今日は全員で生徒会室で作業していたのだけども、七条先輩の様子がさっきからおかしい。何時ものようにふざけておかしいのなら気にもしなかったのだが、さっきから左右に揺れたり、先輩にしては珍しい誤字があったりと、体調面に問題があるのではないかと思わせるおかしさなのだ。
「七条先輩、どうかしたんですか?」
「ちょっと寝不足で……」
「確かに、今日一日アリアは眠そうだったしな。よく見れば隈ができてるし」
「酷い顔になってる?」
「うんまぁ」
化粧で上手く隠しているけども、じっくり見れば確かに七条先輩の目の下には隈ができている。
「だがまぁ、ヤンデレキャラっぽくなってるから良いんじゃないか?」
「キャラ変更は目指してなかったんだけど、意外と良い感じになったのかな?」
「あの、タカトシが怒るのでその辺で……」
実際隣からすごい圧が掛かってきているので、私は脱線しかかっている話題を強引に戻す。
「それで七条先輩、寝不足の原因は何なんですか?」
「新しい枕を買ったんだけど、合わないみたいなんだよね」
「前までの枕の感触が身体に染み付いているんだな」
「でしたら前の枕に戻しては?」
「前のは出島さんにあげちゃった」
「返してもらっては?」
「でももうその枕に出島さんのシミが付いちゃってるし」
「何に使ってるんだ、あの人は!?」
七条先輩大好きのあの人のことだから、そういうことに使ったんだろう。だがまぁ、ここでそれを口にすれば私まで同類だと思われてしまうので黙っておこう。
「今日の作業はそこまで多くないから、保健室で寝て来たらどうだ?」
「でも、生徒会役員が保健室をそういう風に使うのは……」
「だったら私のクッションをお貸ししますよ。ここで仮眠してみては?」
何時も昼寝用に使っているクッションを差し出し、仮眠を進めるが、やはりしっくりこないようだ。
「身体を温めると良く寝られるらしい」
「そうなの? 初めてだから優しくしてね」
「何の話だ?」
「だって『身体をアタタする』って」
「寝不足で耳までおかしくなってるのか?」
愉快な聞き違いをした七条先輩に、会長が珍しくツッコミを入れる。
「頭頂部にあるツボを刺激するとリラックスできて眠れるらしいです」
「ここ?」
私のアドバイスで頭頂部のツボの一つ「百会」を刺激する先輩。眠いからか、無意識に口を開けている。
「無意識に股を開くのは?」
「屈辱的なポーズを取ろうとするな!」
この人は根本的な所は変わっていないんだなと思い知らされたのだった……
シノちゃんやスズちゃんにいろいろとアドバイスしてもらったけども、結局効果は見られない。見回りは二人がしてくれて、残ってる事務作業はタカトシ君がしてくれることになった。
「ゴメンね」
「気にしないでください」
スズちゃんがいないからタカトシ君の隣に腰を下ろし謝罪する。タカトシ君はこのくらいの作業で文句を言う人じゃないけども、私の所為でこうなっているのだからちゃんと謝っておかないと。
「前に寝られなかった時は、タカトシ君にツボを押してもらって寝かせてもらったんだよね」
「そういえば、そんなこともありましたね」
「あの時は熟睡できたし、また押してもらえば――」
「ここで熟睡されても困るんですが」
「そうだね」
確かにあの時は自分の部屋だったからタカトシ君もツボ押しを選択したのだろうが、ここは生徒会室。ここで熟睡して朝まで目覚めなかったらいろいろと問題だ。
「はぁ……何かいい案ないかな」
「あの、先輩?」
「ん~……」
タカトシ君の肩にもたれ掛かり解決案を考えようとしたのだが、私の意識はだんだんと遠退いていく。
人の肩に頭を乗せたかと思ったら、規則正しい寝息が聞こえてきた。どかすのは簡単だが、せっかく寝られたのに起こすのも可哀想だったので、俺は先輩の頭を肩に乗せたまま作業することに。
「多少動かしづらいが、できなくもないだろ」
そう自分に言い聞かせて俺は残っている資料をパソコンに打ち込んでいく。左手が若干動かしづらいができなくもないのでそのまま作業していると、二人の気配が生徒会室に近づいてきた。
「見回り終わったぞー」
「お疲れさまです」
「何故アリアはタカトシの肩枕で寝てるんだ? まさかタカトシが誘ったのか?」
「違いますよ」
何故この状況になったのかを説明し、とりあえずシノさんとスズは落ち着きを取り戻した。というか、何で慌ててたんだか。
「うーん……」
二人の声が原因かは分からないが、アリアさんが目を覚ます。
「あれ? 私寝てた?」
「あぁ。気持ちよさそうにな」
「シノちゃん? 何だか機嫌悪くない?」
「アリアが抜け駆けしたんじゃないかと思ってたからな」
「抜け駆け? ……もしかして私、タカトシ君を枕にしてた?」
「そうですね。でも、寝られて良かったですね」
仮眠程度ではあるが、これでとりあえずは眠気覚ましはできただろう。とはいえ作業も殆ど終わっているので、後は帰るだけなのだが。
「タカトシ君が私の枕になってくれれば、毎日ぐっすり寝られるのにな」
「それは完全にアウトだ! アリア、今度アリアに合う枕を探しに行くぞ!」
「というか、七条グループなら先輩に合う枕をすぐ用意できるのでは?」
「かもね~。帰ってお父さんに相談してみるよ。タカトシ君、肩、ありがとね」
「いえ」
別に涎を垂らされたわけでもないので気にする必要もない。俺は残っていた作業を終わらせ立ち上がり、それを合図に全員で生徒会室を出ていく。これがコトミだったら涎を垂らしてただろうなと思い、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまったのだった。
タカトシを枕だけで使うのはもったいない