桜才学園での生活   作:猫林13世

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透けすぎだって……


透明の話題

 生徒会室に一人でいるのは久しぶりな気がする。タカトシと萩村は新聞部の取材対応、アリアは見回りに出ている為、私一人で作業できるはずだったのに――

 

「よーす」

 

 

――生徒会顧問である横島先生がやってきてしまった。タカトシがいない時に来られると困るんだよな……

 

「何だ、天草一人か」

 

「えぇ」

 

 

 事情を説明して作業に戻ろうとしたのだが、横島先生の肌が何時により透明に見えた気がした。

 

「横島先生、スキンケアの方法を変えたんですか?」

 

「分かるか? 化粧品を変えたのだ」

 

「そうだったんですか」

 

 

 バイトもしていない私には新しい化粧品に手を伸ばすことは難しいが、社会人である横島先生なら新しいものに挑戦することもできるのか……

 

「(何だか初めてこの人のことを羨ましいと思ったかもしれない)」

 

 

 普段はこの様な大人になりたくないと、ある意味最強の反面教師としてしか見ていなかったのだが、まさか羨ましいと思う日が来るとは……

 

「この透き通るような肌を見てくれ」

 

「まさか、自慢したくて生徒会室に?」

 

「だって、こんなに透き通ってるんだぞ? 誰かに自慢したくなるだろ」

 

「それは、まぁ……分からなくはないですが」

 

 

 私だって女子だ。肌に透明感が出たら自慢したくなるかもしれないけども、わざわざ仕事の邪魔をしてまで自慢したいと思うだろうか? そこだけは共感できない。

 

「ちょっと二人とも」

 

「おぉ、アリア。お帰り」

 

 

 私たちの会話が聞こえていたのか、アリアが生徒会室に飛び込んできた。やはりアリアもスキンケアの話は興味があるのだろうか?

 

「生徒会室でマニアックな話は駄目だよ? 勘違いされちゃったらどうするの」

 

「何の話だ?」

 

「だって、骨格フェチの話をしてたでしょう?」

 

「それは透けすぎだな」

 

「ねーねー、私を見てよー」

 

「随分と、楽しそうですね」

 

「「「あっ……」」」

 

 

 アリアの冗談で笑っていたら、背後から底冷えする声が聞こえてきて、私たちは同時に固まる。

 

「天草会長、溜まっていた作業は終わったのでしょうか?」

 

「もうちょっとだから!」

 

「横島先生はご自分のデスクの片付けをすると仰っていたのではありませんでしたっけ?」

 

「直ちに終わらせます!」

 

「七条先輩は風紀委員会へ報告があるのではなかったのですか?」

 

「そうだった! すぐに向かいます!」

 

 

 あえて丁寧な口調で責められ、私たちは弾かれたように自分の仕事に戻る。これだからどっちが会長だか分からないとか言われるんだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会作業も無く、バイトも無いので本屋巡りをしていたのだけども――

 

「いきなり降るんだもんな……」

 

 

――急に振り出した雨の所為で雨宿りを余儀なくされた。折り畳み傘は持っているのだけども、それでは凌ぎようがない雨なので身動きが取れない。

 

「無理してこっちまで来なければ良かったかも……」

 

 

 近所の本屋三件を回って見つけられなかったので、少し遠出するか諦めるか悩んだのだが、諦めきれずに少し足を延ばしたおかげで本は見付けられたのだが、その結果がこれだ。大人しく諦めていたら雨に見舞われることもなかっただろうに。

 

「駅まで行ければ何とかなるんだけどな……」

 

 

 そうすれば電車に乗って帰るだけだ。駅につけばどうとでも出来るのだが、この雨の中駅まで走るのは無理がある。

 

「どうしよう……」

 

「何してるんだ?」

 

「え?」

 

 

 聞き覚えのある声で話しかけられ、私は驚いてしまう。

 

「あっ、タカトシ君」

 

「雨宿りか?」

 

「こんなに降るとは思って無くて、折り畳みしか持ってないんだよね」

 

「なる程……駅まで入ってくか?」

 

「いいの?」

 

「別に構わない」

 

 

 タカトシ君がさしている傘は大きいので、私が入ってもそこまで濡れることは無いだろう。そう思ってタカトシ君の好意に甘えることに。

 

「サクラはこんなところで何してたんだ?」

 

「目当ての本が近所に無くて」

 

「それでこっちまできて雨に見舞われたと」

 

「その通りです」

 

 

 いくら大きい傘とはいえ二人で入ればそれなりに濡れるんじゃないかと思ったけど、私の方は濡れずに済んだ。

 

「ゴメンね、タカトシ君」

 

「気にするな。これくらい大したことじゃない」

 

「そうは言っても……とりあえずこれで拭いて」

 

 

 私を濡らさない為にタカトシ君の半身は結構濡れてしまっている。ハンカチ程度じゃあまり意味はないけども、とりあえずタカトシ君を拭いてから、私は電車に乗って自宅最寄り駅まで戻ることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカ君にお買い物を頼んで、私は部屋の掃除をしていた。普段ならコトちゃんの部屋まで掃除することは無いのだけども、今日は気分が良いのでサービスだ。

 

「あら?」

 

 

 ベッドの下を掃除していたら、掃除機が何か紙を吸い込んだ。私は掃除機を止めてその紙を確認することに。

 

「あっ、五十点の英語のテスト」

 

「ただいまー、ってあぁ!?」

 

 

 ちょうどコトちゃんが帰ってきたようで、私が手に持っているテストを見て慌てている。

 

「それはその……」

 

「うん」

 

「……あっ! 『いい報せと悪い報せがある』って言うのをやりたくて。いい報せができるまで寝かせておこうと……」

 

「タカ君に報告するね」

 

「そんな……」

 

 

 そもそもタカ君ならコトちゃんがテストを隠してることすらお見通しなんだろうけども、ちゃんと報告しておかないと私まで怒られちゃうし。

 

「ただいま」

 

「タカ君、お帰り――あら?」

 

 

 何故か半分だけ濡れているタカ君を見て、私は首を傾げる。傘はちゃんと持っていったはずだし、タカ君の手には濡れた傘がちゃんとある。なのに何故濡れているのか……

 

「どうしたの?」

 

「知り合いを駅まで入れただけです」

 

「ふーん」

 

 

 ここで深掘りするとこっちにまでダメージが来そうだったので、私はそこで話題を終わらせた。だって私以外と相合傘をしたなんて聞かされたくないし。




コトミの良いニュースは何時できるんだか……

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