桜才学園での生活   作:猫林13世

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意図せずこうなる時もある


偶然のダジャレ

 新学期も始まり、早速柔道部の練習にマネージャーとして参加していたのだが、相変わらずタカ兄の手際の良さには敵わない。比べるだけ無駄だと分かっているのだが、柔道部の基準がタカ兄になりつつあるので、私レベルでは満足してもらえないことが多いのだ。

 

「マネージャー、この間頼んでおいたヤツは?」

 

「えっと……あっ! 部室に置いてあります」

 

「ありがとー」

 

 

 一応仕事はしているので怒られることは無いのだけども、すぐに反応できなかったりするのだ。そもそも具体的なことを言われなくても理解できる程、私は頭が良くないのだ。

 

「あれ?」

 

 

 道場の掃除を済ませて窓の外に視線を向けると、既に外は真っ暗だった。

 

「もう外真っ暗だね」

 

「あっという間だったな」

 

「結構な時間練習していたと実感するな」

 

 

 トッキーの言葉に柔道部一同がほっこりした笑みを浮かべる。私もだが。

 

「ちがっ、今のはダジャレじゃなくて」

 

「はいはい、そろそろ生徒会の人が来ちゃうから、今日のところはこの辺でお開きにしようか」

 

「マネージャー、道着の洗濯よろしく」

 

「わっかりましたー!」

 

 

 初期の頃はパンツも一緒に洗濯してしまったりしたけど、今はさすがにその様なミスは犯さない。あの時は皆にノーパンを強要してしまったからな……

 

「とりあえず明日も頑張らなければ」

 

 

 そう決心した次の日、私はトッキーと二人で中庭を歩いている。

 

「二人は本当に仲が良いんだな」

 

「何時も一緒にいるイメージですよね」

 

 

 会長とアリア先輩にしみじみと言われてしまったが、そう思われても仕方ないくらい一緒にいる自覚はある。

 

「私たちはつーかーな中ですから」

 

「つうか、お前が引っ付いて――」

 

 

 またしてもトッキーがダジャレを言ったので、会長たちからもほっこりとした視線を向けられてしまう。

 

「ちがっ、本当に偶然だから」

 

「何を騒いでるんですか?」

 

「あっ……」

 

 

 そこへタカ兄が合流して、ほっこりした空気が一変、ピリッとした空気が流れる。

 

「コトミ、先生が探してたぞ」

 

「別に呼び出される覚えは――あっ、手伝いを頼まれてたんだった!」

 

 

 大慌てで職員室へ向かい、頼まれていた手伝いを済ませる。せっかく点数稼ぎをしようと思っていたのに、これじゃあ大幅減点だろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職員室で作業していると、どうしても何かで発散したくなってしまう。そういうわけで私は、作業の合間にトイレへ行っているのだ。

 

「横島先生、トイレ近いですね。この一時間で三回目ですよ?」

 

 

 隣の席の小山先生に心配されてしまったが、別に頻繁に用を足しているわけではない。

 

「大丈夫ですよ。三回中二回はウォシュレットトイレオ〇ニーしてただけだから」

 

「安心できません……」

 

「だって、仕事中ってムラムラするだろ?」

 

「しません」

 

 

 小山先生に呆れられてしまったが、天草たちなら理解してくれただろう。そう思いとりあえず職員室での仕事を終えた私は、生徒会室へ向かう。

 

「――というわけなんだが、天草たちなら分かるだろ?」

 

「そうですね。確かにちょっとくる気持ちは理解できます」

 

「最近はタカトシ君が怖いから思わないけどね~」

 

「津田がいてくれれば緊張感が保てるわけか……さすがに職員室に常駐してもらうわけにもいかないしな」

 

「そうだ。せっかく来たわけですし、先生もブログ、書いてくださいよ」

 

「私が?」

 

 

 生徒会の方で桜才学園のブログをやっているのは知っている。一応顧問だから話は聞いていたが、何故ブログの監修が私ではなく津田なのかは、信頼度の違いなのだろう。

 

「しかしPC作業は目が乾くだろ? せっかく書類作業から解放されたばかりだというのに」

 

「ドライアイなら欠伸などをして涙を出すといいですよ」

 

「だが、意識して涙を出すなんて出来ないぞ? 私は女優ではないからな」

 

「出島さんなら出来そうですよね~」

 

 

 確かあの人は元女優とか言っていたからな……七条に言われて作品を探した記憶がある。

 

「目に染みる体臭の人って、生徒会にいるか?」

 

「いるわけ無いでしょうが! というか、そんなことばかり言っていると、タカトシに報告しますからね?」

 

「それだけはやめてくれ!? 私の給料が懸かってるんだぞ」

 

 

 生徒に査定されるのも情けない話ではあるが、津田が一番冷静な判断を下せると学園長に頼まれたらしいのだ。それだけ私の信頼度が低く、アイツが高いということなのだろうが、給料を人質に取られてしまったら私は何も出来なくなってしまう……

 

「とりあえず、真面目にブログ記事を書くか……」

 

 

 頼まれたことをちゃんとやっておけば、それ程心証も悪くはならないだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 津田副会長のスクープを狙っているのだが、どうしてもいい情報が集まらない。

 

「どうすれば……」

 

「こんにちはー」

 

 

 考え込んでいる私に、コトミさんが挨拶してきた。

 

「コトミさん、お兄さんのことでちょっと」

 

「おっと。私は身内を売ったりしませんよ?」

 

 

 私が津田副会長のスクープを狙っていると気付いたのか、コトミさんが先手を打ってきた。

 

「そうですか、残念です……コトミさんならいい情報屋になれると思ったのですが」

 

「グッ、そそられる肩書き」

 

 

 コトミさんの厨二心を刺激してこちらの味方にしようと思ったのですが、トッキーさんがコトミさんにツッコミを入れてしまう。

 

「兄貴の情報をこの先輩に売ったら、お前も兄貴に怒られるんじゃね?」

 

「はっ! 危うく悪の道に足を踏み外すところだった」

 

「悪は酷いですね」

 

 

 コトミさんを味方に引き入れることに失敗し、結局津田副会長のスクープはゲットできなかった。




畑さんは悪だな……

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