三年生は女子しかいないので、体育の授業でも変に身構える必要は無い。畑さんという問題児はいますが、タカトシ君が散々お説教したからなのか最近は盗撮も控えているようですし。
「(天草さんや七条さんも、タカトシ君がいないところでも大人しくなってくれましたし)」
以前はタカトシ君がいないところでは酷かったのですが、最近はだいぶ大人しくなってきている。これもタカトシ君のお説教と、風紀委員会で問題視したお陰なのかな。
「五十嵐、行ったぞ!」
「はい!」
運よく天草さんと同じグループになれたので、私たちはバレーの試合で負けなしで授業を終えた。
「運動すると気持ちがいいですね」
普段コーラス部と風紀委員会の掛け持ちで運動する時間が少ないので、体育などで運動すると気分が良い。タカトシ君のように移動時間とかの隙間隙間で運動できればいいのでしょうが、私はそこまで時間の使い方が上手ではないのだ。
「私、まだその経験ないんだ」
「へ?」
天草さんも一緒に運動していたはずなのに、気持ちがいいと思わなかったのかしら……
「運動中にオーガズムに達するコアガズムの話じゃないのか?」
「議論の余地がありますね」
最近大人しくなってきたと思っていたのにこれだ……やはりこの間の生徒会長選挙、私が勝っておかなければいけなかったかもしれませんね。
「シノちゃ~ん、一緒に食堂いかない?」
「おっ、良いな。五十嵐も一緒にどうだ?」
「スズちゃんとパリィちゃんも一緒なんだ~」
「タカトシ君は?」
その面子でタカトシ君がいないのは致命的だ。天草さんと七条さんの箍が外れてしまうし、パリィさんもなかなかの問題児、そして萩村さんは一人しか相手にできない。そうなると私が二人を抑え込まなければいけなくなってしまうではないか……
「五十嵐はタカトシがいないと不満なのか?」
「タカトシ君はお弁当だからね」
「そうですか」
私が何に不満を懐いているのか勘違いされていそうですが、とりあえず昼食は天草さんたちと一緒に摂ることに。
「今日は全員麺類なんだな」
「もしかして、皆さん昨日のテレビに影響されました?」
「あれは美味しそうだったよね~」
昨夜のテレビ番組を私以外も見ていたらしく、パリィさんも含め全員が麺類を注文している。
「麺がシコシコしてて美味しいですね」
「うむ」
天草さんと麺の感想を言い合っていると、七条さんが急に辺りをきょろきょろと見渡しだす。
「察するに『MENがシコシコしている』と思っているな」
「解説は不要です。というか、食事中に下品なこと言わないでください」
「これくらい四方山話だろ?」
「そんな風に思ってる人はいないと思いますが」
この人の感覚に合わせていたらこっちまで変人に思われてしまう。私は急いで食事を済ませ、教室に戻るのだった。
最近タカ兄との距離が開いてる気がする。ただでさえタカ兄は忙しいのに、私がふざけて怒られることが多いので、その所為でもあるのかもしれない。
「本格的にタカ兄に見捨てられたら……うん、私は生きてないだろうな」
家事ができないのも致命的だが、タカ兄に見捨てられたら私は高校に通うことすらできない。いや、通い続けることができないと言った方が正しいかもしれない。
「ん?」
そんなことを考えていたら、シラヌイが私にすり寄ってきた。
「これは?」
携帯で猫の生態を調べると、これはマーキングと言って、自分のものとアピールする為に匂いを付けているらしい。
「なるほど」
タカ兄は私のものだとアピールする為に、タカ兄に私の匂いを付ける必要があるかもしれない。これでタカ兄に余計な女が寄り付かなくなるし、私とタカ兄の距離が縮まり一石二鳥だ。
「それじゃあ早速」
私はリビングからタカ兄がいるキッチンに移動し、私の匂いを付ける為にタカ兄に腕を擦り付ける。
「コトちゃん、何してるの?」
「タカ兄に私の匂いを付けてアピールしようと」
「マーキング? コトちゃんがそんなことしなくても、タカ君はコトちゃんのことちゃんと意識してると思うけど」
「悪い意味で意識されても仕方ないので、もう少し親愛の情を懐いていただこうかと……」
「だからってマーキングしなくても……てっきりコトちゃんがタカ君の背中で手を拭いてるのかと思っちゃったじゃない」
「お義姉ちゃん、もう少し猫の純真さを見習おうよ」
「……人を挟んで会話しないでくれないか?」
お義姉ちゃんと話していたのだが、タカ兄が苦言を呈してきた。まぁ、タカ兄を挟んで会話していた私たちが悪いのだけど、もう少し私に興味を懐いてほしい。
「ところでタカ兄、今日の晩御飯は何?」
「義姉さんのリクエストで、今日はラーメンだ」
「ラーメンって、お義姉ちゃん昨日あの番組見てた?」
「コトちゃんも?」
「はい! だから今日食堂で麺類がやたら出てたって聞きました」
「コトちゃんは食べなかったの?」
「私にはタカ兄のお弁当がありましたから」
マキとトッキーは食堂でラーメンを食べていたけど、私はタカ兄のお弁当を食べていたので、私もラーメンを食べたい気分だったのだ。
「ん? タカ兄の手作りってこと?」
「私も一緒に作ったけどね」
「おぉ! かなり贅沢なラーメンですね」
市販の麺ではなくタカ兄とお義姉ちゃんが打った麺なら美味しいに違いない。私はワクワク気分でリビングに戻り、ラーメンができるまで宿題に取り組もうとして――
「分からない……」
――自分の頭の悪さを再認識して絶望したのだった。
いろいろと勘違いが多発していたな……