桜才学園での生活   作:猫林13世

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曲解ばっかり……


間違った情報

 教室でネネとおしゃべりしていたら、パリィがふらふらした足取りでやってきた。

 

「おはよう、パリィ」

 

「おはよ~ふわぁ」

 

「寝不足?」

 

 

 今にも壁にぶつかりそうな足取りなので、とりあえず壁際から移動させながら尋ねる。

 

「朝はヨワイんだよ~……」

 

「低血圧なの?」

 

 

 コトミも朝は弱いとか言っていたが、あの子の場合は単純に夜更かしし過ぎて朝起きられないだけなのだが、パリィがそこまで夜更かししているとは思えない。だから低血圧なのかと思って尋ねたのだが、その単語を聞いてネネがとんでもない提案をする。

 

「だったら逆立ちすれば頭に血が上って元気になるんじゃない?」

 

「いやいや、そんなわけないでしょ」

 

 

 私はネネの提案をボケだと受け取ったのだが――

 

「よーし!」

 

「ジョーダン、ジョーダンだから!」

 

「スカートでしょっ!」

 

 

――パリィは真面目な提案だと受け取ってしまったようだ。

 

「ネネも相手を選んで冗談を言わないと」

 

「パリィちゃんが信じるとは思わなかったんだよ」

 

「というか、パリィはそんなので朝の授業大丈夫なの?」

 

「ダイジョーブ。最悪タカトシに聞くから」

 

「パリィにも頼られてるのね……」

 

 

 教室の中で補習候補者たちに解説しているタカトシに視線を向け、私は若干同情的な気分になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段ふざけているからそんなこと無いだろうと言われるかもしれないが、今週はかなり仕事量が多く大変だった。どのくらい大変だったかというと、男子生徒にちょっかいを出す暇もなければ、外部で出会いを求める余裕すらなかった。それくらい大変だったのだ。

 

「横島先生、生徒会室で寝ないでください」

 

「少しくらいは大目に見てくれ……今週はキツかったんだ」

 

「それはお疲れ様です。ですが普段サボりがちなのですから、少しは仕事をした方が査定に影響があるのでは?」

 

「そうなんだが……」

 

 

 私の給料査定やボーナス査定もだが、津田が学園長に報告した内容が影響されているらしい。だから津田の前ではしっかりとしなければいけないのだが、どうも私がちょっかいを出そうとしたタイミングで津田と遭遇するから、私の評価は下がる一方なのだ。

 

「ねぇねぇタカトシ君、今横島先生はなんて?」

 

「今週はキツかったと」

 

「なる程……ちゃんとブレスケアしなければだめですよ?」

 

「おい七条。なんでそんな話になってるんだ?」

 

「だって、口臭がキツかったって」

 

「臭くないからな!? というか、どんな聞き間違いだ!」

 

 

 七条の所為で居心地が悪くなったので、とりあえず職員室に戻ることに。途中で小山先生と合流したので、予定を尋ねることに。

 

「小山先生、今夜暇ですか?」

 

「えぇ、特に予定はありませんよ」

 

「なら飲みに行きましょう。今週はキツかったですから、そのお疲れ様会的なノリで」

 

「良いですね」

 

「決まり! でも小山先生、かなり顔に疲れが出てますが大丈夫ですか?」

 

 

 じろじろと小山先生の顔を覗き込むと、先生が恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

「疲れもそうなんですけど、私眉毛を描くのが苦手でして」

 

「あー、わかるわかる。左右対称って難しいよね」

 

 

 こればっかりは津田には分からないだろう会話だと思いながら、私は左右対称の難しさを熱弁することに。

 

「ひとりHの時も胸の大きさに差が出ないよう、交互に揉むんですよね」

 

「なんて破廉恥な! 眉毛の話どこ行きました!?」

 

「左右対称の難しさを分かり易くしようと思って」

 

「難しいのは分かってますって!」

 

 

 何故だか怒られてしまったが、とりあえず今夜の楽しみができたので、残ってる仕事を片付けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリアと萩村が見回りに出ている間に、私とタカトシで書類の処理を終わらせてしまった。二人でと言えば聞こえはいいが、比率的には私が三、タカトシが七だろう。

 

「時間が余りましたね」

 

「二人が帰って来るまで何かするか……」

 

 

 何かと言っても、この部屋に娯楽に使えるものは多くない。部屋を見回して視線を落としたら、自分の指が視界に入る。

 

「指相撲でもするか」

 

「いいですよ。本当にすること無いですし」

 

 

 溜まっていた仕事はタカトシが殆ど片付けたし、生徒会室の掃除はタカトシが定期的にしてくれているので汚れていない。本当にすることが無いというのも、大げさではないだろう。

 

「では、三回勝負だ」

 

「構いませんが、負けても不貞腐れないでくださいよ?」

 

「そこまで子供じゃないぞっ!?」

 

 

 そもそもタカトシに勝てるとは思っていない。男女差もあるが、こいつの反射神経を上回れるはずもないので、タカトシの指を押さえつけられるビジョンが見えないのだ。

 結局ストレート負けを喫したのだが、ここまで圧倒的な力の差を見せられるとすがすがしい気分になるものだな。

 

「実に気持ちがいい思いをした」

 

「失礼します。風紀委員会の報告書をお持ちしました」

 

「ご苦労」

 

「それで、何かしてたんですか?」

 

「タカトシの指で気持ちがいい思いをしていたんだ」

 

「っ!?」

 

「……あれ? なんか間違えたか?」

 

 

 五十嵐が固まってしまったので、私はタカトシに助けを求める。タカトシが五十嵐に事情を丁寧に説明してくれたお陰で、とりあえず誤解は――

 

「(天草会長、津田副会長の指で絶頂っと)あら?」

 

「お前も懲りないな……」

 

 

 五十嵐に説明を終えたタイミングで聞き耳を立てていた畑を捕まえたタカトシに感心しながら、私は二人が帰って来るまでの間畑と話し合うことになったのだった。




普通に考えて、シノがタカトシに指相撲で勝てるわけないよな……

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