桜才学園での生活   作:猫林13世

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何処でも苦労するのはタカトシとスズ


スッキリしない年越し

 年越し登山に参加して、山小屋で一泊することになったのだが――

 

『トイレ一回百円』

 

 

――の張り紙を見て、私は自分の膀胱と懐を交互に見る。

 

「我慢してお漏らしなんてしたら、スズ先輩にバカにされそう」

 

 

 見た目的にはスズ先輩なら問題ないとは思うけど、私だとちょっと恥ずかしい。私は懐を犠牲にしてトイレに入ることに。

 

「はぁ……」

 

「コトミ、どうかしたのか?」

 

 

 ため息を吐きながらみんながいる部屋に戻ると、シノ会長が尋ねてきた。

 

「トイレ、有料なんですねー」

 

「まぁ、水は貴重品だからな」

 

「普段の生活からは考えられないですよ」

 

 

 水道代は払っているとはいえ、トイレ一回に百円も払っているとは思えない。というか、払っているのは両親から生活費を預かっているタカ兄だし……

 

「確かに、おしっこはタダではできませんね」

 

「一人だけ違う会話をしてる気がするんだが」

 

「お金を払えばしてくれるんですか?」

 

 

 もちろん私の懐事情では無理だろうが、変態紳士な小父様が大金を積めばあるいは――なんてことを考えていたらタカ兄から凄く睨まれた。

 

「というかコトミ」

 

「はい?」

 

 

 スズ先輩に声を掛けられ、私の意識は出島さんからスズ先輩へ移る。

 

「バッグからタオルがはみ出てる。だらしないわよ」

 

「ごめんなさーい」

 

 

 スズ先輩に怒られ、私はバッグの中にタオルをしまおうとして――

 

「(ちょっとしたドッキリになるか?)」

 

 

――悪戯を思いついてごそごそと荷物を整理する。

 

「片付けました!」

 

「よろし――ヒッ!?」

 

 

 タオルをしまった代わりに手袋の片方をちょっとだけ出してみたら、案の定スズ先輩は驚いてくれた。

 

「手袋もちゃんとしまいなさい!」

 

「まぁまぁ、ちょっとした悪戯ですって」

 

 

 スズ先輩を宥めて手袋を片付ける。そんなやり取りをしていたら、あっという間に年を越していた。

 

「最近は大勢で新年を迎えることが多いですよね」

 

「カウントダウンイベント、盛り上がるよねー」

 

 

 タカ兄がしみじみと呟いたセリフに私が続く。実際は行ったことないけど、テレビなどでは凄く盛り上がっている感じだし。

 

「年越しエッチは少数でも盛り上がるけどな」

 

「ん?」

 

「あっ、いや……何でもない」

 

 

 楽し過ぎて昔の癖が発動したシノ会長に、タカ兄が鋭い視線を向け黙らせる。相変わらずどっちが上だか分からない関係性だな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初日の出まで仮眠をとることになり、私たちは二段ベッドのどっちを使うか話し合っている。

 

「私、上ー!」

 

「俺は下で良いですよ」

 

「寝息フェチだから?」

 

「初日の出を拝めなくしてあげましょうか?」

 

「っ!?」

 

 

 まだ癖が出続けている会長に向けられた殺気なのだが、私も思わず背筋が伸びてしまう。

 

「タカトシ、殺気を出すなら言ってからにしてよ」

 

「言ったら意味ないだろ」

 

「スズ先輩、お漏らしでもしましたか?」

 

「するわけないだろ!」

 

 

 コトミの脛を蹴り、とりあえず誤魔化すことに成功したけども、危うく出そうだったのは事実だ。

 

「(さっさと寝てしまおう)」

 

 

 恐怖と尿意を誤魔化す為にベッドに潜り込み夢の世界へ逃げる。何とも子供っぽいが、何時までもタカトシの殺気に怯えていると本当に出てしまいそうだったから。

 何となく熟睡できそうだなと思い始めたのだが、人が動く気配を感じ取り目を開ける。

 

「……何してるんですか?」

 

「お嬢様の寝顔を激写しようと」

 

「出島さんも仮眠をとった方が良いのは分かるでしょう?」

 

 

 こう言うのはタカトシの役目ではないのかと思いつつ、私は出島さんをベッドに押し戻す。

 

「(まったく……)」

 

 

 今度こそゆっくりとできると思っていたのだが、すぐに他の人の気配が私の隣に来た。

 

「そろそろ起きろ。初日の出の時間だぞ」

 

「えっ、もう!?」

 

 

 ついさっき出島さんを追いやったと思っていたのだが、意外と時間が経っていた。

 

「まだ眠いですよ……」

 

「コトミは相変わらずだな」

 

 

 コトミ以外は既に着替えていて、私も慌てて着替えを済ます。

 

「起きないとイタズラしちゃうよー」

 

 

 七条先輩の宣言に、コトミではなく別の人が反応を示す。

 

「この人、さっきまで普通に起きてましたよね?」

 

「まぁ、この人はアリアのことが大好きだからな」

 

「タカトシ君、コトミちゃんが起きないんだけど」

 

「はぁ……」

 

 

 結局タカトシが殺気を放ったお陰でコトミと出島さん、両方が飛び起きた。相変わらず怒らせたらヤバいと分かるレベルの殺気を放つので、会長や七条先輩もあらかじめ距離を取っていたのだ。

 

「危なかったな……」

 

「ですね……」

 

 

 殺気を放つと感じ取った私たちの行動は、自分で自分を褒めるに値する英断だった。だって、あの殺気に巻き込まれていたらきっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新年早々二人に説教をした所為でイマイチスッキリしない気分で初日の出を拝んでいる。そもそもいつ見たって日の出は日の出だろうが……

 

「(こういう所が面白味が無いと言われるんだろうな……)」

 

 

 自分一人では絶対に初日の出を拝もうなんて思わない。そんなことを考えていると、隣から邪な気配を感じ取った。

 

「シノさん、何をしようとしてるんですか?」

 

「あっ、いや……みんなが日の出に夢中になってる横でスカートをめくって露出プレイができるんじゃないかと思っただけだ。思っただけで踏みとどまったからな!?」

 

「思った時点で大差ないですから」

 

 

 さすがに他の人もいるのでこんな場所で説教するわけにもいかない。とりあえず厳重注意ということに留め、俺は遠近法で遊んでいる妹を見てため息を吐くのだった。




コトミと出島さんはもう少し反省しなきゃな……

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