生徒会長選挙は意外と熾烈を極めている。中間発表では天草会長が次点の五十嵐さんと僅差という感じになっており、パリィさんやコトミさんにも特定層の票が集まっている。
「(まぁ、無効票の津田君が一番多いのは候補者の皆さんには黙っておきましょう)」
誰がどう考えても津田君が一番会長に相応しいって分かっているのでしょう。もちろん私も津田君が一番だとは思いますが、彼が生徒会長になったら私の自由が無くなってしまうので今回は候補者に入れなかったのだ。
「それでは本日は、候補者演説を開催します。順番は五十嵐さん、コトミさん、パリィさん、天草さんの順です」
ちなみにこの順番は、候補者たちにじゃんけんをしてもらって決めたものだ。決して私の独断と偏見で決めたわけではない。なので津田副会長からも責められることはないのだ。
「それではまずは、現風紀委員長でもある五十嵐さんの演説です」
司会進行は私だが、その隣には津田君も控えている。私が余計なことを言いそうになったタイミングでマイクの電源を切り、萩村さんに司会進行を変更。私を連行して説教という流れになるのだろう。
『私が生徒会長になった暁には、風紀を徹底し、健全な学園作りに努めます!』
「真面目な人ですねぇ……面白みに欠けるというか」
「真面目な選挙なんですから、これくらいが普通だと思いますよ」
終始真面目な演説だった五十嵐さんに不満を零していると、横から津田君に注意された。どっちが先輩だか分からない感じだが、津田君に関してはこれが普通なので気にしないでおきましょう。
『私は柔道部のマネージャーを経験して、スポーツのすばらしさを知りました。そこで私が生徒会長になったら、スポーツが強い学園を目指しそして――』
コトミさんの演説を聞いている生徒の中には意外感を懐いている人も多いだろう。私もその内の一人だが、隣の津田君は何故か微妙な顔をしている。
『――世界にむけてアスリートをはいせつさせたいです!』
「……帰ったら国語の勉強だな」
「一番大事なところでやっちゃいましたね」
コトミさんの成績は知っての通りなので、この言い間違いは仕方が無いだろう。だが兄でもあり保護者代理である津田君は見逃せないミスだったようだ。
『私がカイチョーになったらアメリカンスタイルな学校にしマス。アメリカのハイスクールにはカフェテリアがあって、そこで朝食を摂れます』
「そんなのがあるんですね」
「現実問題として、そんな予算を何処から持ってくるかですけどね」
「津田君はリアリストですよね」
少しくらい夢を見てもいいとは思うのですが、現実味がないと左右に首を振っている。
『これがあれば食パンを咥えて登校する必要が無くなりマス』
「また誤解してる」
あれは現実ではあり得ないことだと日本人なら分かっているのに、パリィさんは日本を誤解してるからなぁ……
「最後は現生徒会長、天草さんの演説です」
三人の演説を聞く限り、天草さんの再任で決まりそうな雰囲気はありますが、一応天草さんの演説も聞いておかなければ。
『私が目指すものはただ一つ! 学ぶ時は学び、遊ぶ時は遊ぶ! 皆が笑顔になる学園を皆と築き上げたいです!』
「皆で作る学園か……ちゃんと考えてるんですよね、あの人」
「津田君が凄すぎて目立ちませんが、天草さんは普通に優秀な会長ですから。現にマイクを肉の延べ棒に見立てて手コキの練習をする余裕もある」
「緊張して昔の癖が出てるのか……」
冷静そうに見えて緊張していると分かり、私は天草さんが小刻みに震えていることに気付けた。津田君は最初から気付いていたようだが、この人には普通の人とは違う目があるのだろうか?
「候補者の演説は以上です。投票日まで残り数日ですが、今の演説も加味して誰に投票するか、しっかりと考えておいてください」
一応真面目に締めておかないと津田君に怒られるので、私はしっかりと締めの挨拶をして解散させる。演説を聞く限り天草さんの勝ちでしょうが、もう一波乱起こらないかな……
投票日前日、候補者たちは校門前で最後の挨拶をしている。現生徒会メンバーである我々は行き過ぎたアピールが無いかを見張る為にいるだけで、決して天草先輩の手伝いをしているわけではない。
「皆ラストスパートですね」
「萩村さんとしては、誰に会長になってもらいたいですか?」
「今更変わられても困るので、天草先輩に再任してもらいたいですね。間違ってコトミが会長になってしまったら、タカトシのカミナリが毎日生徒会室に落ちるでしょうし」
「あり得そうですね」
ただでさえ今でも天草先輩や七条先輩にカミナリを落とす時があり、私はその都度ビックリしてしまうのだ。それがコトミ相手となれば――
「っ!?」
「どうかしました?」
――その時のことを想像して背筋が伸びてしまった。
「「「「よろしくお願いします!」」」」
四人が同時に声を出したので、私はそちらに視線を向ける。すると四人がタカトシに手を伸ばしている光景が目に入ってきた。
「何か昔の告白番組みたいになってる」
「………」
一人は実妹だし、パリィはタカトシに特別な感情は無いから良いけど、二人はタカトシに好意を寄せている人だ。畑さんの冗談だとは分かっているのだけども、私もあそこに混ざって手を伸ばしたい衝動に駆られてしまうではないか……
「まぁ、四人にはそんなつもりは無いでしょうけどね~」
「………」
ニヤニヤと私を見てくる畑さん。この人は私が慌ててるのを見て楽しんでいたのか……
煽りまくる畑さん……