重要な話し合いをする為に、私たちは七条家を訪れた。本来であれば生徒会室で話し合うものなのだが、我が校には盗み聞きをしたがる輩がいるので、念には念を入れて七条家を会場としたのだが、一緒にやってきたタカトシと萩村は呆れ顔である。
「畑さんはカエデさんに見ていてもらえば良かっただけでは?」
「そもそもそこまで重要な話し合いでもないですし、どうせ近日中には発表することなんですから」
「別にいいだろ! それに、話し合いが終わればそのまま七条家の敷地内で遊べるしな!」
「それが目的だっただろうが……」
タカトシには最初からバレているって分かっていたけども、責められる視線は堪えるな……以前はこれが快感だったのだが、最近では怒られているからショックを受けるんだよな。
「お待ちしておりました。お嬢様がお待ちです」
「お邪魔します、出島さん」
七条家専属メイドの出島さんに出迎えられ、私たちは敷地内へと入る。友達の家に来ただけなのに、この緊張感は慣れないな。
「……迷いました」
「またか!」
「……タカトシ、アリアの気配はどっちだ?」
相変わらずのドジっ子メイドの出島さんが迷子になったので、私はタカトシに気配を探ってもらいアリアがいる部屋へ向かう。これじゃあどっちがこの家に仕えているのか分からないな……
「いらっしゃーい」
「アリア、今日は場所を提供してくれてありがとうな」
「気にしないで~。それじゃあさっそく話し合いをしましょうか」
アリアの言う通り、私たちがここに来たのは大事な話し合いをする為。すぐに話し合いを始め、出島さんがお茶を持ってきてくれるまでの間に結構なことは決められた。
「――といった感じだな」
「そうですね。それでしたら無理もないですし、生徒からも文句は出ないでしょう」
「予算の面でも問題は無いですね」
私が提案しタカトシと萩村が精査する。これではどっちが会長だか分からない構図だが、我が生徒会はこれで成り立っているのだ。
「皆さま、お茶をお持ちしました」
「ありがとー」
出島さんが紅茶を淹れてくれているのを見て、やっぱりお金持ちの家なんだなと実感する。これが我が家ならティーパックだが、しっかりと茶葉から用意してくれている。
「紅茶は空気を含ませることによって旨みが増すんだよな」
「そういえばタカトシ君も以前出島さんに教わってたよね」
「そういえばそんなこともありましたね」
タカトシは普段紅茶を飲まないから知らなかったらしいが、こいつでも知らないことがあるんだなと驚いた記憶がある。
「そしてこうして高い所から淹れることによって、チョイMな私にとってはご褒美です」
「未熟者っ!」
「俺が淹れますので、出島さんは下がっててください」
出島さんからティーポットを取り上げ人数分のお茶を用意するタカトシ……私服のはずなのに何処の執事だと思ってしまったのは、私が疲れているからだろうか。
「まぁ、こういう些細なことは置いておくにしても、出島さんは芸達者ですよね」
「将来の為にいろいろと経験を積んできましたので。メイドの他に家庭教師やOL、劇団員に各インストラクターの資格も取得しています」
「素晴らしい心構えですね。私も見習わなければ」
「そうですね。そういう考え方は立派だと思います」
「私も、出島さんのように経験を積みたいと思います」
経歴を聞かされ、私たちは改めて出島さんの凄さを知った。その考え方にはタカトシや萩村も感銘を受けたようで、出島さんは恥ずかしそうに頭を掻いている。
「それに、元〇〇系〇Vって受けがいいので」
「ろくでもないな……」
「あぁっ! タカトシ様に呆れられると興奮で濡れてしまいます」
「………」
急にクネクネしだした出島さんに呆れた視線を向けていたタカトシは、盛大にため息を吐いて自分で淹れた紅茶を飲み始めたのだった。
今日も一日働いた私は、自分に宛がわれている部屋のベッドに入り込む。
「今日はお嬢様の寝顔鑑賞からお嬢様にお礼を言われ、タカトシ様に憐憫の視線を向けていただけた。これだけで今日は大満足の成果ですね」
普通なら憐憫の視線を向けられたら嫌な思いをするのでしょうが、タカトシ様の視線はそんな思いを凌駕する威力がありますからね。
「とりあえず明日も早いですし、今日のところは発散せずに寝ましょう」
使用人の朝は早いのであまり遅くまで起きているわけにはいきません。私は急いで寝間着を身に着けてベッドに潜り込む。
「これがお嬢様のベッドだったら、興奮して寝られなかったでしょうけどもね」
早く寝なければと思いつつ、私の隣にお嬢様が寝ている妄想をして、私は思わず鼻を押さえる。ここ最近抑えが効かなくなってきたのか、本気でお嬢様を押し倒そうと考えてしまう場面が多くなっていたような気も……
「まぁ、そんなことすればそのタイミングで私の居場所は無くなるわけですが」
いくら同性とはいえ、お嬢様に手を出した使用人を旦那様や奥様が放っておくわけがない。私はその恐怖があるから踏みとどまれているのだと、もう少し自制心を鍛えようと心に決め目を閉じ――
「化粧落とすの忘れてた。昔よく寝起きモノの作品に出てたから癖が抜けてないんだよな……まいったまいった」
誰に聞かせるわけでもないですが、私はそう言い訳をしながら化粧を落とす。これも過去の経験からなのですが、こればっかりは何としても直さなければいけませんね。
どうしても拭えない残念臭……