私が生徒会室に入ると、タカトシが何かの雑誌を読んでいた。
「(いったい何の雑誌を……)」
恐らくは没収したものなのだろうが、タカトシが雑誌を読んでいるところなんてあまり見たこと無かったから興味がそそられた。
「(タカトシが水着グラビアを見ているだとっ!?)」
偶々そのページで手を止めていただけかもしれないが、タカトシにも異性の水着に興味をそそられるのかと、多少なりともショックを受ける。だって、私たちの水着で興奮していることなんて無かったから。
「何をじろじろ見てるんですか?」
「いや……タカトシもそういう水着に興味があるのかと思ってな」
「水着? これはさっき横島先生がここで熟読していて、このページを眺めながら『スイカ食べたくなってきた』とか言っていたので、どういう意味か考えていただけです」
「スイカ?」
タカトシに言われ私もじっくり眺めると、縞柄ビキニとドット柄ビキニでスイカを連想した。確かにちょっとスイカが食べたくなってきたな。
「ところで、どうして横島先生がこの雑誌を?」
「男子生徒から没収したと言っていました。そこまでなら立派に教師として働いていると言えなくもなかったんですけどね」
その後が残念だと言いたげなタカトシの表情に、私はどう反応すればいいのか困る。だって、横島先生の評価は私の仕事ではなくタカトシの仕事だから。
「いや、俺の仕事でもないですけど」
「だが、生徒であの人を止められるのはお前だけだろ? 私やアリア、萩村ではあの人は止まらない」
「そもそも生徒に怒られている時点で、あの人は教師として問題ありだと思うのですがね」
「確かにな」
あの人が教師として問題があるという評価には私も賛同する。だって男子生徒を空き教室に連れ込もうとしたり、補習免除する代わりに自分の相手をしろと脅したりと、噂は絶えない人だから。もちろん、それが全て事実ではないのかもしれないが、少なくとも私たちは横島先生がそう言うことをしようとしてタカトシに怒られているところを見たことがあるので、全て嘘というわけでもないと断言できるのだ。
「ところで、アリア先輩とスズは? 一緒に見回りをしていたのでは?」
「途中で畑に捕まって私だけ別行動だったからな。そろそろ戻って来るとは思うが」
「今日は何をしたんですか、あの人は」
「桜才ブログに対しての取材の申し込みだったが、何か裏がありそうだったので私が代表して畑の裏を探っただけだ。今日のところは何もしてないと思うぞ」
「そうですか」
私では畑の心の裡を覗き見ることはできないので断言はできない。だが今日のところは疚しい感じはしなかったので見逃したのだ。
「ただいまー。園芸部からスイカ貰ったから、皆で食べよう~」
「スイカ、スイカ!」
「何でコトミまで一緒に?」
「偶々会ったんだよ~」
アリアと萩村と一緒に生徒会室にやってきてノリノリのコトミに、タカトシが頭を押さえたのを私は見逃さなかった。相変わらずいろいろと頭痛の種を持っているんだなぁ……
生徒会室でスイカを食べていると、タカトシ君が持っていた雑誌が目に入り彼に尋ねてみた。
「この雑誌は?」
「没収品です」
「ちょうどスイカが食べたいと思っていたので、アリアが戻ってきたのはナイスタイミングだったぞ」
「何で~?」
シノちゃんがスイカを食べたがった理由を聞くと、この雑誌だと教えてくれた。その返事に私だけではなくスズちゃんやコトミちゃんも興味を惹かれたのか、そのページを確認することに。
「このページを見てスイカを食べたくなったんだ~。確かに柄的にもスイカを連想しちゃうかもね~」
「私はてっきりスイカップを見てスイカを食べたくなったのかと思っちゃいましたよ~」
「私は女だ! 出島さんのように両方OKではないぞ」
シノちゃんが若干ズレた言い訳を始めたので、コトミちゃんは面白がってからかい続けようとしていたけど、タカトシ君に一睨みされて大人しくなる。相変わらずコトミちゃんはタカトシ君に逆らえないんだなぁって思ったけど、彼に逆らえる人なんてこの場にはいなかったわね。
「タカトシ君はこのページの水着グラビアを見てどう思った?」
「こう言うことを任される人だけあって、綺麗な人だとは思いましたが、そこからスイカを連想することは無かったですね。横島先生はよっぽどお腹が空いていたのでしょう」
「相変わらず真面目だね。興奮したかどうかじゃなくて、純粋に評価するなんて」
そこが他の男子と違うところなのだろうな。普通ならこの女性の胸を見て興奮し、剥いた姿を想像して興奮するんだろうけども、タカトシ君はそんなことに興味はないみたい。
「もし私がこういうのをやったらどう思う?」
「アリアさんが雑誌のモデルを、ですか? お似合いだとは思いますよ。この女性たちに負けないくらい、アリアさんは魅力的ですから」
「あ、ありがとう」
まさか素面でそんなことを言ってくれるとは思っていなかったので、私の方が赤面してしまう。タカトシ君は水着云々ではなく私をモデルとして評価してくれたようだ。
「タカトシとアリアで空気作るの禁止!」
「空気? なんなんですかいったい……」
「相変わらずタカ兄は女殺しなんだから」
「は?」
「からかわないでよ~」
シノちゃんにからかわれて冗談ぽくしたけども、私の心臓は落ち着くことは無く早鐘を打っている。だって、タカトシ君に魅力的って言われたんだもん、落ちつけるはずなど無いではないか。
「兎に角! アリアは後でお説教だからな!」
シノちゃんにそんなこと言われても、今の私には何にも問題は無い。だって、さっきの言葉を思い出すだけで幸せになれるから。
コトミは余計なことしか言わないな……