桜才学園での生活   作:猫林13世

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あまり縁がないな


限界の戦い

 家で一人でいても退屈なので、私は同僚の横島先生に電話することに。あの人も似た境遇だから、恐らくは電話しても邪魔になることは無いだろうと思って。

 

「もしもし横島先生? 今お暇ですか?」

 

『ヒマだよー』

 

 

 良かった。このままお喋りでもして時間を潰せれば――

 

『もう一時間トイレに篭っててさ』

 

「かけ直しますね」

 

 

――タイミングは最悪だったようだ。

 結局その後横島先生からかけ直してもらうまで、私は電話するタイミングがつかめなかった。

 

「結局出なかったよ……」

 

「あら」

 

 

 翌日横島先生を助手席に乗せながら学園に向かっていると、横島先生がつらそうに呟いた。

 

「便秘は辛いですよねー」

 

「あぁ……」

 

 

 本当に辛そうな顔をしているので、私はどうにかしてその辛さを紛らわせないかと考えを巡らせる。

 

「でも案外ふとした時にくるものですよ」

 

「そうだと良いんだがな……」

 

 

 私の慰めもあまり効果が無かったようで、横島先生の顔色は優れない。

 

「……きた!!」

 

「え!?」

 

 

 こんなところでこられても……さすがに車の中で出されるのは避けたい。

 

「もう少しで学園ですからがんばって!!」

 

「うん……」

 

 

 既に限界に近いのか、横島先生は口数が少なくなってきている。

 

「あんまり揺らさないでね」

 

「安全運転心掛けます!!」

 

 

 横島先生も我慢しているが、私だって横島先生に車を汚されるかもしれないという恐怖がある。ここは何時も以上に安全運転を――

 

「ほ、舗装工事中……」

 

「ぐわーーっ!!」

 

 

 道路ががたがたになっており、その上を走らなければいけなかったので、横島先生は顔面蒼白になりながらも、必死に便意と戦っていた。

 

「と、到着しました」

 

「何とかもった……」

 

 

 後はトイレに向かうだけなので、横島先生の顔色はさっきより良くなっている。

 

「あら、生徒会役員のみんながいますね」

 

「津田はいないようだな」

 

 

 恐らく津田君は別の仕事を頼まれているのだろうが、あの面子だと何処か不安になるのは何故だろう。

 

「あっ、肥料忘れちゃった」

 

「うっかりしてたな」

 

 

 ほらやっぱり……会長は天草さんだけども、津田君がいないとうっかりが多いらしいのよね。

 

「私のでよければ使う?」

 

「嫌な予感しかしないのでお断りします」

 

「というか横島先生、そんなこと言ってる余裕があるなら早くトイレに」

 

「冗談でも言ってなきゃ危ないんだよ……」

 

「えぇ……」

 

 

 既に限界に近いところまで来ているらしいと、今の発言で理解した。しかしこれ以上私にできることは無いので、とりあえず間に合うことを祈っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎内に入り、後はどうにか漏らさないようにゆっくり歩くだけ。

 

「もう少しだ。踏ん張れ私。あっいや、踏ん張ったらマズい……」

 

 

 少しでも力んだら出てしまう。教師が学校で粗相なんてしたら、畑の餌食になってしまうだろう。

 

「ふー重い……」

 

「………」

 

 

 これは日ごろの行いが悪いからだろうか。目の前で重そうな荷物を運んでいる先生が、これ見よがしに腰を押さえているではないか……

 

「(現状を考えたら無視せざるを得ないのだが、近くに生徒もいないしな……)」

 

 

 さすがにこの現場をスルーするのは良くないと私でも分かる。だが誰かに頼もうにも周りに人はいない。つまり――

 

「ぬぉおおおお」

 

「すまんねぇ」

 

 

――私がこの荷物を運ぶしかない。

 

「(あっ、もう限界かも……)」

 

 

 荷物を運び終わってホッとしたタイミングで、私は自分の便意が限界に達したことに気付いてしまった。何とかしてトイレに駆け込まなければいけないが、走れば出てしまう。そんな瀬戸際のせめぎ合いを行いながら、私はギリギリでトイレに到着したのだった。

 

「(今は凄く幸せな気分だ)」

 

 

 この幸せを誰かと分かち合いたいと思い、私はトイレを済ませて生徒会室へと向かった。

 

「はーーー、スッキリ」

 

「分かります、その気持ち」

 

 

 運よく女子しかいなかったので、便秘の辛さを理解してくれた。

 

「天草も便秘気味か?」

 

「今は平気です」

 

「そうか。でも本当に危なかった」

 

「良かったですね~」

 

「でも何か忘れている気が――」

 

 

 何を忘れているのかと考えたタイミングで、下半身から物が落ちる音が。

 

「あ」

 

 

 ズボンがずり落ちてしまっているではないか。

 

「ぽっこりお腹解消したのにベルトの穴の位置を戻すのを忘れてたのか」

 

「あはははは、良くありますよね」

 

「私だけじゃなかったんだな」

 

「あの、とりあえず穿いては?」

 

 

 萩村にツッコまれ、私はゆっくりとずり落ちたズボンを穿き直す。

 

「津田がいたら責任取ってもらわなきゃいけなかったかもな」

 

「タカトシがこれくらいで動じるとは思いませんけど。むしろ汚いものを見るような目を向けられそうです」

 

「それはそれで興奮しそうだ。なら津田が来るまでこの格好でいるか?」

 

「我々がそんな事許すとでも?」

 

 

 天草から殺気を向けられたが、津田と比べれば可愛いものだ。この程度で動じる私ではないのだが、さすがに何時までもパンツ丸出しの格好でいるわけにもいかないのでとりあえずズボンを上げ、ベルトの穴の位置を普段通りに戻す。

 

「これで忘れてたことも解消して――」

 

「横島先生、早朝会議を欠席した理由を知りたいと学年主任が――」

 

「しまったっ!?」

 

 

 書類に目を通しながら生徒会室に入ってきた津田の言葉に、私はさっきとは別の意味で顔面蒼白になってしまう。わざわざ小山先生に車で送ってもらったのは、早朝会議があったからだったのに……




結局顔面蒼白な横島先生

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