朝から雨で気が滅入っていたが、通学途中でタカトシと会えたので気分は晴れやかだ。
「しかし、こう毎日雨だと困ってしまうな」
「そうですね。洗濯物が乾かないと困りますし」
「発言が主夫すぎるぞ……」
「そうですかね? コトミだけでも大変なのに、この間義姉さんがびしょ濡れで帰ってきたのでそう思っただけなのですが」
「待て。何故カナの洗濯物事情をお前が知ってるんだ? というか、何故そもそもカナが津田家へ帰っているんだ」
洗濯物云々よりも、カナが津田家へ帰宅しているという事実が気になって仕方が無い。まさか、遂に義姉弟から同棲相手へ昇格したとでも言うのだろうか。
「コトミの宿題を見てもらう約束だったのですが、急に降られただけですよ。最低限の着替えは置いてあったので、それに着替えてもらって濡れた物は洗濯しただけです」
「だが何故タカトシが洗濯を? カナなら自分でできるだろうが」
私が引っ掛かったのはそこだ。カナはコトミのように家事ができないわけではない。まぁコトミも柔道部で経験を積んでいるので、洗濯くらいはできるようになっているようだが、それでもタカトシの手際の良さには敵わないので、津田家ではタカトシが洗濯を担当している。
「ちょうどコトミの服も洗濯しなきゃいけなかったので、そのついでに」
「また何かやらかしたのか、アイツは」
血のつながりはないが、コトミは我々生徒会メンバーの妹的な立場になりつつあるので、思わずその様な感想が漏れ出てしまった。隣ではタカトシが苦すぎる笑みを浮かべているので、他にも何かやらかしているらしい。
「会長、タカトシ、おはようございます」
「おはよう萩村。轟もおはよう」
「おはようございます。何の話で盛り上がってたんですか?」
「雨ばかりで洗濯物が乾かないという話だな」
「こっちと似てますね。こっちは革は蒸れて困るという話をしてました。あっ、革ですからね? 決して皮被りの話では――」
「勘違いしてないから安心しろ」
轟は相変わらず絶好調の様で、背後でタカトシの機嫌が悪くなるのを感じ取り咄嗟に私が会話を打ち切る。
「それで洗濯物ですけど、スズちゃんが一週間同じパンツを履けって」
「言って無いわ!」
「あれ? スズちゃんが履き続けてるんだっけ?」
「そんな話はしていない! アンタが勝手にそんなことを言いだしただけだろうが!」
忘れがちだが、萩村もツッコミだったな……普段タカトシが対応してることが多いからすっかり油断していた。
「スズちゃんはノリが悪いな~」
「こんな話題に付き合ってられないわよ」
萩村がバッサリ切り捨ててこの話題は終了。私たちはそれぞれ昇降口に向かったのだが、私だけ学年が違うのでちょっと寂しい。
道場が雨漏りしているので、今日の練習は中止だと思ったのだが――
「こうやって水滴を打つ練習を――」
「そんなことができるのはお前だけだって……」
――主将がやる気満々なので結局練習が行われることになった。
「コトミ、雨漏り直せないか?」
「マネージャーの仕事じゃない気がしますけど……まぁ、たとえマネージャーの仕事でもできませんけどね」
タカ兄ではないのだ。何でもかんでもできるなんて言えないし、そもそも雨漏りなんて直したことが無い。
「こう言うのは業者に頼むものですよ。学校がお金出してくれるわけですから」
「そうかもしれないが、来年の予算編成でそのことでマイナスされないか心配だろ?」
「こればっかりは私たちの所為ではないので――ってトッキー! 早くギブアップして!」
主将とトッキーが組手をしていて、トッキーが主将に締められているのだが、私は急いでギブアップするよう勧める。
「この程度てギブアップなんて――」
「トッキーの股に雨漏りが侵食してお漏らししたみたいに――」
「参った!」
さすがにトッキーもギブアップしてその場から逃げ出す。だがどうしても濡れてしまったところが目立ってしまう為、一度着替えにロッカーへと消えていった。
「コトミちゃん、やっぱりタカトシ君に相談しておいて」
「分かりました」
タカ兄に相談した翌日、無事に雨漏りは修理されることとなり、そのことで柔道部の予算が減ることは無いということが分かり、中里先輩はホッとしていたのだったが、普通そんなことがあるのだろうか?
午前中は雨だったけども、午後からは久しぶりにお日様が出ている。私たちは早めに生徒会業務を終えて帰ろうとしたのだが――
「きゃっ!?」
――見事に足を滑らせて泥まみれになってしまった。
「やっちゃった……」
「タカトシがいれば受け止めてもらえたんだがな」
タカトシ君は道場の雨漏りの現状の確認と、できそうなら修理を担当するということで不在。なので私が足を滑らせても助けてもらえなかったのだ。
「出島さんを呼ぼう。私が代わりに連絡する」
「ゴメンね」
シノちゃんに出島さんへ連絡してもらい、これでとりあえずは安心して帰れると思ったのだが――
「汚物プレイしたんですか!? どうして私を呼んで下さらなかったのですか」
――ちょっと勘違いされてしまった。
「泥濘の上で転んだんですよ」
「なんだ、そうでしたか……てっきりお嬢様がそう言うプレイに目覚めてくれたのかと思ったのに」
「興味は少しあるけど、学校ではしないよ~」
出島さんに事情を説明し、ついでにシノちゃんとスズちゃんも家まで送ってもらうことに。本当はタカトシ君もいれば良かったんだけど、学校からの信頼度から仕事を任されることも多いし、こればっかりは仕方ないよね。