桜才学園での生活   作:猫林13世

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よく思い付くよな


シノの思い付き

 ここ最近暑くなってきた。だが制服を着崩すわけにはいかない。生徒会役員として他の案を考えていると頃に、みまわりから戻ってきたアリアが雑誌を差し出してきた。

 

「これは?」

 

「横島先生が男子生徒から没収して、生徒会室で読んでいたところをタカトシ君が没収して私が預かった雑誌だよ」

 

「ほんとにあの人は……」

 

 

 何故あの人が教師としてやっていられるのかが不思議だが、その光景が容易に想像できる辺り、私もあの人のことをちゃんと理解できているのだろうな。

 

「水着か……随分と涼しそうな格好だな」

 

 

 ついつい検閲の為と言い訳しながら雑誌を読み進めてしまう。

 

「こんな格好で過ごせたらいいんだがな……」

 

「でもシノちゃん、水着で生活するなんて出来ないと思うけど」

 

「そうなんだよな……ん?」

 

 

 先を読み進めていくと、涼しそうな恰好の女性が写っている。

 

「これは……浴衣?」

 

「わざと着崩してエロスを演出してるんだね」

 

「なる程、今はそういう風にしていくのか……」

 

 

 最近そっちの知識を吸収していなかったので、私は思わずそのページをじっくりと観察していく。

 

「しかし浴衣か……」

 

 

 そこでふと、私にある考えが降ってきた。

 

「浴衣なら涼しいし、風紀を乱すこともないだろう」

 

「シノちゃん?」

 

「これだ! アリア、来週は浴衣デーを開催するぞ!」

 

「浴衣デー?」

 

「校内全員浴衣で過ごす日だ! そうすればこの暑さも少しは和らぐかもしれないだろ」

 

「でもタカトシ君やカエデちゃんが許可してくれるかな~? あの二人は特に熱そうにしていなかったし」

 

 

 確かにあの二人は真夏だろうと平然と過ごしているようだが、私は知っている。五十嵐は人がいない所では暑がっているのを。

 

「プレゼンする前から諦めるのは良くないぞ! 早速資料を作って五十嵐にプレゼンだ!」

 

「タカトシ君にじゃなくって?」

 

「タカトシを説得するのには大人数の方が良いだろ? だから先に五十嵐を懐柔してからタカトシを説得するんだ」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 そこで萩村が生徒会室に戻ってきたので、私はまず萩村に浴衣デーについてプレゼンすることに。資料は無かったがそこそこ納得のいくプレゼンができたので、萩村に魅力が伝わったようだ。

 

「確かに最近暑いですからね……浴衣なら視覚的にも涼しさを演出できるかもしれません」

 

「だろ?」

 

「それじゃあ早速プレゼン資料を作って風紀委員会に提出するぞ」

 

「こういうのはタカトシに作ってもらった方が早いのでは?」

 

「タカトシにはまだ説明してないから……」

 

 

 私一人ではタカトシを納得させられないと思っているのがバレたのか、萩村が同情的な視線を私に向けてくる。だがそれも一瞬のことで、すぐにプレゼン資料作成に取り掛かってくれた。本当に優秀な後輩だな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見回りを終えて風紀委員会本部に戻ってくると、風紀委員のみんなが暑さで参っている様子が目に入って来る。確かにここ最近暑くなってきたけども、これはだらけすぎじゃないかしら。

 

「みんな、もう少ししっかりしないと」

 

「ですが委員長。この暑さは仕方ないですって……」

 

「他の子たちはバレない程度に着崩してたりしてますし、我慢する方が難しいかと」

 

「それはそうかもしれないけど、私たちは風紀委員なのよ? 率先して制服を着崩すわけにはいかないでしょ」

 

「そうなんですけど……」

 

 

 後輩の子が泣きそうな顔で訴えてくる。私も暑いのは得意じゃないけども、風紀委員長として制服の着崩しを見逃すわけにはいかない。

 

「五十嵐はいるか」

 

「天草会長? それに七条さんに萩村さんまで」

 

 

 生徒会の三人が風紀委員会本部にやって来るのはそれ程珍しいことではない。だがタカトシ君がいないので、私はそこはかとなく不安を感じている。

 

「実は生徒会として新たな試みをしたくてな。風紀委員の許可をもらいたくて来た」

 

「試み、ですか?」

 

「あぁ。浴衣デーを開催したいと思ってな」

 

「浴衣、ですか?」

 

 

 萩村さんから手渡された資料に目を通していると、他のメンバーたちも興味を惹かれたように天草さんのプレゼンに耳を傾けている。

 

「――というわけで、視覚的な涼しさも狙えると思うんだ」

 

「確かに、浴衣って涼しげですもんね」

 

 

 全校生徒が浴衣を着ていれば悪目立ちもしないだろう。だが全員参加してくれるだろうか……

 

「実施の予定日は?」

 

「来週を予定している。畑にも協力してもらって全生徒に告知すれば、お祭り好きなここの生徒なら参加してくれるだろう」

 

「タカトシ君は何て?」

 

 

 一番気になっていることを確認すると、三人は揃って視線を逸らした。

 

「タカトシにはこれから説明をするつもりなんだ……」

 

「何故最初にタカトシ君に説明しなかったのですか?」

 

「タカトシ君は今、横島先生にお説教してるところなの」

 

「あぁ……」

 

 

 あの先生のことだからまたよからぬことをしたのだろうと容易に想像できる。本当に、どっちが教師なのか分からない構図だけども、タカトシ君と横島先生ならしっくり来てしまう。

 

「風紀委員としては問題ないと思いますよ」

 

「そうか! なら一緒にタカトシに説明してくれ」

 

「わ、私もっ!?」

 

「人数は多い方が良いだろ!」

 

 

 そう言って天草さんに手を引かれて、私たちはタカトシ君がいるであろう職員室にやってきた。

 

「何ですか、皆さんお揃いで……」

 

 

 途中で合流した畑さんも加わり、私たちはタカトシ君に浴衣デーのプレゼンを行うことに。

 

「――というわけだ」

 

「全員が浴衣を持っているとは思えないのですが」

 

「そこはウチが用意するから大丈夫だよ」

 

「そうですか。なら問題ないのではないかと。監視の目はしっかりと光らせておきますので」

 

 

 何か懸念材料があるのかもしれないが、タカトシ君がしっかりと見てくれているなら安全だろう。こうして桜才学園浴衣デーが開催されることになったのだった。




タカトシは何処ポジションなんだろうか……

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