桜才学園での生活   作:猫林13世

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目的がおかしい……


お出かけのお誘い

 現在コトちゃんが柔道部の合宿で不在なため、この家にはタカ君と私の二人だけ――のはずだった。

 

「何故シノっちたちが遊びに来たんでしょう?」

 

「俺に聞かれても分かりませんよ」

 

 

 何処からか私たちが二人きりで過ごしていると聞きつけたシノっちたちが津田家に突撃してきて、あっという間に二人きりの時間は終了を迎えてしまった。

 

「いきなり来てすまなかったな」

 

「そう思うなら事前に連絡くらいしてください」

 

 

 形だけの謝罪をタカ君は常識的な回答で切り返し、三人の前にお茶を置く。文句を言いながらもしっかりとおもてなしするのだから、タカ君は本当にいい子なのだろう。

 

「それでシノっちたちは何の用だったんです? まさか暇だから遊びに来たなんて言いませんよね?」

 

 

 私がそう問いかけると、シノっちに腕を掴まれてリビングから廊下へと移動させられる。後ろからはアリアっちとスズポンも付いてきているので、ここに来た理由は同じなのだろう。

 

「ただでさえ抜け駆けしてるカナが、タカトシと二人きりだと畑から報告があってな」

 

「新婚ごっこはさすがに見過ごせないよ~」

 

「ですが、私は既にコトちゃんという娘を育てるという疑似体験をしてるんですけど?」

 

 

 さすがにあんなに大きな子供がいるわけないのだが、コトちゃんは私とタカ君の子供みたいな感じになってきています。父母が逆なような気もしますが、私がある程度甘やかしタカ君がしっかりと締める。そうやってコトちゃんを成長させているのですから、子育て体験と言っても過言ではないでしょう。

 

「だからこそ、カナだけを津田家で生活させるのは避けようと思っただけだ」

 

「ですが私はタカ君とは違う学校。普段学校生活で一緒に過ごしている皆さんに抜け駆け云々言われる筋合いはないと思うのですが」

 

 

 昨日タカ君にも同じことを言ったが、あっさりと切り返されてしまった言い訳を使う。すると三人は言葉を失ったように視線で会話を始めていた。

 

「(やっぱり、タカ君とこの三人とじゃ言い包めやすさが違いますね)」

 

 

 私としてはギリギリの言い訳のつもりだったのですが、三人を黙らせる威力があった。とりあえずこれで追及は終わりなのでしょうか。

 

「と、兎に角! タカトシが誰かを選ぶまでは、私たちにだってチャンスがあってもいいだろ」

 

「それはもちろんですね。ですが、タカ君の機嫌を損ねることだけは避けてくださいね? せっかくコトちゃんがいなくて、タカ君の精神的安寧な時間だったんですから」

 

「カナちゃんが言うの、それ?」

 

「私はそこまでタカ君の精神を乱してませんので」

 

 

 お風呂には誘いましたが、あれは冗談だって分かってくれてますし。とりあえずタカ君の機嫌が損なわれることだけは避けようと、私は逆に三人に釘を刺してリビングへ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナに言い負かされた気がしてならないが、とりあえずカナの抜け駆けを妨害することができたので目的は果たした。だがこの後私たちが帰ったらまた二人きりとかなりそうだな……

 

「そういえば皆は、夏休みの予定とかある?」

 

「今のところは何もないな。だからカナの為なら火の中水の中、何処へでも行くぞ」

 

 

 本当に暇だと言いたかっただけなのだが、カナは何故か嬉しそうにこちらを見ている。そんなに感動したのだろうか?

 

「良かった。行くのは水の中だから」

 

「へっ?」

 

 

 随分と間の抜けた声を出してしまったが、それくらい意外だったのだ。水の中って、いったい何をすると言うのだろうか。

 

「実はおばあちゃんからもらったウエットスーツがあるので、せっかくだからダイビングを体験したいなと思っていたのです。でも、さすがに一人じゃ寂しいから皆を誘おうと思って」

 

「カナちゃん、ダイビングに興味があったんだ~」

 

「それでウエットスーツを買ってくれるなんて、優しいおばあさんなんですね」

 

「そ、そうだね」

 

 

 アリアと萩村に深堀されそうになって、カナの視線は泳ぎ始めた。私たちではカナが何を考えているのか分からないので、タカトシに小声で確認してみる。

 

「(カナは何で視線を泳がせてるんだ?)」

 

「(本来の目的はウエットスーツを着てぴちぴち感を楽しみたかっただけみたいです)」

 

「(なる程)」

 

 

 確かにあのぴちぴち感は興味があるな。だが私にはあれほど高価な物を買ってくれる相手などいないので、自分の物を手に入れるのは難しいと諦めていた。だがカナはそれができるとは……これが格差社会とでも言うのか。

 

「それ、違うと思いますけど」

 

「そうか? ……私、何も言ってないぞ?」

 

「顔が雄弁に語ってましたので」

 

「そうなのか?」

 

 

 慌てて自分の顔を触りまくるが、そもそも表情から思考を読み取るなんて普通の人間には難しいだろう。相手がタカトシだったからバレたんだということで、私はとりあえず納得することに。

 

「それじゃあ皆でダイビングに行こう」

 

「この面子なら、宿題の心配もいらないしね」

 

「しかもコトミが合宿で不在な今、家の心配をする必要もないからタカトシも安心だろ?」

 

「そうかもしれませんが、会長がそれを言わんでください」

 

「す、すまん」

 

 

 確かに家主のタカトシか、義姉のカナが言うならまだ良かったかもしれないが、私が言うのは違ったなと思い反省する。とりあえずこれで、タカトシとお出かけすることができるので、カナには感謝しておこう。




人に言われるのは違うんでしょうね

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