桜才学園での生活   作:猫林13世

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仕返しが地味……


ダイビング中のハプニング

 ダイビング前にカナの所為で心が乱れまくったが、潜ってしまえばその様なことで頭を悩ませることは無かった。怒りを忘れるくらい綺麗な海だったということもあるのだが、何かを察したタカトシが私たちから少し距離を取っていることで、海の中でカナが抜け駆けをするという心配がなくなったからである。

 

「(それにしても、タカトシはカナとの間接キスは気にしないんだな……)」

 

 

 既に慣れてしまっていると言うのもあるのだろうが、タカトシはカナが間違って咥えてしまったレギュレーターをそのまま使っている。しかもカナを叱るでもなく、ドジの一言で片づけて……

 

「(タカトシはカナのことを義姉としてしか見ていないが、カナは明らかにタカトシのことを男として見ている。義姉弟ということで私たちにはできない方法でアプローチしているようだが、今のところその成果は出ていないと思っていたのにな……)」

 

 

 間接キスが日常茶飯事で片づけられてしまったのには驚いた。カナは以前大福で間接キスをしていたが、あの時はカナの顔は真っ赤になっていた。だが今日、タカトシがレギュレーターをそのまま咥えたのを見てもカナは動揺していない。実際にキスしたことがあるアリアですら驚いていたというのにだ。

 

「(いったいどうやって今の関係を打破すればいいのだろうか……)」

 

 

 いろいろ考えてしまい、私はため息を吐いてしまう。すると私の身体は沈んでいく。

 

「(あっ、息を吐くと沈むんだった)」

 

 

 普段通りの場所ではなかったので、私はとりあえず思考をリセットして浮上する。カナからは不審な目で見られてしまったが、誰の所為でこんなに心が乱れていると思っているのだろうか。

 

「(しかし、せっかく潜っているというのにあまり楽しめていなかったな……とりあえず今はこの景色を楽しもう)」

 

 

 無理矢理切り替えて景色を楽しむことに。すると私の前にウミガメが現れて少しカナのことを忘れることができた。

 

「(大丈夫?)」

 

 

 カナが親指と人差し指で丸を作って私に尋ねてくる。ハンドサインで大丈夫かと尋ねてきたのだろうが、私はちょっとした仕返しを思いついた。

 

「(突っ込んで?)」

 

 

 両手を重ねて親指と人差し指を突き出したポーズを見せると、カナは慌てて首を左右に振る。海外ではカナのハンドサインはこういう意味があるらしいと知っていたようだ。

 

 

「(少しは仕返しできた気分だな)」

 

 

 本当にちょっとだけだが、カナを慌てさせることができて満足だ。これで気分よく水上に戻ることができ――

 

「(アリアが魚に襲われてる!?)」

 

 

 餌やりをミスったアリアが魚に襲われているのを見て、不覚にも興奮してしまい、出島さんに握手を求められたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お嬢様が魚に襲われている光景、何とか映像に残したかったのですが、生憎録画機器を持っていなかったので心のメモリーに保存しておきました。これが現像できる技術が早く開発されないかと思っていたら、津田様から鋭い視線を向けられてしまったため、まともな表情を作って誤魔化しておきましょう。

 

「かなり楽しかったな!」

 

「ですね。ちょっとしたハプニングはありましたが、楽しめました」

 

「スズポンはタカ君に顎クイされてたもんね。羨ましいです」

 

「潜る前にタカトシと間接キスしてた魚見さんには言われたくないですね」

 

 

 確かに魚見様は津田様と間接キスをしていますが、あれは魚見様がではなく津田様が、と表現した方が良いのではないでしょうか? なにせ魚見様が咥えたレギュレーターをそのまま咥えたのは津田様なのですから。

 

「(まぁ、言いませんが)」

 

 

 ここで余計なことを言って天草様や萩村様の機嫌を損なえば、津田様に多大なるご迷惑をおかけすることになってしまいます。それは延いてはお嬢様の恋路の邪魔になりかねないのです。一従者として、それは避けなければ。

 

「それにしても、海の中は気持ちよかったね~」

 

「アリアは何度も体験してるんじゃないのか?」

 

「多少はしてるけども、みんなで潜ったのは初めてだから」

 

「確かに。一人でするのと大勢でするのでは、気持ちよさが違いますから」

 

「……何か別の意味が込められてる気がするのは気のせいですか?」

 

 

 さすが津田様。私が別の意味を込めていると気づくとは……だがそれが何かを口にしないのはいただけませんね。

 

「ちなみに、海中での行為は気持ちよくありません。滑りが悪いから」

 

「タカトシが濁したんだから、アンタも素直に白状するな!」

 

「ロリに蹴られるこの快感! ありがとうございます!」

 

「ロリって言うな!」

 

 

 もう一発萩村様から蹴りをいただいて、私は満足です。

 

「それでは、七条家が管理している旅館へ行きましょう。さすがに個室ではありませんが、お部屋をご用意しておりますので」

 

「何から何まで申し訳ございません」

 

「これくらいお嬢様のご学友+αの為なら造作もありません」

 

「そうそう。タカトシ君は気にし過ぎなんだよ~」

 

「俺が普通だと思うんですけどね」

 

 

 確かに津田様の感性の方が普通なのかもしれませんが、今この場においてのみでは少数派。天草様も萩村様も、そして魚見様もあまり気にしておられない様子。津田様は周りを見て一つため息を吐くだけで、それ以上何も言いませんでした。さすがは高校生男子らしからぬ考え方ができるお方です。




タカトシが普通だと思う

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