桜才学園での生活   作:猫林13世

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何がしたくてこんなことしたのか……


候補者だけの水泳大会

 突如生徒会長の座を懸けて戦わなければいけなくなってしまい、私はとりあえず畑が用意した水着に着替えた。

 

「ところで、何故水着なんだ?」

 

『第一回、生徒会長候補だらけの水泳大会』

 

「なにっ!?」

 

 

 畑が大々的に放送した内容に驚きはしたが、横でタカトシが事情説明をするように注意しているので私たちは詰め寄る必要はなかった。

 

「生徒会長に求めるものは? というアンケートをした結果です」

 

「なる程な。確かに生徒会長には体力も必要――」

 

「一位リーダーシップ。二位知力。三位やる気。四位特になし。五位体力」

 

「特になしに負けてるじゃないか!?」

 

 

 それなのに体力勝負をさせられるのか……タカトシが畑を脅して中止にしてくれないかとも思ったが、既に有権者たちが集まってきてしまっているので、今更中止にはできないだろう。

 

「会長の身体、引き締まってますよね。私夏太りしちゃったから羨ましいです」

 

「薄着の季節だからこそ身体を絞るのだ」

 

 

 タカトシくらい引き締まっていれば自慢できるのかもしれないが、私はあくまでも見られても恥ずかしくない程度だからな。しかも私から言わせてもらえば、コトミや五十嵐のように大きい方が羨ましいのだが……

 

「なる程。引き締まった肉体を見せつけ、男子から絞りとるんですね」

 

「くだらないことを言ってると、タカトシに怒られるぞ?」

 

 

 こちらの会話は聞こえていないだろうが、タカトシからは物凄いプレッシャーが放たれている。アイツは読心術も読唇術も使えるから、コトミが何を話しているかなどお見通しなのだろう。

 

「それでは、スターターは津田副会長にお願いいたします」

 

「何故俺が?」

 

「誰が生徒会長に就任しても、貴方の副会長再任は決定事項ですから。会長不在の今、貴方が生徒のトップなのですから」

 

「それっぽい理由を引っ張ってきましたが、事前連絡なくこのようなことを開催した件、後でたっぷり説明してもらいますから」

 

「はい……」

 

 

 畑がタカトシに怒られている様子を見ながら、私たちは飛び込み台の上に立つ。ここ、意外と高く見えるから嫌なんだよな……

 

「あっ……」

 

 

 頭に血が上ったのか、それともタカトシに見られて恥ずかしかったのかは分からないが、五十嵐がスタートの合図前にプールに落ち、すぐにタカトシが飛び込んで五十嵐を救い出す。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ご、ゴメンなさい……大丈夫です」

 

「棄権します?」

 

「いえ! 大丈夫です!」

 

 

 ここで五十嵐が棄権すればだいぶ私に有利だったのだが、まぁライバル不在の勝負程白けるものは無いし、何よりタカトシにお姫様抱っこされた五十嵐に負けたくないという気持ちが私に大きな力をくれる。こうなったら完膚なきまでに叩きのめしてやろう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故か燃え始めたシノちゃんを見ながら、私は隣にいるスズちゃんに話しかける。

 

「相変わらずタカトシ君の反応は早いよね~」

 

「他の人が動き出す前に五十嵐先輩を救出しましたからね。ですが、溺れてるわけじゃないのに救出に動く必要はあったのでしょうか?」

 

「今回はただ落ちただけだったけど、カエデちゃんは以前に溺れた経験があるからね~」

 

 

 あの時もタカトシ君が救出したから問題なかったけど、カエデちゃんのような美少女が溺れたとなれば、人工呼吸と言ってその唇を蹂躙する輩が現れていたかもしれない。それくらい危険なことだったんだよね。

 

「おっ、やっぱりシノちゃんがトップだね~」

 

「五十嵐先輩も負けてませんね」

 

「パリィちゃんは何故か平泳ぎだね~」

 

「コトミは……」

 

 

 水上走りをしようとしたらしく、コトミちゃんは完全に出遅れている。というか、絵的に溺れてるように見えなくもないが、タカトシ君は救出には動かない。

 

「バカなことをやったコトミのことはスルーのようですね」

 

「そもそも普通に泳ぎ出してるからね~」

 

 

 長年コトミちゃんのお兄ちゃんをやっているからか、あの程度でコトミちゃんが溺れるわけがないって分かっていたみたい。

 

「そうこうしている間に、シノちゃんがゴールだね」

 

「タッチの差で五十嵐先輩もゴールしましたね」

 

 

 どうやら体力勝負は僅差でシノちゃんが勝ったようで、健闘をたたえ合って握手している二人を見て観客から拍手が起こる。

 

「わー助けてー」

 

 

 そんな感動シーンの横で、イマイチ緊張感がない声が聞こえてきた。どうやらパリィちゃんが足をつってしまったようだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ありがとー」

 

 

 偶々そばを泳いでいたコトミちゃんがパリィちゃんに肩を貸してプールサイドに向かう。この光景は別の意味で感動を呼び、こちらにも拍手が送られた。

 

「コトミとパリィは失格ですね」

 

「まぁ、緊急事態だったし仕方ないよ~。タカトシ君が動く前にコトミちゃんが救出に動いたのはビックリしたけど」

 

「勝負に負けたので、少しでも心証を良くしようとしたんじゃないですかね?」

 

「純粋に善意じゃないの?」

 

「まぁ、そう思っておいた方が気持ちが良いのはたしかですけど」

 

 

 どうしてもコトミちゃんのことを信じられないスズちゃんは、納得していない様子。よく見ればタカトシ君も呆れた様子に見えるし、やっぱり何かあるのかな?

 

「タカトシ君、コトミちゃんがパリィちゃんを助けたのに何でそんな顔をしてるの?」

 

「いえ、コトミの考えてることが分かってしまったので……」

 

「なになに~?」

 

 

 私たちでは分からないことなので、素直にタカトシ君に尋ねる。

 

「『トイレ行きたくなったからちょうど良かった』って……」

 

「あらあら~」

 

 

 点数稼ぎではなく緊急避難だったようで、私は思わずスズちゃんの方を見る。スズちゃんだったらお漏らししても誤魔化せたかもしれなかったのにね~。




もし火曜日に更新されなかったら、ワクチンの副反応が出たんだなと思ってください

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