桜才学園での生活   作:猫林13世

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珍しい人のターンですね


相席

 今日コトミは八月一日さんの家で時さんと一緒に朝から勉強会。いい加減俺に頼るのも止めた方が良いと言われ、八月一日さんに勉強を教わると言っていた。

 

「後輩に気を遣わせてしまっているな……」

 

 

 以前から八月一日さんには心配されていたが、まさかそこまで深刻に考えていたとは思っていなかった。確かにコトミの成績は深刻な問題ではあるのだが、八月一日さんがそこまで親身になって考える問題ではない。

 

「義姉さんも今日は昼からバイトだと言っていたしな……」

 

 

 自分一人だとすることが無くて暇になってしまうのだ。今月分のエッセイも既に書き終えて畑さんにデータを渡しているし、クラスメイトたちのテスト対策用テキストもほぼ完成している。

 

「昼飯、どうするかな……」

 

 

 食材はあるし、時間的余裕もあるので作るのには問題ないのだが、自分一人の為に作るのも何だか面倒な気がしてきた。

 

「大人数の分を作るのに慣れてきてしまっているのだろうか」

 

 

 何となくやる気が出なかったので、今日の昼食は外食で済ませることに。だからといって無駄遣いは避けるべきなので、俺は手ごろな定食屋に足を運んだ。

 

「いらっしゃいませ。相席になってしまいますが構わないでしょうか?」

 

「問題ないですよ」

 

 

 さすが昼時、定食屋も混んでいるようで相席になってしまうらしい。見知らぬ人と同じ席で食べるのはちょっと気が引けるが、別に気にしなければいいだけだと自分の中で消化して席へ向かう。

 

「こちらでお待ちください」

 

「……三葉?」

 

「タカトシ君」

 

 

 案内された席にいたのは三葉だった。どうやら彼女もここで昼食を済ませるらしい。

 

「こんなところで奇遇だな」

 

「タカトシ君もここでお昼?」

 

「珍しく一人でな。ちょっとやる気が出なかったから」

 

「タカトシ君でもそんな気分になるんだね」

 

「最近大人数の分を作るのに慣れてしまってたからな……いざ自分の分だけとなると」

 

 

 そんなたわいのない話をしていたら、三葉の注文が運ばれてきた。

 

「餃子レバニラW大盛りでーす」

 

「あわわ」

 

 

 さすが運動部という量を食べるんだなと思っていたのだが、三葉は顔を赤らめている。

 

「(こういう所は普通の女子なのだろう)」

 

 

 異性の前で大喰らいだと思われたくないという気持ちが働いたんだなと思い、俺は微笑ましい気分になった。だって、俺の周りにこういう普通の感性を持ち合わせてる異性って、三葉とサクラくらいだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひょんなことからタカトシ君と一緒にお昼を食べることになったのだけど、よりによって私が注文したのは餃子とレバニラ大盛り……もうちょっと女の子らしい食べ物だったら良かったのに。

 

「(でも、ついてるかも)」

 

 

 タカトシ君と休日も一緒にお昼が食べられるなんて思ってなかったので、今日はラッキーだ。普段ならお弁当のおかず交換とかするのだけど、さすがに定食屋ではそれはできない。

 

「三葉、ついてる」

 

「えっ、わかる?」

 

 

 私の考えが見透かされたと驚きはしたけども、タカトシ君ならそれくらいできるだろうと思っていたのだけど――

 

「ほっぺにご飯粒が付いてる」

 

「ぐはっ!?」

 

 

――慌てて食べていたからご飯粒が付いていたらしい。恥ずかしい……

 

「(何か話題を変えなきゃ……)」

 

 

 何とかしてタカトシ君の視線を逸らせなければと思い視線を彷徨わせると、箸休めの酢の物が目に入った。

 

「うっ……」

 

「三葉、酢の物は嫌いなのか」

 

「ちょっとね……」

 

「覚えておく」

 

 

 遠征の際のお弁当の準備をしてくれているタカトシ君が私の好き嫌いを覚えておくのは、ある意味仕事なのだろうけども、私はタカトシ君に自分のことを知られて嬉しいと思ってしまう。

 

「(タカトシ君は真面目だなぁ……)」

 

 

 そんなことを考えていると、視界に「お代わり無料」の文字が飛び込んできた。

 

「(いっぱい食べたらはしたないかな……でもここで我慢したら、ご飯を食べられないくらい太ったと思われちゃうかも!?)」

 

 

 タカトシ君がそんなことを考えるわけがないと分かっているのだけども、どうしても気になってしまう。なんでか分からないけども、タカトシ君にだけは太ったって思われたくない。

 

「すみません、お代わりください!」

 

「我慢は良くないよ」

 

「?」

 

 

 何でそんなことを今言うのか、私には分からなかった。だがタカトシ君の目は優しい感じがしている。

 

「ご馳走様でした」

 

「美味しかったね」

 

 

 会計を済ませ、私たちはバス停まで一緒に歩く。その間とりとめもない会話をしていたのだが、これはこれで楽しいと思える。

 

「(普段タカトシ君と二人きりでお喋りする機会って多くないしね)」

 

 

 何時も誰かが側に居るタカトシ君と二人きりになれる時間など、そんなに多くない。学校では相談の際に少し会話するくらいしかできなかったから、こういう時間は嬉しい。

 

「(あっ、餃子とレバニラを食べた後狭い空間で男の子と密着するのは……)」

 

 

 酔い止めを持っているとはいえ、私は乗り物に強くない……

 

「私、走って帰るね!」

 

「食べてすぐ運動すると戻す可能性が高いからやめておいた方が良いだろ。ほら、ブレスケア」

 

「うっ……ありがとう」

 

 

 私が口臭を気にしてるって知られていたことが恥ずかしかったけど、タカトシ君がちゃんとこういうものを持ち歩いているんだと分かって何だか嬉しい。素直に受け取り、酔い止めも飲んだお陰なのかは分からないけども、何時もならすぐ酔うバスの中でも、タカトシ君と仲良くお喋りができた。




青春してるなぁ

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