桜才学園での生活   作:猫林13世

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それは違うんじゃないかな……


五分前行動

 お嬢様の起床時間は朝七時と決まっている。決まっているとはいえ自力で毎回起きられるわけではないので、私が起こしに行く場合が多い。

 

「(この瞬間だけは合法的にお嬢様のお部屋に入ることができるのです)」

 

 

 別にこの屋敷で働いている身としては、お嬢様の部屋に入ることが違法になることではないのですが、橋高さんから要注意人物扱いされている身としては、お嬢様の部屋に入ると何かしたのではないかと疑われてしまうのです。

 

「(七時五分前、何時も通りの時間に到着です)」

 

 

 本来であれば七時少し前に部屋に入りお嬢様を起こせばいいのですが、せっかくお嬢様のお部屋に入ることができるのですから、少しくらいはご褒美が欲しい。そう考えた私は、起床時間五分前に部屋にやってきて、お嬢様の寝顔をゆっくりと鑑賞することにしたのです。

 

「(本当であればお嬢様の寝顔写真などを撮りたいのですが、部屋に向かう前に厳しいチェックがあるので、カメラ等の撮影機器は持ち込めないのですよね……)」

 

 

 もちろん、この部屋から出れば携帯などは返してもらえるので、不当な取り上げなどと文句を言うこともできません。ですからこうして毎日心のカメラでお嬢様の寝顔を激写しているのです。

 

「おっと」

 

 

 時計を確認すると七時ちょうど。やはり本日もお嬢様はご自身で起きることができなかったようで、私はゆっくりとお嬢様の身体をゆすり、小声で話しかける。

 

「お嬢様、お時間ですので起きてください」

 

「うーん……」

 

 

 私の手を払うように身体を揺らすお嬢様。その際にお嬢様の豊満な胸が揺れ、私は思わず鼻を押さえる。

 

「この破壊力……もしかしたら津田様もこれを見たらお嬢様の魅力に逆らえなくなるかもしれませんね」

 

 

 私が知る中で、最も強い意思を持つ男である津田様ですが、これ程の破壊力があればその意思を砕くこともできるかも――そんなことを考えてしまいました。

 

「そうじゃなかった。お嬢様、本日は生徒会で早朝会議があると仰られていたではありませんか。さすがにこれ以上は許容できませんよ」

 

「むぅ……」

 

 

 眠そうに目をこすりながら起き上がるお嬢様を見て、私は慌てて顔を背ける。だってあのまま見続けていたら間違いなく鼻血を噴き出してお嬢様を私の血で穢してしまうところだったから。

 

「出島さん、おはよー」

 

「おふぁよふごじゃいましゅ……」

 

「どうしたの?」

 

 

 鼻を押さえながら応える私に、お嬢様が小首を傾げます。またそのポーズが可愛らしいこと。もし許されるのであればすぐにでも押し倒して私のものにしたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出島さんのお陰で遅刻することなく会議に出席でき、一日を快適に過ごすことができた。だから私は帰りの車の中で出島さんにお礼を言うことにした。

 

「今日もありがとうね、出島さん」

 

「いえ、これも私の仕事ですから」

 

「そうなんだろうけども、お礼を言わなくて良いわけじゃないでしょ」

 

 

 本当は何かお礼の品を上げられたらいいのだけども、私個人の力では出島さんにしてあげられることなどほとんどない。お金だって結局はお父さんとお母さんが稼いだものだし、そもそもお金は十分に貰っているから欲しくないだろうし……

 

「出島さん」

 

「はい、何でしょう」

 

「出島さんが今欲しいものって?」

 

「お嬢様です! (何故そのようなことを聞くのですか?)」

 

「心の声が漏れてるよ~?」

 

 

 タカトシ君なら出島さんが建前で何を言おうとしたのかもわかるのかもしれないけど、私には出島さんが思わず本音を言ってしまったということしか分からない。出島さんはしまったという顔をしながら謝罪してくれたけども、そこまで気にすることではないと思うのだけども。

 

「さすがに私はあげられないよ~。私は出島さんと違って、ノーマルだから」

 

「それは残念です」

 

 

 屋敷について橋高さんたちにも出迎えられ、私は部屋で着替えてから出島さんを探す。さっき言い忘れちゃったことを伝えたかったからだ。

 

「はぁはぁ……お嬢様のパンツ」

 

「出島さーん」

 

「はっ! 決してお嬢様のパンツを盗もうとか、そんなことを考えていたわけではありませんので」

 

「見て興奮してる分には文句言わないから~。あっ、でもさすがに穿いてるところを見せては駄目だからね」

 

 

 言われそうだったので先手を打つと、出島さんは少し残念そうな顔をした。本当に言うつもりだったのかと、庭の手入れをしていた橋高さんが呆れたようにため息を吐いたけども、私は笑顔のまま。

 

「それで、お嬢様。私に何か用でしょうか?」

 

「この後シノちゃんたちが来るから、おもてなしの準備をお願いね~」

 

「かしこまりました。お見えになられるのは、何時も通り天草様、津田様、萩村様の御三人様でしょうか?」

 

「うん。ちょっと学校内では誰かに聞かれる恐れがあるからってシノちゃんが言い出してね~」

 

「秘密の話し合いですか」

 

「タカトシ君はそこまで気にしなくても良いって感じの顔をしてたけど、シノちゃんも頑固だから~」

 

 

 タカトシ君の気配察知能力があれば盗み聞きなんてできないのだけども、シノちゃんが念には念を入れてということで私の家で話し合いをすることになったのだ。

 

「すぐにお菓子のご用意を致します」

 

「お願いね~」

 

 

 本当なら私が用意するべきなのだろうけども、バレンタインでもない限り滅多にキッチンには入れてくれないのだ。だから私は出島さんに準備を任せ、皆が来るまで宿題でもしておこうと部屋に戻ったのだった。




やっぱりダメな部分が目立つ出島さん……

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