桜才学園での生活   作:猫林13世

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ペアはそのままで


それぞれ迷子

 魚見会長に誘われて動物園に来たのだが、周りに人が多くなってきてしまい周りに知り合いがいない状況になってしまった。

 

「どうしよう……」

 

「サクラ」

 

「あっ、タカトシ君」

 

 

 背後から声を掛けられ、私はホッとしてタカトシ君に駆け寄る。それと同時に周りを確認したが、タカトシ君以外の姿は無かった。

 

「どうやらはぐれてしまったようだな」

 

「タカトシ君なら気配察知でどうにかなるんじゃないの?」

 

「さすがに人が多すぎる。文明の利器で集合場所を決めた方が良いだろうな」

 

 

 そう言ってタカトシ君は携帯を弄り出し桜才生徒会メンバーに連絡を入れる。

 

「中央広場で合流することになった」

 

「じゃあ私の方も連絡を――」

 

「上手いことペアではぐれてるらしく、そっちの連絡はしなくても大丈夫みたいだ」

 

 

 そう言ってタカトシ君はトーク履歴を見せてくれた。魚見会長は天草さんと、青葉さんは七条さん、広瀬さんは萩村さんと一緒だとそこから読み取れる。

 

「大丈夫なのかな……」

 

「不安ではあるが、小さな子供じゃないから平気――だと思いたい」

 

 

 タカトシ君が希望的観測を言うなんて……これはよっぽどなことなのだろうな。

 

「とりあえず中央広場へ移動するか」

 

「そうだね」

 

 

 タカトシ君の隣を歩いていたのだけど、人が多いのでどうしても距離ができてしまう。私がタカトシ君のように人の間を縫うように歩ければいいのだけども、そんなことはできないので離されてしまうのだ。

 

「サクラ、はぐれないように繋いでおいた方が良いな」

 

「えっ?」

 

 

 タカトシ君が手を差し伸べる。この行為を勘違いする程、私は鈍感ではないつもりだ。

 

「良いの?」

 

「ここでサクラが人波に呑まれたら探すのが大変だからな。確かサクラって、地図を見るのが苦手じゃなかったか?」

 

「うっ……」

 

 

 確かに地図を見るのは苦手だが、何だか子供扱いされた気分……だがここで強がってタカトシ君の手を突っぱねるわけにもいかないし……

 

「失礼します……」

 

 

 タカトシ君の手を取り、私は視線を下に固定しながら歩く。

 

「何で下を見てるんだ?」

 

「な、何でもないよ!?」

 

 

 まさか見られてたとは……

 

「(い、言えない……タカトシ君と手を繋げたことが嬉しくて顔がにやけちゃうからなんて)」

 

 

 必死ににやけないようにしているのだが、手から伝わるタカトシ君の体温でどうしても顔の筋肉が緩んでしまう。だからなるべく見られないように俯いているのだ。

 

「理由は兎も角、人とぶつかるから前を向いていた方が良いぞ」

 

「そ、そうだね」

 

 

 照れている場合ではなかった……人混みではぐれないように手を繋いでいるのに、下を向いていたらぶつかってしまうじゃないか……

 そんな簡単なことに気付けない程、今の私は舞い上がってしまっているようだ。だって、こんな当たり前のように手を差し伸べてもらえるなんて思っていなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集合場所に到着したは良いが、スズ・広瀬さん以外のメンバーの姿が見えない。

 

「それで、何でスズは広瀬さんに肩車されてたの?」

 

「高い所から探した方が見つかるかと思ってしました。逆に津田先輩は何故森副会長と手を繋いでるんですか?」

 

「人が多くてはぐれる恐れがあったからね」

 

 

 広瀬さんに言われて俺は手をつないだままだったと思い出し離そうとしたのだが――

 

「………」

 

「サクラ?」

 

「……えっ? ゴメンタカトシ君、なにかな?」

 

「いや、そろそろ手を離しても大丈夫だろうから」

 

「そ、そうだね!」

 

 

 何やら慌てて手を離したサクラだったが、その理由は追及するのは止めておこう。

 

「タカトシ、気配でどうにかならないの?」

 

「さっきサクラにも言ったが、こう人が多くては――ん?」

 

 

 人垣の向こうに覚えのある気配を見つけ、俺は携帯を取り出す。

 

「シノさん、義姉さん、こっちです」

 

「やっと合流できたぞ……」

 

「シノっちがあれもこれもって好奇心で動くから」

 

「カナだって同罪だろっ!?」

 

 

 どうやら会長コンビは好奇心に忠実過ぎてはぐれてしまったようだった。

 

「後はアリアさんと青葉さんか……」

 

 

 意識を集中し、二人の気配だけを探る。一人一人の気配を探っていくのは疲れるので、できれば近くにいて欲しいのだが……

 

「……見つけた」

 

「何処に?」

 

「クレープの屋台にいますね」

 

「えぇ……」

 

 

 何故そんなところにいるのかというニュアンスでサクラが呆れ声を出す。俺も似たような感想だが、他のメンバーは別の意味で二人に呆れている様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残りの二人と合流すべく、私たちはタカトシの案内でクレープの屋台がある場所へ移動する。

 

「アリア!」

 

「青葉っち!」

 

 

 カナと二人で駆け寄ると、二人は美味しそうにクレープを咀嚼していた。

 

「何でまったりしてるんだ!」

 

「森先輩クレープ好きだから、ここにいれば合流できるかなーって」

 

「シノちゃん咀嚼音フェチだから、もぐもぐしてれば気付いてくれるかなーって」

 

「純粋に二人が食べたかっただけですよね?」

 

 

 二人のボケにどうツッコミを入れたものかと悩んでいたが、タカトシがさっさと事務的に流してくれた。

 

「そもそも私は咀嚼音フェチじゃないぞっ!?」

 

「シノっち、そのツッコミは違うんじゃないですかね?」

 

「てか皆さん、視線がクレープ屋台に向いてません?」

 

「そ、ソンナコトナイゾー?」

 

「き、キノセイデスヨー?」

 

「食べたいなら食べればいいじゃないですか」

 

 

 タカトシに許可をもらったので、森を除く全員でクレープを購入することに。森は何故か肩を落としているタカトシを慰めている。

 

「あの二人、距離近くないか?」

 

「前からあんな感じじゃなかったですかね?」

 

「コトちゃんとは違う義妹誕生?」

 

 

 カナの発言に、私と萩村は硬直してしまったが、クレープを一口食べたらそんな悩みは吹き飛んでいってしまったのだった。




甘いものは正義なのだろうか……

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