戻って勉強しろ。次の時間、小テストなんだろ? 六十点以下だったら小遣い取り上げるからな」

 

「殺生なっ!?」

 

 

 タカトシ君がコトミちゃんを追い払い、私たちもそれぞれの教室に戻る。午後の授業って眠くなるって聞くけど、本当かな~?

 

「シノちゃん、生徒会室に行こう」

 

「だな」

 

 

 結局滞りなく授業も終わったので、私はシノちゃんと二人で生徒会室へ向かう。クラスメイトの何人かは睡魔と戦っていたようだけど、受験生だけあってだいたいの人は真面目に授業に取り組んでいたのが印象的だった。

 

「ふー」

 

「どうしたの?」

 

「辛いものにハマっているのは良いが、他の趣味が無くてな……それを探していて疲れ気味なんだ」

 

「シノちゃんは気にし過ぎだと思うけどな~」

 

 

 前にタカトシ君が言っていたけど、シノちゃんは十分に趣味がある方だと私も思う。本当に無趣味だったら、そもそも何かに興味を持とうとも思わないだろうし。

 

「そういえばスズちゃんも疲れ気味って言ってたっけ」

 

「何の話です?」

 

 

 タイミングよくスズちゃんが現れ、シノちゃんと疲れ具合を確認し合っている。

 

「疲れている時には――これ!」

 

 

 私が蝋燭を取り出すと、シノちゃんとスズちゃんが緊張した面持ちをしだす。

 

「アロマキャンドルだよ~」

 

「何だ、てっきり垂らすのかと思ったぞ」

 

「そんなことしないよ~。でも、タカトシ君にされたいかも」

 

 

 タカトシ君は教室で横島先生と男子数名を纏めてお説教中らしいので、こんなボケも言える。

 

「ちなみにこのジャスミンの香りには、リラックス効果に美肌効果、そして催淫効果があるんだよ~」

 

「それ余計に疲れちゃうだろ!」

 

「あれれー?」

 

「二人とも、タカトシが来ました」

 

「「っ!」」

 

 

 スズちゃんの言葉に私たちは肩を震わせて背後を振り返る。そこには呆れているのを隠そうともしていないタカトシ君が、盛大にため息を吐いている姿があった。

 

「お二人も怒って差し上げましょうか?」

 

「「け、結構です……」」

 

 

 結局アロマキャンドルは使用することなく、そのまま持ち帰ることになってしまったな……




やっぱりタカトシが怖い……

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