タカ兄に頼ってばかりではいけないと思い、一念発起して部屋の掃除をしたのだが――
「おかしい……私は掃除をしていたはずなのに……」
――開始前よりも散らかっている部屋を見て私は首を傾げる。
「何故掃除をしていたのに汚れるんだ? それとも、タカ兄やお義姉ちゃんも私と同じように一度散らかしてから片付けているとでも言うのだろうか」
普段二人が掃除しているところなんて見たことないから分からないが、恐らくそんなことは無いのだろう。だって、あの二人は私が散らかしていた時間よりも短い時間で片づけを終わらせてしまうから。
「そうなると、何故私が掃除をしようとして散らかしてしまうのか、納得がいく説明ができないじゃないか」
私に掃除のセンスがないという事実から目を逸らし、何故こうなってしまったのか理由を探すが、そんなものは無い。
「とりあえずタカ兄が帰ってくる前に元に戻さないと」
多少散らかっていたとしても、この惨状に比べれば元の部屋は綺麗だった。だから元に戻そうとするのだが、戻そうとすればするほど部屋が散らかっていく。
「これは……何者かに仕組まれた陰謀!?」
私が掃除できないのは世界に仕組まれた陰謀ではないのだろうか……私は世界から家事ができない呪いが掛けられているのだろう。
「とりあえずこれをどうにかしないとタカ兄に怒られることは確定……急いでどうにかしなければ」
今日はお義姉ちゃんも来ない日だから、私一人でどうにかしなければいけない。だからどうにかしなければいけないのだが私一人ではどうにもできない。
「何で片付けなんてしようと思っちゃったんだろう……そんなこと考えなければこんなことにはならなかったというのに……」
一時間前くらいの自分に恨み節を言いながら、私は散らかっている部屋を片付ける為に手を動かす。だが動かせば動かす程部屋は散らかっていく。
「と、とりあえずゴミだけは片付けておかないと」
部屋で食べたお菓子のゴミだけはどうにかしておかないとカミナリの威力が強まってしまう。とりあえずゴミを袋に纏めて捨てておかないとな……
タカ君が忙しそうにしているのは分かっているので、今日は本当は家に行かない日なのだがお手伝いの為にタカ君の家に向かう。
「ただいま」
「あっ、お義姉ちゃん! 助けてください!」
家に入るとコトちゃんが泣きついてきた。何事かと思いコトちゃんの後に続くと、ものすごく散らかっている部屋が視界に入ってきた。
「コトちゃん、これはどういうこと?」
「部屋の片づけをしようと思い頑張ったんですけど……」
「またいつものパターン?」
「はい……」
コトちゃんは掃除をしようとすればするほど散らかしてしまう性質らしく、コトちゃんが掃除を始めるとこういう光景になってしまうのだ。
「とりあえずコトちゃん」
「はい……」
「タカ君が戻ってくる前に綺麗にしておきましょう」
「お、お願いします」
コトちゃん一人ではできないので、私も手伝ってコトちゃんの部屋の片づけを始める。何をどうやったらここまで散らかるのか分からないけど、これが全部コトちゃんの部屋にあったものだということは間違いない。
「これは何処に片付けるの?」
「それはこっちにお願いします」
「これは?」
「それは……なんでしたっけ?」
コトちゃんの部屋にあるものだというのに、コトちゃんが分からないなんて……これはタカ君に怒られた方がよさそうですね……
「それじゃあこれはゴミで良いですね?」
「ちょっと待ってください! 今なんだったか思い出しますから」
必死に思い出そうとしていたコトちゃんだったが、結局なんだったか分からなかったようですね。
『ただいま』
「ひっ!?」
そのタイミングでタカ君が帰ってきた。コトちゃんの肩がすくみ上ったのを見れば、タカ君のカミナリが落ちるのは確定ですね。
「コトミ……お前何やってるんだ?」
「か、片づけをしようとしていたんですけど……」
「それで、このゴミの山は何だ?」
「へ、部屋にあったものです……」
タカ君の肩が小刻みに震えだしたのを見て、私はそっとこの場から離れることに……だって、タカ君のカミナリが落ちる数秒前だということに気付いてしまったから。
「今後この状況にした場合、容赦なく家から追い出すからな」
「そ、それだけはご勘弁を! 私が家を出たらどうなるか、タカ兄が一番分かってるでしょ!?」
「まず部屋を借りられるか分からないな」
コトちゃん一人の信用では部屋は借りられないだろう。ご両親が許可してくれるとも思えないし、保証人無しで部屋が借りられる程の収入があるわけないのだから。
「それが分かってるなら私を家から追い出すなんてしないでよ!?」
「されたくないのなら自分のことは自分でやれ。義姉さん、コトミのことは放っておいていいので」
「でも、コトちゃん一人じゃ片付けられないと思うんだけど?」
「それで何時までも甘やかしてたらコトミの為になりません。多少は自分でできるようにならないと、今後本当に追い出された時に困るでしょうから」
「ほ、本気で追い出したりしないよね? ねっ!?」
泣きそうになったコトちゃんを無視して、タカ君は自分の部屋に入ってしまう。私もコトちゃんに同情しながらリビングに下り、お茶の用意をすることにしよう。だって、下手に手伝ったら私までタカ君に怒られてしまうから。
片づけられない女、コトミ