桜才学園での生活   作:猫林13世

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ただの体育で気にし過ぎかと


ラストスパート

 今日の体育は陸上ということで、私はネネと二人で走っている。ここでムツミと勝負しようなんて思うやつはいないだろうし、たとえ勝負を挑んだとしてもあっという間に置いていかれるのがおちだから。

 

「ほらネネ、もう少しなんだから頑張りなさいよ」

 

「もう少しって言われても……」

 

 

 既にムツミに二周差を付けられているいるので、もう少しと言われてもやる気は出ないだろう。だが何時までもグダグダ走っていても仕方が無いので、言葉でネネのお尻を叩いたのだが、やはり効果は無さそうだ。

 

「あっ、タカトシがゴールしたみたいね」

 

「相変わらず津田君以外の男子は駄目駄目みたいだね」

 

「というか、タカトシ以外は私たちと大差ないじゃないのよ」

 

 

 男子の方が先にスタートしているにも拘わらず、タカトシ以外の男子はムツミよりも遅いタイムで走っている。これはムツミが早いのか男子たちが遅いのか分からない感じだけども、一位とだいぶ離れているという点では私たちと一緒だ。

 

「ほら、ラストスパート」

 

「まだ一周残ってるよ……」

 

 

 何だか介護してるみたいな感じだけども、私もこのペースで漸くといった感じなのでネネのことをとやかくは言えない。それでも相手をはげませる元気が残ってる分、私よりネネの方が体力があるということなのだろう。

 

「ゴール……」

 

「お疲れ様ー」

 

「ムツミは元気そうね……」

 

「そりゃ、ゴールしてから時間が経ってるしね」

 

 

 私たちより大分先にゴールしているからなのか、それとも元々の体力の差かは分からないが、ムツミはピンピンしている様子だ。

 

「それにしても、ラストスパートって上手くできないものなんだね……スズちゃんより先にゴールしようと思ったんだけど……」

 

「残り半周でスパート掛けたから焦ったけど、すぐにバテたもんね」

 

「ムツミちゃんは何時ラストスパートを掛けたの?」

 

「特に意識してなかったから分からないかな。スタートしてからずっと同じペースだったような気もするし」

 

「それはそれで凄いわね……」

 

 

 初めからあのペースで走ってタイムが落ちないのは本当に凄い。私がムツミのペースで走ろうものなら、恐らく二周目が終わった辺りで体力の限界が訪れていただろう。

 

「そんなことより、タカトシ君に負けたのが悔しい」

 

「そもそも男子と女子とでは周回数が違うじゃないのよ……」

 

「それでも先にゴールしたかったのに!」

 

 

 男子の方が女子より三周程多いので、スタートも男子の方が先。同じタイミングでスタートしたら、男子が女子の後ろで何かするかもという考慮もあっての時差スタートだが、それでもムツミはタカトシに負けたのが悔しい様である。

 

「タカトシ君はラストスパートって掛けた?」

 

「いや? 下手にペースを変えると脚にダメージが掛かるし。まだやることが残ってるのにそんなことしない」

 

「やること?」

 

「家に帰ってからも色々あるもんね、アンタは」

 

「まぁね……というか、ちょっと棘を感じるのは気のせい?」

 

「気のせいでしょ」

 

 

 私やネネはラストスパートを掛けてこのタイムだったというのにこの二人は――という気持ちが無かったわけではない。なので多少の棘を感じても仕方が無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育で体力を使ったからご飯で回復しておかないと。そう思って私はチリと二人で食堂に来ている。

 

「今日の体育は疲れたよね~」

 

「そう言いながらがっつりご飯が食べられるアンタが凄い」

 

「?」

 

 

 身体を動かせばお腹が空く。お腹が空けばがっつり食べるのは普通だと思うのだけど、チリは何故か箸が進んでいない。

 

「相変わらず食い意地よね……アンタが食べてるの見てるとこっちの食欲が失せるわ」

 

「そうなの?」

 

「まぁ、食べ方が汚くないから良いんだけどね」

 

「ふーん?」

 

 

 チリが何を考えているのかよく分からないけど、とりあえず一緒にいて不快な思いをさせていないということで安心した。

 

「それにしても相変わらずタカトシ君は凄いな」

 

「何? 何でいきなり津田君の話?」

 

「だって、運動部に所属してるわけでもないのにあのタイムでしょ? こっちは毎日身体を動かしてるのに……」

 

「いや、男子と女子とで争ってる時点で、アンタの方が凄いでしょ」

 

「でもさー……」

 

 

 勉強では全く歯が立たないのだから、得意分野でくらいは勝ちたいと思うのは普通だと思う。それでも勝てないんだから悔しがるのは当然ではないか。

 

「タカトシ君ってあんまり食べてるイメージがないのに、何であんなに体力があるんだろう」

 

「コトミとか生徒会の相手をしてるからじゃね?」

 

「どういうこと?」

 

「アンタには分からないか」

 

「?」

 

 

 チリが何を言っているのか分からなかったので聞こうと思ったのだが、私はそれ以上に重大なミスに気付いてしまった。

 

「おかずがまだ残ってるのにご飯がもう無い!? ラストスパートミスった!?」

 

「おかわりしたいんだろ? 言い訳じみたこと言ってないで貰ってくれば良いだろ」

 

「そんなつもりは無かったんだけど、おかずだけじゃ寂しいもんね」

 

「はいはい、そういうことにしておいてやるよ」

 

 

 チリは何かを疑っているようだが、私は最初からおかわりするつもりではなかった。これは本当だ。

 

「(あんまりたくさん食べたら午後の授業が眠くなっちゃうし……)」

 

 

 ただでさえ成績が危ないのだ。授業態度で減点されたら部活補正も意味が無くなってしまう。なので私はお腹いっぱいまで食べないようにしているのだけども、どうしても眠くなっちゃうんだよね……今度タカトシ君に相談してみよう。




ムツミのはただ食べたいだけ

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