桜才学園での生活   作:猫林13世

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さすがお嬢様だな……


年越し登山

 いよいよ今年も残すところあとわずかということで、生徒会メンバーで年越し企画を考えているのだが、予算など出るわけもないので頭を悩ませている。

 

「アリア、いい案とか無いか?」

 

「これは? 豪華客船で初日の出を見に行くツアー。今なら一人当たり十万くらいで――」

 

「我々庶民に十万はキツイぞ!?」

 

 

 お嬢様のアリアなら十万くらい楽に出せるのだろうが、私たちにとって十万は大金だ。年越しにそこまで出せるわけがない。

 

「そっか……じゃあまたプライベートビーチで年越しする?」

 

「うーん……同じだと盛り上がりに欠けないか?」

 

 

 それにあの時は年越しの瞬間騒ぎすぎてあのタカトシが疲れ果てて寝てしまうという結果になったしな。まぁ我々に加えてコトミ、カナ、出島さん、畑の相手をしていたのだから仕方ないかもしれないが。

 

「初日の出はリーズナブルな値段で見たいんだよな」

 

「じゃあ登山は?」

 

「登山か」

 

 

 アリアの意見に私は興味を惹かれたが、あの二人が納得してくれるかどうか……

 

「――というわけで、年越し登山だ!」

 

「値段は安いですが、山が高いですね」

 

 

 私とアリアのごり押しの結果、登山が決行されることになり、当日の萩村の機嫌は最悪だった。

 

「こ、今回我々が登るのは初心者コースだが、油断は禁物だぞ。特にコトミ」

 

「はーい」

 

 

 タカトシがこちらに参加するということで、コトミも参加することになっている。まぁ、さすがのコイツでも、山でふざけたりはしないだろうし。

 

「山ガール隊、行くぞー!」

 

「「おぉ!」」

 

 

 コトミと萩村も私のテンションに合わせてくれているが、萩村はまだどこか怒ってる風だ。

 

「お嬢様、ここからウチが所有している山が見えます」

 

「本当だー」

 

「山がある!?」

 

 

 相変わらず七条家のスケールはデカすぎて反応に困ってしまうな……もう三年近くの付き合いがあるというのに、未だにその全容が見えてこないから……

 

「山は歩幅を小さく、ゆっくり歩くのが基本です」

 

 

 出島さんの注意を受けて、私たちはゆっくりとした歩幅を心掛けるのだが――

 

「気持ちが先走ってつい大股になってしまう」

 

「ですね~」

 

 

 早く山頂につきたい一心で歩幅が大きくなってしまうのだ。

 

「ちなみに、歩幅が大きい人はイキやすい体質らしいですよ」

 

 

 出島さんの雑学を聞いて、私は大幅に歩幅を狭くする。間違ってもイキやすいと思われたくないからではなく、山歩きの基本を思い出したからだ。

 

「そういえば、アリアは登山用のストックを持ってきたのか」

 

「スキーやってる気分だよ~」

 

 

 アリアなら登山も慣れていそうだが、そう言う気分になるものなんだな……ん?

 

「コトミ、脚の形までスキーになってるぞ?」

 

 

 さっきまで私の隣を歩いていたコトミだが、今は私の後ろに……しかも歩き方がスキーみたいになっている。

 

「漏れそう」

 

「JKのお小水なら私が頂きます!!」

 

「その辺でしてこい」

 

 

 出島さんが物凄いスピードでコトミに詰め寄ったが、タカトシがそれを腕一本で押さえてコトミを茂みに向かわせた。相変わらず出島さんの変態性にも困ったものだな……私が言えた義理ではないかもしれないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノリで参加したけど、登山ってキツイんだよね……普段から運動してるわけでもないし、既にヘロヘロになってきている。

 

「写真撮りますよー」

 

 

 休憩中、景色がいいので出島さんが写真を撮ってくれることになったのだが――

 

「ヘロヘロなので、私は座ったままで」

 

 

――少しでも体力を回復しておきたいので、私は座ったまま写真に写ることに。

 

「私も……」

 

「スズ先輩も?」

 

 

 スズ先輩なら私のようにペースをミスることをしないと思っていたのに……何で座ったままなんだろう。

 私は休憩終わりにタカ兄の側まで行き、さっきの疑問をぶつけることに。ちなみに、何故スズ先輩に聞かなかったのかというと、答えてくれ無さそうだったからだ。

 

「(タカ兄、スズ先輩はどうして座ったまま写真に写ったの?)」

 

「(身長差を誤魔化せるから)」

 

「なる程」

 

 

 タカ兄のお陰で疑問は解消できた。だが残りの山道を考えると、私の体力でどうにかなるのか不安になって来る……

 

「き…きつー……」

 

 

 既に息も絶え絶えといった感じになってきている。まだ目的の山小屋までは少しあるし、さすがにタカ兄に背負ってもらうわけにもいかない。

 

「皆頑張れ! こういう時は気持ちを奮い立たせるのだっ!」

 

「気持ち良くなってフル勃ちさせる!? 会長、こんな時に下ネタはどうかと」

 

「お前の耳はどうなってるんだ!?」

 

 

 どうやら盛大に聞き間違えてしまったようで、シノ会長からはツッコまれ、タカ兄からは責めるような視線を向けられる。

 

「ほ、ほら! あと少しだから頑張りましょう!」

 

 

 居心地が悪いので、私は早足で先頭に躍り出て皆を鼓舞する。出島さんが案内してくれているので道を間違えることもないだろう。

 

「ついたー!」

 

 

 漸く到着したが、疲れているのは私だけみたい。

 

「自然の中にある山小屋って、RPGの世界みたいだね」

 

 

 同意を求めたけど、この中でゲームをするのは私だけ。誰も共感してくれなかった。

 

「ちなみにお風呂はありません」

 

「へー」

 

「本当にRPGの世界だぁ……」

 

 

 とりあえず山小屋に入って休憩しよう。これ以上タカ兄から向けられる冷たすぎる視線に曝されるのは精神的にも体力的にもキツイし……




スズの誤魔化し方が……

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