上手いこと天草さんを説得し、生徒会長選挙を開催する方向で話が進められた。本当は今の段階なら津田副会長の権力で握りつぶすことも可能だったのだが、現職の会長が出馬表明をしたのだから、ここからなかったことにするのは相当難しい。
「(これを機に誰かが津田君とゴールインでもしてくれれば、桜才新聞で大々的に取り上げられるし、真面目な記事しかできなくても注目はされるだろう)」
私の秘めたる目的など気付きもせず、天草さん以外の候補者は既に教室に集まっていた。
「五十嵐、パリィ、コトミ……本当に選挙が開催されるんだな」
「当然です。今の天草さんは津田君に頼り過ぎです。本来生徒会長は生徒の見本とならなければいけないというのに、しょっちゅう津田君に怒られてる姿が目撃されています。これでは生徒会長として相応しいとは言えないですからね」
「そんなこと言って、少しでも津田君と仲良くなりたいって気持ちがあるんじゃないですか?」
「そ、そんな不純な動機で立候補したわけではありません! 私は少しでもよりよい学園作りができたらと思って――」
「でも、津田君は副会長に再任させるわけですよね?」
さっき天草さんに言った通り、彼以上に副会長に相応しい人はいないでしょう。本来なら彼がこの選挙に出馬してさっさと会長職に就けばいいのですが、それじゃあ面白くありません。だからこうやって候補者たちを煽ってるわけです。
「風紀委員として働いていたとはいえ、生徒会の業務にはそこまで詳しくないわけですから、副会長として今の生徒会を支えてきた津田君を再任させるのは当然の流れです」
「でもそれだったら天草さんを副会長に任命すればいいだけでは? 津田君以上に生徒会役員歴があるわけですし」
「天草さんより津田君の方が信頼がおけます。彼がいない時の天草さんは、とても信頼に値しませんので」
「酷い言われようだが、確かにタカトシがいてこそ真面目に働けてるという自覚はあるからな」
天草さんが認めてしまったので、これ以上五十嵐さんを弄って遊ぶことはできそうにないですね。
「ではパリィさんが立候補した理由をお聞かせください」
「思い出作りだよ~。何時までもこの学園にいられるわけでもないし、生徒会長って何をするのか分からないけど出てみようって思った」
「分からないで立候補したのか? 調べてからするべきだと思うんだが」
「それもそうだね」
天草さんにそう言われ、パリィさんは携帯を取り出して調べ出す。確かこの子が調べるととんでもない結果になるんだとの噂があるので、どんな結果になるのか楽しみですね。
「生徒会長、ご奉仕、肉奴隷……あわわ」
「何のサイトを見てるんですかっ!?」
「シノはタカトシの肉人形だったの!?」
「わ、私はまだ処〇だ!」
「アンタも混乱するなっ!」
五十嵐さんが怒涛のツッコミを入れている横で、私は今の内容をメモに取る。これは記事にできる。
「畑っ! そんな見出しの記事は認めないからな!」
「何々……『驚愕! 生徒会長は副会長のペット』って、何ですかこの記事はっ!?」
「ちょっとのゴシップ記事くらい良いじゃないですか。それに憶測記事を書いたとしても津田副会長に握りつぶされるでしょうし、ちょっと妄想して遊ぶだけです」
そもそもこんな記事を書こうものなら、津田副会長のカミナリで済むかどうか……最悪本当に新聞部が潰されるかもしれないのだから。
「私が会長になったら畑さんは真っ先に取り締まる必要がありそうですね」
「私だって注意してるんだぞ」
「まぁまぁ。それでは最後の候補者、コトミさんの意気込みを聞きましょう」
「私はノリで出馬しただけです」
「「ノリでっ!?」」
天草さんと五十嵐さんがハモりましたが、私は何となくの動機は聞いていたので驚きません。
「タカ兄があれだけのポテンシャルがあるのだから、私にも秘められた力があるのではないかと思いまして」
「だがコトミよ。お前は柔道部のマネージャー業ですらろくにできてないんだろ? それなのに生徒会長なんてできると思ってるのか?」
「あのお義姉ちゃんでもできてるから、私でもなんとかなるかなーって」
「確かにカナは普段ふざけてるが、生徒会長としては優秀な部類だぞ?」
「まぁ、タカ兄にこってり絞られれば私でもできるようになると思いますよ、多分……」
視線が明後日の方へ向いているので、恐らくコトミさん自身もできるようになるとは思っていないのでしょう。
「なお私が独自取材した結果、現状では天草さんが一位、僅差で五十嵐さんが続くという形ですね。意外なことにパリィさんやコトミさんを支持する方もいらっしゃいますので、選挙期間のアピール次第では本当に会長交代もありえるかと」
「コトミの支持層ってどこなんだ? 五十嵐やパリィは何となく分かるが」
「実兄と結ばれたいというアブノーマルな思考を支持する方々です」
「おぉ! 私ってそんなに期待されてるんですね」
「そんな不純な理由で生徒会長を選ばれたら、この学園は終わるぞ……」
「何があっても津田君がきっちり締めてくれるから平気でしょう。実際天草さんがふざけた企画を立案しても、津田君がちゃんとしてくれたから成功してるんですよ?」
「それを言われると困るな……だが、私だってちゃんと考えて意見してるんだぞ?」
「でも、後始末は津田君任せですよね?」
私の切り返しに天草さんは言葉を失う。とりあえずこれで候補者は出そろったので、後はどう盛り上げて記事にするかですね。
支持層がどうしようもないな……