ここ最近ストレスが溜まっていけないな……何かスッキリする方法は無いだろうか……
「ん?」
そんなことを考えていたところでさくらたんが目に入った。
「そういえば最近、畑がロッカーに隠れてる回数が増えてるんだよな……」
畑が入れるということは私も入ろうとすれば入れるだろう。
「さくらたんとロッカー……」
私の中に一つの悪戯が思い浮かぶ。だがこれは一人では成功することはできない悪戯だ。
「そうと決まればすぐにタカトシを呼び出して――」
「なんです?」
「うひゃぁ!?」
考え事に集中していたからか、タカトシが生徒会室に入ってきていたことに気付けなかった。というか、音も無く隣に立つのは止めてもらいたいんだが……
「ちょっとタカトシに協力してもらいたいことがあってな」
「はぁ……今日は急ぎの案件もありませんので、悪戯に付き合うくらいなら構いませんが」
「そうかそうか……ん? 私、悪戯を手伝ってくれなんて言ってないよな?」
「顔に書いてありますよ」
相変わらず人の考えを読み取る能力に長けているな……普通相手の顔から考えを読み取るなんて難しいと思うんだが。
「実はさくらたんを使ったドッキリを思いついてな」
「この間の首を取ったら誰もいないってやつじゃないですよね?」
「あれは失敗だったからな」
そもそもタカトシ相手にドッキリを仕掛けたのが失敗だった。こいつは人の気配とかを感じ取れるので、私がさくらたんの中にいることは最初から分かっていたのだ。だから首を取って顔が出てこなくても驚くことすらしなかったのだ。
「今度はタカトシが中に入り、私が声を担当するんだ」
「声?」
「ロッカーから声を出すから、タカトシはロッカーの前に立っていてくれ。それでアリアたちが勘違いしたところで私が顔を出すから」
「畑さんがロッカーに隠れる回数が増えてるからって、シノ会長がロッカーの中に入る必要は無いと思うんですけど」
「いいからやるのー!」
全く以て乗り気ではないタカトシだが、これはタカトシの協力が無ければ成功しないドッキリなのだ。私のストレス解消のためにも協力してもらわなければ。
「手伝うと言ったからには手伝いますが……」
「何だ?」
意味ありげな視線をこちらに向けてくるタカトシに、私は一抹の不安を抱きながら尋ねる。
「どんな結果になったとしても自己責任ですからね」
「そ、そう言われると怖くなってきたな……だが、必ず成功するはずだ」
タカトシは何か失敗要素が見えているようだが、私のビジョンには失敗要素などない。これならアリアも萩村も驚いてくれるだろうな。
スズちゃんと二人で見回りをして生徒会室に戻る途中、カエデちゃんとすれ違った。
「カエデちゃんも見回り?」
「ええ。ここ最近不要なものを持ち込んでいる人が増えているので、取り締まり強化中なんです」
「ですが、二年のフロアで五十嵐先輩を見かけたことありませんが」
「二年には……タカトシ君がいるから」
「一年のフロアでも見たことないですねー」
「コトミちゃん、こんにちはー」
いきなり現れたコトミちゃんにスズちゃんは驚いたようだが、私は普通に挨拶を交わす。
「だ、男子がいるフロアはちょっと……」
「相変わらずですね~。そんなんじゃタカ兄と結ばれた時大変ですよ~?」
「た…タカトシ君と、む…結ばれる……!?」
「カエデ先輩も私のお義姉ちゃん候補ですからね~」
「バカなこと言ってないで、さっさと帰って勉強でもしたら? タカトシに報告するわよ」
「そ、それだけはご勘弁を!」
スズちゃんに脅され、コトミちゃんは逃げてしまう。もう少しお話したかったけど、コトミちゃんの成績を考えたら仕方ないわよね。
「それじゃあ五十嵐先輩、私たちもこれで」
「………」
「夢想の世界に行っちゃってるね」
タカトシ君との新婚生活でも想像しているのか、カエデちゃんは私たちのことなど視界に入っていないようだった。
「まったく、コトミのヤツには困ったものですね」
「でも、タカトシ君とカエデちゃんが一緒にいても絵になると思うし、コトミちゃんがそんなこと考えるのも仕方ないと思うよ~。もちろん、負けるつもりは無いけど」
今のところタカトシ君の彼女候補筆頭はサクラちゃんで、二番手がカエデちゃん辺り。私だって三番手争いをしているし、そろそろ本気でタカトシ君とお付き合いをしたいところなのだが……
「同盟があるからね」
「なんです?」
乙女同盟によりタカトシ君が自分から誘ってくれない限り行動に出られないのだ。
「戻りました……あれ? さくらたんだ」
「やぁ(シノボイス)」
「シノちゃんが入ってるんだ」
普段はタカトシ君が入っているので抱き着くことはできないが、シノちゃんが入ってるなら別だ。
「さくらたんかわいー」
「私も抱き着いてみたかったんですよね」
普段我慢していたので、私とスズちゃんは思いっきりさくらたんに抱き着く。着ぐるみだからもう少し硬いのかと思っていたが、意外と柔らかい。これは抱き心地が良くて癖になりそう……
「こらー!」
「「っ!?」」
さくらたんに抱き着いていた私たちに、ロッカーから出てきたシノちゃんが大声で詰め寄って来る。
「し、シノちゃんっ!? でもさくらたんからはシノちゃんの声が――」
「ロッカーに隠れて私が声を出してたの! それで頭を外したらタカトシだったってドッキリをしたかったのに」
「だから言ったんですよ。どうなっても知らないって」
タカトシ君が顔を出して呆れた視線をシノちゃんに向けている。どうやらタカトシ君はこう言うことも想定していたようだが、シノちゃんはしていなかったようだ。
「それにしても、良くタカトシも手伝ったわね」
「まぁ、今日は時間に余裕があったからな」
スズちゃんとタカトシ君が話している横で、シノちゃんは抱き着けなかったことを後悔しているような視線でタカトシ君を見詰めていた。
シノは悪戯しない方が良いと思う