桜才学園での生活   作:猫林13世

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すぐに気付こうぜ……


知らない事情

 図書室に用があり一人でやってきたのだが、意外なことにコトミが図書室で読書をしていた。

 

「コトミ」

 

「あっ、かいちょー」

 

 

 私が小声で声を掛けると、コトミも何時もよりかは抑えた声で返事をくれる。聞こえるか聞こえないかの声だったのだが、ちゃんと聞こえたらしい。つまり、それ程集中して読んでいたわけではないのか。

 

「姿勢が悪いぞ。ちゃんと背筋を伸ばして座りなさい」

 

「ありゃ?」

 

 

 どうやら無意識だったようで、コトミは自分の姿勢を確認して頭を掻く。

 

「胸が重くって、だんだん前のめりになっちゃうんですよー」

 

「(な、何だってっ!?)」

 

 

 私は自分の胸に視線を落とし、そして肩を落とす。私は前のめりになることなんてないので、その気持ちが理解できないからだ。

 

「じょ、冗談です。姿勢が悪いのは私がただ怠けてるだけですから」

 

「本当か?」

 

「ほ、ほら! アリア先輩とかお義姉ちゃんとか、胸大きいですけど姿勢悪くないですよね? あとサクラ先輩とかカエデ先輩とかも」

 

「そう言われれば……」

 

 

 つまり私は、コトミのその場しのぎの嘘に気付けないくらい胸がないということになるのか……

 

「はぁ……」

 

「あ、あれ?」

 

 

 フォローを入れたはずなのにガックリしている私を不思議そうに眺めるコトミ。とりあえず姿勢だけは気を付けるように注意してから生徒会室に戻ることに。

 

「ただいま……」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 あからさまな態度だったのか、部屋に入るなりタカトシが心配そうに声を掛けてくれた。

 

「実は図書室でコトミに会ったんだが――」

 

 

 私が事情を説明すると、タカトシはコトミのその場しのぎの嘘に、アリアはそれに気づけなかった私に、そして萩村は私と同じように自分の胸へ視線を落とし、それぞれ別の感情を露わにした。

 

「バカ妹が申し訳ございませんでした」

 

「タカトシが悪いわけじゃないだろ? まぁ、すぐに気付けなかった私も悪かったから」

 

「シノちゃんは気にし過ぎだと思うけどな~。慎ましやかな胸が良いって人もいっぱいいるんだから」

 

「知ったことかっ!」

 

 

 私がアリアへ喰ってかかると、そのタイミングでメッセージが送られてきた。

 

「誰だ? って横島先生か」

 

「横島先生? あの人確か出張中だったような」

 

 

 今日は横島先生がいないので代理の生徒会顧問として小山先生がやってきて事情を説明してくれた。まぁあの人がいないと言うのは生徒会にとって何のダメージも無いので聞き流していたのだが、まさか連絡が来るとはな。

 

「何だ、ホテルからか」

 

「えっ? シノちゃん、何で興奮してるの?」

 

「何だいきなり」

 

「だって今『火照る身体』って」

 

「愉快な聞き間違いするなー!」

 

「ヤッホー!」

 

 

 私がアリアへ再び喰ってかかろうとしたタイミングで、今度はパリィが遊びに来た。

 

「パリィ。遊びに来るなとは言わないが、せめてノックはしろ?」

 

「ごめーん」

 

「ヒッ!?」

 

 

 私がパリィに説教を開始しようとしたタイミングで、萩村の悲鳴が上がり、視線の先には――

 

『カサカサ』

 

「ご、ご……」

 

 

 口にしたくない例の虫が金庫の陰から現れていた。

 

「あーいうの、何て言うんだっけ? がん……がんめん――」

 

「顔面ザー〇ンパック?」

 

「あー」

 

『パン』

 

 

 アリアがパリィに嘘を教えている横で、タカトシが例の虫を叩き潰して処理してくれた。

 

「七条先輩、少しよろしいでしょうか?」

 

「ご、ゴメンなさい……シノちゃんとスズちゃんの顔面が真っ白になってたからつい」

 

「人が戦いてる横で遊ぶなよな!」

 

 

 タカトシに代わり私がアリアに説教をして、とりあえずこの問題は終了になった。全く、何であの虫が現れるんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャーナリストを志す者として、普段からボイスレコーダーを持ち歩いている。

 

「校則的にはグレーですけど、取材に必要ということなら許可しましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 津田副会長からのチェックを潜り抜けて、私は合法的にボイスレコーダーを持ち歩くことができる。

 

「そのプロ意識は尊敬します」

 

「津田君……」

 

『トクン』

 

「ろくでもない効果音の為に持ち歩いているなら没収しますよ?」

 

「ちょ、ちょっとした冗談ですのでお許しを!」

 

 

 ちょっとした悪ふざけでも、この人には怒られるんだった事を思い出し、私は慌ててボイスレコーダーをしまい込む。ここで回収されたらこの後の取材に使えなくなってしまうから。

 

「五十嵐さん、少しインタビューよろしいでしょうか?」

 

「こ、ここで? 済ませてからじゃダメですか?」

 

 

 トイレの前で五十嵐さんを見つけて声を掛けたのだが、どうやら切羽詰まってるようだ。

 

「わかりました。私もちょっと催してきたので、一緒に入りましょう」

 

 

 さすがに個室は別だが、私は五十嵐さんの隣の個室へ入る。

 

「(ちょっとした悪戯くらいなら許してくれるよね)」

 

 

 そう思って私は懐からボイスレコーダーを取り出し、録音してある効果音を流す。

 

『ゴクゴク』

 

「誰が飲尿してるのっ!?」

 

「畑さんも七条さんもいい加減にしてください! タカトシ君に報告しますよ」

 

「「それだけは勘弁してください!!」」

 

 

 五十嵐さんに怒られるのもそれなりに堪えるけど、津田君に怒られたら活動休止に追い込まれる可能性がある。七条さんは別の理由で恐れてるようなのだが、私たちはとりあえず五十嵐さんに謝り許してもらうことに尽力するのだった。




お説教コースまっしぐら

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