桜才学園での生活   作:猫林13世

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タカトシは強そう


将棋の腕前

 今日の生徒会業務は少なかったので、遊びに来たパリィとタカトシが将棋を指している。日本に来て始めたらしいけど、パリィの将棋の腕は私から見てもなかなかのものだが――

 

「王手」

 

 

――タカトシ相手に通用するものではない。というか、タカトシに勝てる相手がこの学園にいるのかどうかすら微妙だ。

 

「パリィ? 何で手を出してるのよ」

 

 

 次の一手を考えているのかと思っていたのに、パリィはタカトシに右手を伸ばしている。

 

「だって今『お手』って」

 

「またいらん知識増やしちゃって、もう! 盤面を見なさいよね!」

 

「あっ、王手か」

 

 

 私がツッコミを入れているからか、タカトシは一切反応を見せない。集中しているわけではないのだろうが、パリィの担当は私だと思っているのかしら。

 

「おっ、将棋か」

 

「シノもやる?」

 

「そうだな。この後やるか」

 

「大丈夫ですよ。後五手で終わりますから」

 

「そんなに早く!?」

 

 

 パリィはどうにかして勝負を伸ばそうとしていたが、宣言通り五手で詰み。パリィはタカトシの思惑通りに駒を動かしていたということだろう。

 

「相変わらずタカトシは強いね」

 

「こういう勝負でタカトシに勝ったこと無いからな」

 

 

 タカトシが席を会長に譲り、本人は見回りの為に生徒会室を出ていく。

 

「それにしてもパリィ、何故萩村ではなくタカトシと将棋を指していたんだ?」

 

「せっかくなら強い相手とやった方が良いってスズが」

 

 

 別に私が相手をしても良かったのだが、既に何回か指しているので違う相手の方が良いだろうと思っての助言だ。決して私がパリィに勝てないからとかではない。

 

「そういえばショーギは取った駒も使えるんだね」

 

「『持ち駒』だね」

 

「チェスとは違う面白さがある」

 

「そうだな」

 

 

 あれ? 会長ってチェスできたっけ……

 

「日本では敵堕ちヒロインが流行っているからな」

 

「将棋の歴史はもっと深いんだよ!」

 

 

 またくだらないことを言いだした会長に私がツッコむ。まさかタカトシ、この状況を察知して生徒会室から逃げたんじゃないでしょうね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作業の休憩中、広瀬さんはパンを食べて、私は牛乳を飲んでいる。

 

「それにしても今日の作業は中々多いっすね」

 

「ユウちゃんがもう少しちゃんとできてれば、こんなに残ってるはずではなかったんだけど」

 

「申し訳ないっす」

 

 

 広瀬さんのミスが多かったため、予定より作業が進んでいないのだ。まぁ会長も、広瀬さんのことは高い所担当や荷物持ちの目的で勧誘した為、作業が遅くても本気で怒ったりはしない。

 

「てか、飲み物含んでる人を見ると、笑わせたくなるんすよね」

 

「あはは」

 

 

 後輩二人が不穏なことを話し始めたので、私は目を瞑り牛乳に集中する。

 

「分かるよ」

 

「っ!?」

 

 

 まさか会長までその会話に加わり、しかもノリノリな感じになるとは思っていなかった。何かされたら耐えられる気が――

 

「ごほうびだもんね」

 

 

――あっ、そんなことも無さそう。この人はむしろかけられたいと思っているようで、私はさっさと牛乳を飲み干そうと集中する。

 

「さて、そろそろ休憩も終わり。急いでこの作業を終わらせましょう」

 

「何か予定が?」

 

「タカ君とお買い物」

 

「相変わらず入り浸ってるんですね、津田家に……」

 

 

 少し羨ましい気もしますが、会長は遠縁ですし入り浸っても文句は言えませんからね……タカトシ君以外は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はなんだか腹の調子が悪い……別に変な物喰った覚えはないんだがな……

 

「横島先生、どうかなさったんですか?」

 

「小山先生……腹の調子が悪くてさ」

 

 

 さすがに唸ってたので注目されていたようで、小山先生が私に事情を尋ねてきた。

 

「そんな時はジャガイモが良いですよ」

 

「おならと一緒に『実』も誘発させるプレイか……アブノーマルだなー」

 

「消化を助けるんですよ!」

 

「そうなのか。それじゃあ生徒から没収したポテトチップスを――」

 

「横島先生」

 

 

 背後から掛けられた声に、私は思わず背筋を伸ばす。

 

「つ、津田」

 

 

 まさかこのタイミングで津田兄が職員室にやって来るとは……津田妹なら常連なので驚きもしないが、兄貴の方が職員室に何の用なのだろうか。

 

「何か用か?」

 

「頼まれていた資料、持ってきました」

 

「資料? あ、あぁ……それは山田先生に渡しといてくれるか?」

 

「山田先生ってどなたでしたっけ?」

 

「ほら、あの白めのベスト着てる人」

 

「あぁ」

 

 

 こいつが教師の名前を覚えていないとは思っていなかったが、そもそも山田先生は津田兄を担当していなかったっけ。さすがに担当以外の教師の名前など知らないか。

 

「いませんよ?」

 

「えっ?」

 

 

 津田の付き添いなのか、ずっと隣にいた七条が首をかしげている。しかしいないと言われても、山田先生は津田の視線の先にいるのだがな……

 

「だって今『白い目がベストの人』って」

 

「………」

 

「あぁ、そう言う目だよっ!」

 

「私が言うのも何だが、職員室でそういう発言は止めておけ?」

 

「本当に、貴女が言うことじゃないですね」

 

「辛辣だな……」

 

 

 津田に思いっきり馬鹿にされたからか、急に便意が襲ってきた。

 

「うおっ、急に来たっ!?」

 

「横島先生?」

 

「悪い七条。トイレに行ってくるから津田にはそう言っておいてくれ」

 

 

 さすがにこんなところで粗相するわけにもいかないので、私は急いで職員用トイレに駆け込む。途中五十嵐に怒られそうになったが、腹を押さえていたから見逃してもらった。

 

「ふぅ、すっきりした……」

 

 

 これから便秘になったら津田に睨んでもらえばいいのか? そうすれば解消されるのだろうか。




独特な解決方法を思いついてるな……

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