桜才学園での生活   作:猫林13世

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叶って欲しい夢だな……


タカトシの夢

 散々畑さんにからかわれたので、私もちょっと仕返しをしたくなった。

 

「人にばかり聞いていますけど、畑さんは昨日どのような夢を見たんですか?」

 

「そうだな。我々だけ夢の話をするのはフェアじゃない。畑の夢を教えろ」

 

「夢なら毎日見ていますよ。一流のジャーナリストになる夢をね!」

 

「カッコつけようとしても無駄だからな? しっかりと話すまで解放しない」

 

 

 私と天草さんで左右をがっちりと固め、畑さんを逃がさないように抑え込む。正面に七条さんが回ってくれたので、これで畑さんが逃げ出すことはできなくなった。

 

「夢と言われましても、私は昨日寝ていませんので」

 

「そんな夜更かしをしていたのか?」

 

「津田先生のエッセイを纏めたものを作成中でして、その編集で忙しいのです」

 

「以前学内オークションで売り出していたものとは別のをですか?」

 

「今回は以前のものとは別のエッセイを収録しており、数量限定で販売する予定です」

 

 

 畑さんの話に私だけではなく、天草さんや七条さん、萩村さんの興味も惹かれたようだ。タカトシ君のエッセイが掲載されている桜才新聞は全て保管してあるとはいえ、徐々に保管する場所が無くなってきているのが現状だ。バックナンバーが図書室に保管されているが、それだって何時までも保管されているわけでもないし、現物を手にできなかった人たちが大量に読んでいるのでところどころ擦れ始めている。

 

「具体的な数量はどの程度を考えているんだ?」

 

「そうですね……部費と相談しながら作るので、今のところ三十が限界といったところでしょうか」

 

「お前、タカトシのエッセイのお陰でだいぶ懐が温かいんだろう? もうちょっと頑張れないのか?」

 

「そんなこと言われても困りますよ。私の個人資産から出すと言っても限度がありますし、カメラの新調や新人部員の育成などでだいぶ使っていますので」

 

「もしあれだったら、七条グループの印刷所を紹介するから格安にできるよ~?」

 

「それはありがたい申し出ですね。ですが、渡せる対価がありませんので……」

 

「私に一冊くれるだけで十分だよ~」

 

「では、もしもの時はお願いします」

 

 

 七条さんの家の力に対抗できる人なんてこの学園にはいない。七条さんが無条件で一冊手に入れられるのは狡いと思うけど、そのお陰で大勢のファンの手に行き渡るようになるのならと考えると、文句を言うに言えなくなってしまう。そう思っているのは私だけではなく、天草さんも同じのようだ。

 

「ところで、いったいいくらでの販売予定なんだ?」

 

「そうですね……まだ確定ではないですが、このくらいですね」

 

 

 畑さんが提示した金額に、私と天草さんは自分の財布に視線を落とし、少しバイトした方が良いかもしれないと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横島先生とコトミを同時に説教していた所為でだいぶ遅くなってしまったが、何故か生徒会室には三人の他に畑さんとカエデさんの気配が……

 

「何をしてるんだ?」

 

 

 また畑さんが怒られているのかとも思ったが、生徒会室から流れてくる雰囲気はそのような怒気を孕んでいない。

 

「遅れました」

 

「あっ津田先生! 津田先生は昨日、どのような夢を見ましたか?」

 

「夢? なんですかいきなり」

 

 

 畑さんが慌てて後ろに隠したメモ帳には、何かエッセイを纏めた本の出版計画が書かれていたが、とりあえずそのことは後回しにしよう。

 

「今度桜才新聞で夢占い特集を組もうと思いまして。皆さんにインタビューしているんです」

 

「夢占い特集ですか……意外とまともな特集を用意しましたね」

 

「そりゃ、新聞部の存続に関わるので、ふざけた企画を提案しようものなら部員からクレームが入りますから」

 

 

 散々厳重注意を受けているからか、畑さんが暴走しそうになったら部員が止めてくれるようになったのだ。これはこれで成果なのだろうかと首をかしげたくなるが、とりあえず暴走の頻度が減ったのは成果だと思おう。

 

「お手伝いしたいところですが、生憎夢など見なかったものでして」

 

「津田先生も?」

 

「見てないというか、まともに寝てないので」

 

「何かあったのか?」

 

「コトミやクラスメイト、後は広瀬さん用のテスト対策テキストを作っていたらいつの間にか朝になっていましたので」

 

「それでは一昨日の夢でも構いません」

 

 

 そんな事言われても覚えてないんだよな……

 

「あっ。じゃあコトミと横島先生と畑さんが真面目になって、俺が怒らなくてもよくなった夢で」

 

「お主、皮肉を交えてくるとはなかなかやるな……」

 

 

 夢というより願望に近い内容だが、もしこれが叶えばもう少し時間に余裕ができるだろう。そうなればもう少し高校生らしい生活が送れるかもしれない。

 

「それはぜひとも現実になって欲しい夢ですね。私も問題児が減れば風紀委員長として嬉しいですし」

 

「と、とりあえず津田先生は夢を見なかったということで掲載しておきますので! では、私はこれにて失礼します!」

 

「あぁ、エッセイを纏めた本の出版は、作者権限で却下しますので」

 

「そ、そんな!」

 

「……何故畑さん以外もショックを受けたような顔をしてるんですか?」

 

 

 どうやら内々に売買契約でも結んでいたのか、会長やアリア先輩、カエデ先輩とスズもがっかりしている。ほんと、先手を打って潰せて良かったな。




あり得ないでしょうけども、叶うと良いですね

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